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内定者エッセイ
講談社採用ホームページ名物の「内定者エッセイ」。
今年度もバラエティ豊かな23名の内定者が、受験するにあたっての決意、面接に向けた奇策、
試験を経て得たことなどなど、とことん本音の就活体験を綴っています。
でも、これらはヒントにこそなれ、答えにはなりません。
23名23通りの「ありのまま」をご覧いただきつつ、あなただけの就活物語を紡いでいってください。
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ドアノブから手をはなす
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
ドアというものがいつ発明されたのかはわからない。けれど、発明された当初から、「開けたら閉める」がルールとして存在していたのは間違いない。ドアは、開けると閉める、ふたつの動作が伴って、初めて完成するものなんだと思う。 私は、そんなドアの完成に失敗した人間のひとりだ。昨年の入社試験をなんとか突破してこじ開けた講談社というドア。私は見事にそいつを閉め忘れた。ドアの隙間から伸びてきた留年の魔の手に引きずり込まれ、気がつけば私は、一年前に通過したはずのESのドアの前で、現在進行形の「人生最大の失敗」について240文字でまとめる術を探していた。 時は流れて、大一番の三次面接。日記によると前日の私は、漂白剤で落ちていく油汚れに「悪いな」と謝っていた。普通に考えて、油汚れに謝るような精神状態の人間は、面接なんか受けない方がいい。案の定、私は再び失態を晒すことになる。 「ダーン!」面接室に響き渡る爆音。出どころは入り口、たったいま開けたドア。やってしまった。文字通り、ドアを閉め忘れたのである。就活虎の巻によれば、入室時はドアノブから手をはなさず、そっと閉めるのがマナー。私の入室は、NGド真ん中の大失敗ということになる。 思い返せば、いつもそうだった。初めて本気でした恋も、大学で始めたお笑いも、昨年もらった内定も、肝心なところでなぜかいつも、ドアノブから手をはなしてしまう。私の人生の道のりには、閉め忘れたままのドアがいくつも並んでいて、きっとこのドアもまた、そんな未完成のドアのひとつだったということなんだろう……。 そのとき、予想外の音が聞こえた。笑い声だ。左端の強面の面接官が、腹を抱えて笑っている。ドアひとつロクに閉められない未完成な私を、心底おかしそうに笑ってくれているのだ。心のつっかえが、油汚れが漂白されていく気がした。 「悪いな」 どうやら、私はここでなら、ドアノブから手をはなせるみたいだ。
ESSAYドアノブから手をはなす文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性
/コミック志望ドアというものがいつ発明されたのかはわからない。けれど、発明された当初から、「開けたら閉める」がルールとして存在していたのは間違いない。ドアは、開けると閉める、ふたつの動作が伴って、初めて完成するものなんだと思う。
私は、そんなドアの完成に失敗した人間のひとりだ。昨年の入社試験をなんとか突破してこじ開けた講談社というドア。私は見事にそいつを閉め忘れた。ドアの隙間から伸びてきた留年の魔の手に引きずり込まれ、気がつけば私は、一年前に通過したはずのESのドアの前で、現在進行形の「人生最大の失敗」について240文字でまとめる術を探していた。
時は流れて、大一番の三次面接。日記によると前日の私は、漂白剤で落ちていく油汚れに「悪いな」と謝っていた。普通に考えて、油汚れに謝るような精神状態の人間は、面接なんか受けない方がいい。案の定、私は再び失態を晒すことになる。
「ダーン!」面接室に響き渡る爆音。出どころは入り口、たったいま開けたドア。やってしまった。文字通り、ドアを閉め忘れたのである。就活虎の巻によれば、入室時はドアノブから手をはなさず、そっと閉めるのがマナー。私の入室は、NGド真ん中の大失敗ということになる。
思い返せば、いつもそうだった。初めて本気でした恋も、大学で始めたお笑いも、昨年もらった内定も、肝心なところでなぜかいつも、ドアノブから手をはなしてしまう。私の人生の道のりには、閉め忘れたままのドアがいくつも並んでいて、きっとこのドアもまた、そんな未完成のドアのひとつだったということなんだろう……。
そのとき、予想外の音が聞こえた。笑い声だ。左端の強面の面接官が、腹を抱えて笑っている。ドアひとつロクに閉められない未完成な私を、心底おかしそうに笑ってくれているのだ。心のつっかえが、油汚れが漂白されていく気がした。
「悪いな」
どうやら、私はここでなら、ドアノブから手をはなせるみたいだ。
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「記念受験」を超えて
理系・関西・大学院修了見込み/女性/マーケティング・プロモーション志望
「ねえ、もう受ける業界決めた?」――就職活動がはじまり、頻繁に交わされるようになったこの質問を聞くたび、私は苦笑いを浮かべていた。 「食品業界を受けるけど、実は、出版社も一応記念受験してみようかなって……」 「出版社」の部分を超小声かつ早口で言いながら、私は一体何にこんなに怯えているのだろうと、不思議に思った。 理系院生、地方在住、家にテレビはないし、日本から出たこともない。読書量にも自信がない。そもそも好きなことを仕事にしていいのか、できるほど本が好きなのか? 毎日うだうだ悩みながら、採用HPを眺めてため息をついていた。 正直に言えば、出版社を諦める理由が欲しかった。オンラインOB訪問をし、インターンに参加しながら、ひたすら嫌なところを探していた。しかし講談社の方が、「仕事? 楽しいよ、そりゃ辛いときもあるけどね、そこを救ってくれるのもやっぱり本なんだよね」。そう、目をきらきらさせて話す姿をみて、気づけば、私もこういう大人になりたいと強く思っていた。 「一応」「記念に」「どうせ無理だけど」出版社を受ける。出版社に憧れるあまり出版社に否定されたら立ち直れない気がしていて、だからきっとこれらの言葉は、落ちたとき自分が傷つかないための保険だった。そして、膨大な量の業界研究や自己分析に怯む気持ちを「どうせ運だし」で片付けようとしていた。 「なぜ出版社を受けるのか」「講談社で何をしたいのか」、半年以上考え続けて、私は「記念受験」と言うのを止めた。何度自問自答しても、やっぱり物語が好きで、物語を届けたくて、これは、私の一生を懸けるに値する仕事だと思った。受かるかどうかは運で決まるとしても、対策も妥協せず納得のゆくまでやろうと決めた。 辿り着いた面接で私は、「本、好きそうだねえ」と言われて「はい!」と胸を張った。臆病で卑屈な自分と向き合い、悩み続けた時間は、いつしか小さな自信へと変わっていた。
ESSAY「記念受験」を超えて理系・関西・大学院修了見込み/女性
/マーケティング・プロモーション志望「ねえ、もう受ける業界決めた?」――就職活動がはじまり、頻繁に交わされるようになったこの質問を聞くたび、私は苦笑いを浮かべていた。
「食品業界を受けるけど、実は、出版社も一応記念受験してみようかなって……」
「出版社」の部分を超小声かつ早口で言いながら、私は一体何にこんなに怯えているのだろうと、不思議に思った。
理系院生、地方在住、家にテレビはないし、日本から出たこともない。読書量にも自信がない。そもそも好きなことを仕事にしていいのか、できるほど本が好きなのか? 毎日うだうだ悩みながら、採用HPを眺めてため息をついていた。
正直に言えば、出版社を諦める理由が欲しかった。オンラインOB訪問をし、インターンに参加しながら、ひたすら嫌なところを探していた。しかし講談社の方が、「仕事? 楽しいよ、そりゃ辛いときもあるけどね、そこを救ってくれるのもやっぱり本なんだよね」。そう、目をきらきらさせて話す姿をみて、気づけば、私もこういう大人になりたいと強く思っていた。
「一応」「記念に」「どうせ無理だけど」出版社を受ける。出版社に憧れるあまり出版社に否定されたら立ち直れない気がしていて、だからきっとこれらの言葉は、落ちたとき自分が傷つかないための保険だった。そして、膨大な量の業界研究や自己分析に怯む気持ちを「どうせ運だし」で片付けようとしていた。
「なぜ出版社を受けるのか」「講談社で何をしたいのか」、半年以上考え続けて、私は「記念受験」と言うのを止めた。何度自問自答しても、やっぱり物語が好きで、物語を届けたくて、これは、私の一生を懸けるに値する仕事だと思った。受かるかどうかは運で決まるとしても、対策も妥協せず納得のゆくまでやろうと決めた。
辿り着いた面接で私は、「本、好きそうだねえ」と言われて「はい!」と胸を張った。臆病で卑屈な自分と向き合い、悩み続けた時間は、いつしか小さな自信へと変わっていた。
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「雨の日、内定を辞退した」
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
5月5日、雨の降る日。私は講談社に内定辞退の連絡を入れた。 私には、すごく行きたい会社が二つあった。一つは講談社で、もう一つの会社からは、講談社の最終面接前日に内定をもらっていた。 できる努力を全てして、憧れの二社から内定をもらえた。正直、めちゃくちゃ浮かれた。浮かれた私は、信頼する人たちからの「あなたはこっちが合ってる」という言葉を頼りに、講談社の辞退を決めた。 電話で講談社の採用担当者は言った。「自分で納得してるならその結論を尊重します。でもあなたの人生だから、絶対に焦らないでたくさん悩んで欲しい」。怒られるとばかり思っていた私は驚いたが、「納得してます。辞退します」と言った。私の就活はここで終わるはずだった。 だけど、電話を切ると手と足の先が冷たくなっていた。「私は本当にたくさん悩んだのか」と思った。自分で人生を選ぶ、その当たり前の重みに慄いて、焦って就職先を決めてしまったのではないか。 あ、やばい。今日のことを私は一生後悔するかもしれない。そう思ったら、眠れなくなった。 辞退した日から5日目の明け方、ルール違反を承知で講談社の採用担当者に「もう一度悩ませていただけませんか」とメールした。すぐに、あたたかい返信がきた。 講談社を辞退しそして猛烈に後悔してやっと、就活はゲームではなく、今日と地続きの未来を、素手で掴み取っていく生々しく複雑な現実なのだと理解した。 その日からたくさんの大人に時間をもらって私は、条件や評判や信頼する人の言葉ではなく、自分自身の気持ちと向き合う本当の就活を始めることが出来た。 ある社員さんが「講談社の人はよく喧嘩してすぐ忘れる」と笑っていた。我儘を言いまくった私は、とにかく建前なく本気をぶつけ合う護国寺の雰囲気に、どうしようもなく惹かれていった。 5月17日、ジメジメした曇りの日。私は講談社に行くことを決めた。背筋を伸ばして深呼吸すると、体がぽかぽかして、ちょっとだけ涙が出た。
私には、すごく行きたい会社が二つあった。一つは講談社で、もう一つの会社からは、講談社の最終面接前日に内定をもらっていた。
できる努力を全てして、憧れの二社から内定をもらえた。正直、めちゃくちゃ浮かれた。浮かれた私は、信頼する人たちからの「あなたはこっちが合ってる」という言葉を頼りに、講談社の辞退を決めた。
電話で講談社の採用担当者は言った。「自分で納得してるならその結論を尊重します。でもあなたの人生だから、絶対に焦らないでたくさん悩んで欲しい」。怒られるとばかり思っていた私は驚いたが、「納得してます。辞退します」と言った。私の就活はここで終わるはずだった。
だけど、電話を切ると手と足の先が冷たくなっていた。「私は本当にたくさん悩んだのか」と思った。自分で人生を選ぶ、その当たり前の重みに慄いて、焦って就職先を決めてしまったのではないか。
あ、やばい。今日のことを私は一生後悔するかもしれない。そう思ったら、眠れなくなった。
辞退した日から5日目の明け方、ルール違反を承知で講談社の採用担当者に「もう一度悩ませていただけませんか」とメールした。すぐに、あたたかい返信がきた。
講談社を辞退しそして猛烈に後悔してやっと、就活はゲームではなく、今日と地続きの未来を、素手で掴み取っていく生々しく複雑な現実なのだと理解した。
その日からたくさんの大人に時間をもらって私は、条件や評判や信頼する人の言葉ではなく、自分自身の気持ちと向き合う本当の就活を始めることが出来た。
ある社員さんが「講談社の人はよく喧嘩してすぐ忘れる」と笑っていた。我儘を言いまくった私は、とにかく建前なく本気をぶつけ合う護国寺の雰囲気に、どうしようもなく惹かれていった。
5月17日、ジメジメした曇りの日。私は講談社に行くことを決めた。背筋を伸ばして深呼吸すると、体がぽかぽかして、ちょっとだけ涙が出た。
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ガクチカって何ですか?
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/学芸・学術志望
「あ、ガクチカってのはなんなの?」 「ガクチカというのは、『学生時代力を入れたこと』の略です。」 「へぇー、今の学生はそんな言葉使うんだ」 やりとりが交わされたのは、講談社の二次面接だった。 本社に足を運び、初めて講談社の面接官と顔を合わせた二次面接。緊張していた私はその時違和感に気づけなかったが、面接の手ごたえの無さに震えながら布団に入ったその夜思った。 「面接官なのに全然就活チックな言葉知らないじゃん!」 マスコミの採用面接は一風変わったものが多いと言われている。講談社も例に漏れない。定型的な答えのない難しい質問がいくつもあった。特技欄に書いた口笛を披露してくれと面接官に言われたこともあった。しかし、先の会話が何より印象に残っている。「就活感」の無さの象徴だったからだろう。 私は出版社以外の業界もいくつか受けた。説明会やES講座で人事が口をそろえて言うのは、「ガクチカは何らかの数値目標を達成したものが望ましい」ということだ。 逐一数値目標を掲げて学生生活を送っている人なんているのだろうか。模範的ガクチカ作りに躓いた私は、日焼けサロンでの刺激的なアルバイト経験をガクチカとしてひたすら話すことにした。数値目標もへったくれもない話だ。 案の定一次面接落ちが続いた。しかし、4月、私のガクチカを面白がって聞いてくれる企業が現れた。講談社だ。 「どんな人が日焼けサロンに来るの?」「いままでで一番怖かったお客さんは?」 異常な食いつきで私の話を聞いてくれる。最終面接で社長は開口一番こう言った。「君の日焼けサロンの話が面白いと聞いているよ、まずはその話から聞きたい」 ストレスの連続だった就活の中で、講談社の面接は楽しかった。私の「面白い」という気持ちに耳を傾けてくれたからだ。 残念ながら、絶対いるとは断言できない。それでも、期待し続けてほしい。あなたの「面白い」を聞きたがっている人がいることを。
ESSAYガクチカって何ですか?文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性
/学芸・学術志望「あ、ガクチカってのはなんなの?」
「ガクチカというのは、『学生時代力を入れたこと』の略です。」
「へぇー、今の学生はそんな言葉使うんだ」
やりとりが交わされたのは、講談社の二次面接だった。
本社に足を運び、初めて講談社の面接官と顔を合わせた二次面接。緊張していた私はその時違和感に気づけなかったが、面接の手ごたえの無さに震えながら布団に入ったその夜思った。
「面接官なのに全然就活チックな言葉知らないじゃん!」
マスコミの採用面接は一風変わったものが多いと言われている。講談社も例に漏れない。定型的な答えのない難しい質問がいくつもあった。特技欄に書いた口笛を披露してくれと面接官に言われたこともあった。しかし、先の会話が何より印象に残っている。「就活感」の無さの象徴だったからだろう。
私は出版社以外の業界もいくつか受けた。説明会やES講座で人事が口をそろえて言うのは、「ガクチカは何らかの数値目標を達成したものが望ましい」ということだ。
逐一数値目標を掲げて学生生活を送っている人なんているのだろうか。模範的ガクチカ作りに躓いた私は、日焼けサロンでの刺激的なアルバイト経験をガクチカとしてひたすら話すことにした。数値目標もへったくれもない話だ。
案の定一次面接落ちが続いた。しかし、4月、私のガクチカを面白がって聞いてくれる企業が現れた。講談社だ。
「どんな人が日焼けサロンに来るの?」「いままでで一番怖かったお客さんは?」
異常な食いつきで私の話を聞いてくれる。最終面接で社長は開口一番こう言った。「君の日焼けサロンの話が面白いと聞いているよ、まずはその話から聞きたい」
ストレスの連続だった就活の中で、講談社の面接は楽しかった。私の「面白い」という気持ちに耳を傾けてくれたからだ。
残念ながら、絶対いるとは断言できない。それでも、期待し続けてほしい。あなたの「面白い」を聞きたがっている人がいることを。
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広げた風呂敷は畳まない
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/海外事業志望
完璧な「私」を作り、認めてもらう。それが就活だと思っていた。 私の就活は比較的順調だった。早い段階から対策を練り、50頁を超える問答集を自作し万全の面接対策をして臨んでいた。数多のインターンを受け、企業が求める「私」を作り出す。しかし何にでもなれたはずの自分の可能性が一日一日狭まっているような気がして、気が休まる時がなかった。 死に物狂いで内定を1つ掴み取ったとき、ふと頭にこれで終わっていいのか? という疑問がよぎった。面接で見せるべきだったのは「求められている理想の私」ではなくて、「私が求めている理想の私」だったのではないか。私はこの企業で一体何がしたかったのだろう。 過去の自分を見つめ直すべく、自身のツイッターをスクロールする。5年前の留学先でのツイートが目に入った。 「日本の漫画やアニメがこれほど外国で親しまれていると思わなかった。こちらでも気軽にグッズとか買えたらいいのに」 強烈な自分の「やりたい」を思い出した。好きなものを通じて、全く異なるバックグラウンドを持つ人と繋がる瞬間を広げたい。「日本から来た」と言葉を重ねて説明するより余程「あの漫画の国から来たの!」と言う方が強く伝わる、あの感覚。 夏以来殆ど触れていなかった出版社を受けることを決意した。時は既に3月。ESは締め切り1時間前滑り込みでの提出だった。他の企業のような「完璧」な面接対策は出来ていない。ひたすら私はこれがしたいんです!! と絶叫していたような気がする。最新の作品について聞かれて何度か答えられないことすらあった。 それでも、面接官の方々は私の「やりたい」にとても真摯に向き合ってくれた。 「やりたい」を叫び続けた結果、私は今こうして内定者としてエッセイを書いている。あの時、疑問を飲み下して、自分を納得させなくてよかったと思う。就活は広げた風呂敷を畳まなくてもいい場だ。全ての自分の可能性を盤上に置くつもりで「やりたい」を探そう。
ESSAY広げた風呂敷は畳まない文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性
/海外事業志望完璧な「私」を作り、認めてもらう。それが就活だと思っていた。
私の就活は比較的順調だった。早い段階から対策を練り、50頁を超える問答集を自作し万全の面接対策をして臨んでいた。数多のインターンを受け、企業が求める「私」を作り出す。しかし何にでもなれたはずの自分の可能性が一日一日狭まっているような気がして、気が休まる時がなかった。
死に物狂いで内定を1つ掴み取ったとき、ふと頭にこれで終わっていいのか? という疑問がよぎった。面接で見せるべきだったのは「求められている理想の私」ではなくて、「私が求めている理想の私」だったのではないか。私はこの企業で一体何がしたかったのだろう。
過去の自分を見つめ直すべく、自身のツイッターをスクロールする。5年前の留学先でのツイートが目に入った。
「日本の漫画やアニメがこれほど外国で親しまれていると思わなかった。こちらでも気軽にグッズとか買えたらいいのに」
強烈な自分の「やりたい」を思い出した。好きなものを通じて、全く異なるバックグラウンドを持つ人と繋がる瞬間を広げたい。「日本から来た」と言葉を重ねて説明するより余程「あの漫画の国から来たの!」と言う方が強く伝わる、あの感覚。
夏以来殆ど触れていなかった出版社を受けることを決意した。時は既に3月。ESは締め切り1時間前滑り込みでの提出だった。他の企業のような「完璧」な面接対策は出来ていない。ひたすら私はこれがしたいんです!! と絶叫していたような気がする。最新の作品について聞かれて何度か答えられないことすらあった。 それでも、面接官の方々は私の「やりたい」にとても真摯に向き合ってくれた。
「やりたい」を叫び続けた結果、私は今こうして内定者としてエッセイを書いている。あの時、疑問を飲み下して、自分を納得させなくてよかったと思う。就活は広げた風呂敷を畳まなくてもいい場だ。全ての自分の可能性を盤上に置くつもりで「やりたい」を探そう。
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『SUPERSONIC』
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/ファッション・ライフスタイル志望
大学卒業後、マンチェスターで羊飼いになりたい。それが最もクールな仕事だと思うから。 私が就活を始めたのは、この美しい目標を周囲が認めてくれなかったからである。 私は働きたくなかった。人生はスーパーソニックな儚い煌めきだから。限りある耽美な世界において、停滞は許されなかった。スーツを着たくなかった。髪を短くしたくなかった。そして、よくわからない壮大なスローガンに対して、ほんの微々たる関与すらしたくなかった。私は、いつまでも健やかな夢の中で生きていたかったのだ。 このような心持ちであるから、就活は困難を極めた。嘘の志望動機を書き続けていると、自分が何者かわからなくなった。次落ちたらリタイアするか。羊飼いってどうやったらなれるのだろう。そんなことを考えていた。 初めて講談社の採用ページを見たのは、ES締め切りの2週間前だった。 社員の方々に、心惹かれる健やかさがあった。 そして、講談社が成し遂げてきた仕事のいくつかは、私に重要な影響を与えていた。 クールな会社だと思った。 ……ここで働きたいな。 瞬間、私の成すべき仕事がはっきりと見えた。 「はみ出し者」を救う。 自分の居場所がどこにも無くて、誰にも気づかれずにここではないどこか(例えばマンチェスター)へ逃げてしまいたいと思っている人たちの居場所をつくる。 ESは体重をかける気持ちで書いた。私という人間の質量が読み手に伝わるように。 面接では、流暢でなくとも自分の言葉で伝えるようにした。それは大抵の場合、不恰好で不十分だが、講談社は人間らしいコミュニケーションを理解してくれた。 振り返ってみると、私が一貫して行なっていたことは、自分を信じ愛することだったのかもしれない。劣等感や幼稚ささえも受け入れる愛を持つこと。そして、講談社にも愛があることを信じること。 そして今、画面の割れたiPhoneでこの文章を綴っている。 I need to be myself, I can’t be no one else. 自分を信じて。きっとうまくいく。
ESSAY『SUPERSONIC』文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性
/ファッション・ライフスタイル志望大学卒業後、マンチェスターで羊飼いになりたい。それが最もクールな仕事だと思うから。
私が就活を始めたのは、この美しい目標を周囲が認めてくれなかったからである。
私は働きたくなかった。人生はスーパーソニックな儚い煌めきだから。限りある耽美な世界において、停滞は許されなかった。スーツを着たくなかった。髪を短くしたくなかった。そして、よくわからない壮大なスローガンに対して、ほんの微々たる関与すらしたくなかった。私は、いつまでも健やかな夢の中で生きていたかったのだ。
このような心持ちであるから、就活は困難を極めた。嘘の志望動機を書き続けていると、自分が何者かわからなくなった。次落ちたらリタイアするか。羊飼いってどうやったらなれるのだろう。そんなことを考えていた。
初めて講談社の採用ページを見たのは、ES締め切りの2週間前だった。
社員の方々に、心惹かれる健やかさがあった。
そして、講談社が成し遂げてきた仕事のいくつかは、私に重要な影響を与えていた。
クールな会社だと思った。
……ここで働きたいな。
瞬間、私の成すべき仕事がはっきりと見えた。
「はみ出し者」を救う。
自分の居場所がどこにも無くて、誰にも気づかれずにここではないどこか(例えばマンチェスター)へ逃げてしまいたいと思っている人たちの居場所をつくる。
ESは体重をかける気持ちで書いた。私という人間の質量が読み手に伝わるように。
面接では、流暢でなくとも自分の言葉で伝えるようにした。それは大抵の場合、不恰好で不十分だが、講談社は人間らしいコミュニケーションを理解してくれた。
振り返ってみると、私が一貫して行なっていたことは、自分を信じ愛することだったのかもしれない。劣等感や幼稚ささえも受け入れる愛を持つこと。そして、講談社にも愛があることを信じること。
そして今、画面の割れたiPhoneでこの文章を綴っている。
I need to be myself, I can’t be no one else.
自分を信じて。きっとうまくいく。
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てきとうだけどホンモノ
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/コミック志望
こんにちは。まずは私がどんな就活ライフを送っていたのか、紹介したいと思います。本編の前に、プロローグをお楽しみください。 2019年11月。21卒として就活。まあ、ITベンチャーとか? カッコ良いじゃん。 2019年12月。講談社の説明会に参加。漫画大好きだし、漫画編集なんて良さそう(笑)。2020年1月。転学部する。学年をひとつ下りて、22卒に。 2020年6月。サマーインターンに応募し、片っ端から落選。 2020年8月。辛うじて通ったサマーインターンで、新規事業立案にチャレンジ。やりがいはありそうだけど、本当にこれでいいんだろうか? 違和感に襲われ、出版業界のOB訪問を始める。 2020年10月。「一応、出版志望だし?」という言い訳を携え、漫画を読み漁る。レッツ現実逃避。 2021年1月。そろそろ真面目に就活せねば。ご無沙汰していたOBの方にES添削をお願いする。そしてボコボコに言われる。顔に「この子は無理だろう」と書いてあった。 2021年2月。やっと尻に火がつく。週に何度もESを書き直し、OB・OGの方に添削していただく。 2021年3月。選考がスタート。面接対策、本番の面接、その反省、更なる面接対策の繰り返し。 2021年4月末、内々定。 私の就活はざっとこんな感じ。前置きが長いって? 申し訳ない。しかし、なかなかに重要なのだ。 上の略歴からわかるように、私は出版業界に入るべく時間をかけて対策してきたわけではない。大いなる熱意を持って「絶対、ぜぇぇったい出版!」と思っていたわけでもない。だから最初は、控えめな志望度だった。こんな私が、出版を志望していいのだろうか? いや、志望したとして通るわけがない。私よりもっと優秀で、熱意があって、人生かけてる奴が、出版人になるのだろう。そう思っていた。 しかし、私の中にも真実はあった。漫画が、物語が好きだという心だ。物語を作って、世界中を興奮させたい。この気持ちが、例え最初は「なんとなく」程度のものだったとしても、まぎれもなくホンモノなのだ。
ESSAYてきとうだけどホンモノ文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性
/コミック志望こんにちは。まずは私がどんな就活ライフを送っていたのか、紹介したいと思います。本編の前に、プロローグをお楽しみください。
2019年11月。21卒として就活。まあ、ITベンチャーとか? カッコ良いじゃん。
2019年12月。講談社の説明会に参加。漫画大好きだし、漫画編集なんて良さそう(笑)。2020年1月。転学部する。学年をひとつ下りて、22卒に。
2020年6月。サマーインターンに応募し、片っ端から落選。
2020年8月。辛うじて通ったサマーインターンで、新規事業立案にチャレンジ。やりがいはありそうだけど、本当にこれでいいんだろうか? 違和感に襲われ、出版業界のOB訪問を始める。
2020年10月。「一応、出版志望だし?」という言い訳を携え、漫画を読み漁る。レッツ現実逃避。
2021年1月。そろそろ真面目に就活せねば。ご無沙汰していたOBの方にES添削をお願いする。そしてボコボコに言われる。顔に「この子は無理だろう」と書いてあった。
2021年2月。やっと尻に火がつく。週に何度もESを書き直し、OB・OGの方に添削していただく。
2021年3月。選考がスタート。面接対策、本番の面接、その反省、更なる面接対策の繰り返し。
2021年4月末、内々定。
私の就活はざっとこんな感じ。前置きが長いって? 申し訳ない。しかし、なかなかに重要なのだ。
上の略歴からわかるように、私は出版業界に入るべく時間をかけて対策してきたわけではない。大いなる熱意を持って「絶対、ぜぇぇったい出版!」と思っていたわけでもない。だから最初は、控えめな志望度だった。こんな私が、出版を志望していいのだろうか? いや、志望したとして通るわけがない。私よりもっと優秀で、熱意があって、人生かけてる奴が、出版人になるのだろう。そう思っていた。
しかし、私の中にも真実はあった。漫画が、物語が好きだという心だ。物語を作って、世界中を興奮させたい。この気持ちが、例え最初は「なんとなく」程度のものだったとしても、まぎれもなくホンモノなのだ。
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私のどこが好きなの?
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/校閲志望
交際相手に「私のどこが好きなの?」と聞かれたら、あなたならどう答えるだろうか。 本人が自覚していない良さを褒めるだろうか。 答えることを恥ずかしがって、分からないと濁して微笑むだろうか。 はたまた少し悩んでから、全部とつぶやくだろうか。 もちろん正解はない。ただそのときに、どれだけ後悔しないような答えにするかは非常に重要だ。 「校閲のどこが好きなの?」 私はこの質問の返しをずっと考えていた。 彼女に「私のどこが好き?」と聞かれたときに、好きなところが本当にありすぎて、散々悩んだ挙げ句「全部」と答えるような人生を送ってきた人間だ。ただその「全部」は面接では通用しない。いや通用するかしないかは分からないが、その返しでは後悔してしまう。そんな気がした。 校閲のアルバイトを始めてかれこれ4年も経つ。私は実際に校閲をしながら、校閲という名のいわゆる“彼女”と向き合いながら、ずっとその“彼女”の好きなところを考えていた。4年間片思い中の相手に対して告白の言葉を探しているようだった。 そして迎えた三次面接当日。 「それで、校閲のどこが好きなの?」 きた。この質問だ。“彼女”のご家族から愛を確かめられている! しかし実は、口を開くまで質問の返しがまとまっていなかった。 ただ気が付いたら私は校閲の好きなところを8つも熱弁していた。コワモテだった面接官たちは笑いながらそれを全部聞いてくれた。心が軽くなった瞬間だった。 言葉にできないと悔しい部分を言語化しておく。これだけを意識して面接に臨んでいた。私の場合、やや言語化しすぎてしまった気もするが。 それから何よりも「好き」を大事にしてほしい。 好きなものについて語らせてくれる。それを興味津々に聞いてくれる。そんな環境が講談社の面接には揃っている。 あなたの愛を、ラブコールを、面接官にぶつけてみてほしい。 そして入社後に私にも聞かせてほしい。あなたならではの“交際相手”との惚気話を。
本人が自覚していない良さを褒めるだろうか。
答えることを恥ずかしがって、分からないと濁して微笑むだろうか。
はたまた少し悩んでから、全部とつぶやくだろうか。
もちろん正解はない。ただそのときに、どれだけ後悔しないような答えにするかは非常に重要だ。
「校閲のどこが好きなの?」
私はこの質問の返しをずっと考えていた。
彼女に「私のどこが好き?」と聞かれたときに、好きなところが本当にありすぎて、散々悩んだ挙げ句「全部」と答えるような人生を送ってきた人間だ。ただその「全部」は面接では通用しない。いや通用するかしないかは分からないが、その返しでは後悔してしまう。そんな気がした。
校閲のアルバイトを始めてかれこれ4年も経つ。私は実際に校閲をしながら、校閲という名のいわゆる“彼女”と向き合いながら、ずっとその“彼女”の好きなところを考えていた。4年間片思い中の相手に対して告白の言葉を探しているようだった。
そして迎えた三次面接当日。
「それで、校閲のどこが好きなの?」
きた。この質問だ。“彼女”のご家族から愛を確かめられている!
しかし実は、口を開くまで質問の返しがまとまっていなかった。
ただ気が付いたら私は校閲の好きなところを8つも熱弁していた。コワモテだった面接官たちは笑いながらそれを全部聞いてくれた。心が軽くなった瞬間だった。
言葉にできないと悔しい部分を言語化しておく。これだけを意識して面接に臨んでいた。私の場合、やや言語化しすぎてしまった気もするが。
それから何よりも「好き」を大事にしてほしい。
好きなものについて語らせてくれる。それを興味津々に聞いてくれる。そんな環境が講談社の面接には揃っている。
あなたの愛を、ラブコールを、面接官にぶつけてみてほしい。
そして入社後に私にも聞かせてほしい。あなたならではの“交際相手”との惚気話を。
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ライオンの歯
理系・関東・大学院修了見込み/女性/コミック志望
22年間、毎日歩くと地球を10周できる。 ふと時間の重さを感じたくて概算した。が、すぐ後悔した。地球10周分の私には何にもない。己の怠惰さを自ら突きつけたのだった。 物理が、研究が好き。だけど人間が、漫画がもっと好き! と出版社を志し始めた頃、全部読み返した内定者エッセイ。そこでは何度も目にする言葉があった。 「曝け出す」「ありのまま」 …みんな心臓の毛、ボーボーか?それとも、会社に書かされた嘘? 素の自分を曝け出すのは怖い。自信ない。先行するイメージを壊してガッカリされるのはもう嫌。だから、相手の望む私だけを見せて生きてきた。誰も傷つけず、傷つかず。気づけば、たくさんの仮面の底へ埋もれていた。 武器なし。適性なし。絶望だらけで迎えた講談社の面接。面接官は本当の私を引き出す。どんな私も面白がってくれる。恥ずかしいけど、楽しくて、嬉しくて。隠していた突飛な本音が溢れた。 「漫画はタイムマシンで、私の夢の続きなんです」 いつもならドン引きされる一言。でも、嗤われない。内定者エッセイは本当だった! やっと見えた一縷の希望。だからこそ、3次面接で守りに入った。そんな愚か者にはバチが当たるのだ。 「今日、君は何を隠しているの? 漫画について語ってよ」 身体中を冷や汗が伝う。他人を恐れ、偽ってきた罰。自己開示の仕方もわからなくなっていた。しかも、古参に新参が語るなんて悲惨な未来しか見えない。だけど、殻を破るのは今しかない。生まれようとする者は、ひとつの世界を破壊せねばならない。 そこからは殆ど記憶がない。5分以上、一気に話し終えた後は、酷すぎて顔も上げられなかった。……終わった。埋もれ木に咲いたのは花ではなく、今にも飛んでいきそうな綿毛だった。 だが数日後、その種は落ちた先でやっと花を咲かせたようだ。 リアリストで夢想家。そんな私すらも受け入れてくれた講談社。 どんな花だとしても咲ける場所が、ここにはある。きっと。
ESSAYライオンの歯理系・関東・大学院修了見込み/女性
/コミック志望22年間、毎日歩くと地球を10周できる。
ふと時間の重さを感じたくて概算した。が、すぐ後悔した。地球10周分の私には何にもない。己の怠惰さを自ら突きつけたのだった。
物理が、研究が好き。だけど人間が、漫画がもっと好き! と出版社を志し始めた頃、全部読み返した内定者エッセイ。そこでは何度も目にする言葉があった。
「曝け出す」「ありのまま」
…みんな心臓の毛、ボーボーか?それとも、会社に書かされた嘘?
素の自分を曝け出すのは怖い。自信ない。先行するイメージを壊してガッカリされるのはもう嫌。だから、相手の望む私だけを見せて生きてきた。誰も傷つけず、傷つかず。気づけば、たくさんの仮面の底へ埋もれていた。
武器なし。適性なし。絶望だらけで迎えた講談社の面接。面接官は本当の私を引き出す。どんな私も面白がってくれる。恥ずかしいけど、楽しくて、嬉しくて。隠していた突飛な本音が溢れた。
「漫画はタイムマシンで、私の夢の続きなんです」
いつもならドン引きされる一言。でも、嗤われない。内定者エッセイは本当だった! やっと見えた一縷の希望。だからこそ、3次面接で守りに入った。そんな愚か者にはバチが当たるのだ。
「今日、君は何を隠しているの? 漫画について語ってよ」
身体中を冷や汗が伝う。他人を恐れ、偽ってきた罰。自己開示の仕方もわからなくなっていた。しかも、古参に新参が語るなんて悲惨な未来しか見えない。だけど、殻を破るのは今しかない。生まれようとする者は、ひとつの世界を破壊せねばならない。
そこからは殆ど記憶がない。5分以上、一気に話し終えた後は、酷すぎて顔も上げられなかった。……終わった。埋もれ木に咲いたのは花ではなく、今にも飛んでいきそうな綿毛だった。
だが数日後、その種は落ちた先でやっと花を咲かせたようだ。
リアリストで夢想家。そんな私すらも受け入れてくれた講談社。
どんな花だとしても咲ける場所が、ここにはある。きっと。
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『内定者エッセイ』
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
内定者エッセイがあんまり好きじゃなかった。 12月にサークルを引退して、就活開始。初めてちゃんと見た講談社の採用サイト、見つけた歴代の内定者エッセイにいつも助けられた。人それぞれ様々な困難に打ち勝ち、乗り越えた記録は、冬に国会図書館から帰る電車の中で、ふと感じる不安に寄り添ってくれた。アーカイブも全部見た。ただ、問題はこの人たちがみんな内定しているということ。これから試験に挑む私にとって、それだけは全然寄り添ってくれていない。どれだけ共感し、勇気づけられようが、彼らは結果、内定している。ちょっとよく意味が分からない。高倍率の出版社に挑む私の素直な気持ちだった。 内定者エッセイから傾向と対策を練った。傾向は全く無かった。代わりに「自分らしく」という頻出ワードが目についた。私はエントリーシートにも、キャラクターが「自分らしさ」を貫いている作品が好きだと書いていたし、他社の面接でも(勿論、講談社でも)よく言っていた。ただ、それならばそれを言うお前の、お前らしさってなんだよ、と自問自答した。そんなの言葉に出来ない。考えれば考える程、自分が空っぽのように思えた。こんなの内定者エッセイっぽくないなぁと思いながら、試験までの時間を過ごした。 初めての対面面接。会場はブース方式で「準備が出来たら入ってください」と言われた。入り口の前に立つ。内定者の人たちはここでどんな気持ちだったのだろうか。エッセイで、初めての対面面接について書いていた人のことを思い出す。今の私と同じだろうか。「準備が出来たら入ってください」と言われて、準備なんて未来永劫出来るはずないだろうが、と思っただろうか。ただ、出来るはずないから、とりあえず、今、入るしかない。同じことを思ったのか? 分からない。考えることを諦めて、中へ入った。 私らしさってなんだろう。それを講談社は見つけてくれたのだろうか。未だに答えられずにいるが、私は内定者だ。こんな人もいる。私は私のことが結構好きだ。
12月にサークルを引退して、就活開始。初めてちゃんと見た講談社の採用サイト、見つけた歴代の内定者エッセイにいつも助けられた。人それぞれ様々な困難に打ち勝ち、乗り越えた記録は、冬に国会図書館から帰る電車の中で、ふと感じる不安に寄り添ってくれた。アーカイブも全部見た。ただ、問題はこの人たちがみんな内定しているということ。これから試験に挑む私にとって、それだけは全然寄り添ってくれていない。どれだけ共感し、勇気づけられようが、彼らは結果、内定している。ちょっとよく意味が分からない。高倍率の出版社に挑む私の素直な気持ちだった。
内定者エッセイから傾向と対策を練った。傾向は全く無かった。代わりに「自分らしく」という頻出ワードが目についた。私はエントリーシートにも、キャラクターが「自分らしさ」を貫いている作品が好きだと書いていたし、他社の面接でも(勿論、講談社でも)よく言っていた。ただ、それならばそれを言うお前の、お前らしさってなんだよ、と自問自答した。そんなの言葉に出来ない。考えれば考える程、自分が空っぽのように思えた。こんなの内定者エッセイっぽくないなぁと思いながら、試験までの時間を過ごした。
初めての対面面接。会場はブース方式で「準備が出来たら入ってください」と言われた。入り口の前に立つ。内定者の人たちはここでどんな気持ちだったのだろうか。エッセイで、初めての対面面接について書いていた人のことを思い出す。今の私と同じだろうか。「準備が出来たら入ってください」と言われて、準備なんて未来永劫出来るはずないだろうが、と思っただろうか。ただ、出来るはずないから、とりあえず、今、入るしかない。同じことを思ったのか? 分からない。考えることを諦めて、中へ入った。
私らしさってなんだろう。それを講談社は見つけてくれたのだろうか。未だに答えられずにいるが、私は内定者だ。こんな人もいる。私は私のことが結構好きだ。
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モーレツ就活生と、とんがり発掘所。
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/マーケティング・プロモーション志望
課題と納期が大好き。チームで目標へ努力する時間が心地良い。 春、こんな社畜の才能にあふれた私は意気揚々と就活に乗り出した。 自分ならきっと引く手も数多だと疑わずに。 ところが夏、通販で精神安定剤を探すハメになる。 インターンES38社……通過はたったの4社。こんなにも自分を否定されたのは初めてで、未来が不安で、焦った私は寝食忘れてESを書いた。 就活を始めて、改めて自分のとんがりの無さに悩んだ。特別な経験も、賢さも、クリエイティビティーも無い。大好きだったはずの「努力」も、それしか出来ない自分が恥ずかしくなった。 それでも私には武器が残っていた。大好きな、課題と納期とチームと目標。 秋、友達と夜まで話し込んで自己分析し合い、〆切をカレンダーに書き連ね、先輩を頼ってOB訪問し……次第に「ここ通った!」「おめでとう!」なんてやり取りを繰り返せるようになった。そして自己分析を進めるごとに、倍率で諦めた出版への想いが膨らんだ。 再びの春、講談社の三次面接。 もちろん準備万端で、がむしゃらに練った対策メモは4万字を超えていた。 「強みはなんですか?」 「自走力です。目標へと地道に努力し――」 用意した回答を口から流しつつ、これも最後かと思うとふわっと夏からのコンプレックスが湧き出す。努力だけの自分がダサく見えないよう装飾した長所は、同時に短所だとも思っていた。 「――やっぱりこれ、弱みかもです。とにかく要領が悪くて……」 気づいた時には、強みを聞かれて弱みを答える大ミス。けどもう、本当だからいいや! ところがこれで堅い面接は一変、5人のおじさんと私のお悩み相談会へ。 勢いで話し切った私に、おじさんはかる~く 「でもそんな自分も好きでいて良いんだよ。面白い君らしさだし、それで自分の首絞めないでよ~」と、声をかけてくれた。 憎らしかった愚直さは、見方を変えれば「とんがり」だったのかも。 帰りの電車では、面接前よりちょっとだけ自分を好きになれていた。
ESSAYモーレツ就活生と、とんがり発掘所。文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性
/マーケティング・プロモーション志望課題と納期が大好き。チームで目標へ努力する時間が心地良い。
春、こんな社畜の才能にあふれた私は意気揚々と就活に乗り出した。
自分ならきっと引く手も数多だと疑わずに。
ところが夏、通販で精神安定剤を探すハメになる。
インターンES38社……通過はたったの4社。こんなにも自分を否定されたのは初めてで、未来が不安で、焦った私は寝食忘れてESを書いた。
就活を始めて、改めて自分のとんがりの無さに悩んだ。特別な経験も、賢さも、クリエイティビティーも無い。大好きだったはずの「努力」も、それしか出来ない自分が恥ずかしくなった。
それでも私には武器が残っていた。大好きな、課題と納期とチームと目標。
秋、友達と夜まで話し込んで自己分析し合い、〆切をカレンダーに書き連ね、先輩を頼ってOB訪問し……次第に「ここ通った!」「おめでとう!」なんてやり取りを繰り返せるようになった。そして自己分析を進めるごとに、倍率で諦めた出版への想いが膨らんだ。
再びの春、講談社の三次面接。
もちろん準備万端で、がむしゃらに練った対策メモは4万字を超えていた。
「強みはなんですか?」
「自走力です。目標へと地道に努力し――」
用意した回答を口から流しつつ、これも最後かと思うとふわっと夏からのコンプレックスが湧き出す。努力だけの自分がダサく見えないよう装飾した長所は、同時に短所だとも思っていた。
「――やっぱりこれ、弱みかもです。とにかく要領が悪くて……」
気づいた時には、強みを聞かれて弱みを答える大ミス。けどもう、本当だからいいや!
ところがこれで堅い面接は一変、5人のおじさんと私のお悩み相談会へ。
勢いで話し切った私に、おじさんはかる~く
「でもそんな自分も好きでいて良いんだよ。面白い君らしさだし、それで自分の首絞めないでよ~」と、声をかけてくれた。
憎らしかった愚直さは、見方を変えれば「とんがり」だったのかも。
帰りの電車では、面接前よりちょっとだけ自分を好きになれていた。
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縮尺:1/1
理系・関東・大学院終了見込み/男性/コンテンツ事業志望
就活は騙し合いのゲームだとよく言われる。就活生にとってはどれだけ自然に嘘をついて自分をよく見せられるかが大事だと。この考えは内定を獲得するための戦略として一理ある。しかし私は、そうして入った会社で現実とのギャップに苦しむのではないかという考えが拭えなかった。良くも悪くも私は、誇大することなく等身大の自分を曝け出すことしかできない人間だった。 就活を始めたての頃はITやコンサル、不動産など、何となく自分の能力が活かせそうな企業のインターンを受けるためにESを書いていた。しかし思うように手が進まず、自分の気持ちが乗っていないことに気が付いた。 できることとやりたいことが違う。このことに焦りと戸惑いがあった。無論両者が一致していれば文句はないが、前者を取ることも後者を取ることもどちらも正しい。その中で私は後者を選び、熱意をもって仕事ができる場所を求めた。その筆頭が講談社だった。 二次面接は就活を通して初めての対面面接だった。生のコミュニケーションを取ることに対して、緊張と同時に喜びを感じていた。流れの中で思わぬ質問をされることもあったが、面接中は大きく崩さず話すことができた。それができたのは、面接官が自分の話に興味を持って真摯に聞いてくれていると感じたからだった。 私がeスポーツプレイヤーとして活動していた話には、特に興味を持たれた。面接が始まる前は、ゲームの話はプラスに働くどころかマイナスに作用するかもしれないと思っていたため、嬉しい誤算だった。自分が好きで取り組んできたことだったので、熱量をもって語ることができた。 できることはさておき、やりたいことを選ぶことは勇気が要る。そしてありのままの自分を曝け出すことは怖い。だがもしやりたいことを選んだのであれば、自分を包み隠さず出してほしい。思い切って飛び込んでみることで開ける道もきっとある。講談社にはそれを受け止める懐の深さがある。
ESSAY縮尺:1/1理系・関東・大学院終了見込み/男性
/コンテンツ事業志望就活は騙し合いのゲームだとよく言われる。就活生にとってはどれだけ自然に嘘をついて自分をよく見せられるかが大事だと。この考えは内定を獲得するための戦略として一理ある。しかし私は、そうして入った会社で現実とのギャップに苦しむのではないかという考えが拭えなかった。良くも悪くも私は、誇大することなく等身大の自分を曝け出すことしかできない人間だった。
就活を始めたての頃はITやコンサル、不動産など、何となく自分の能力が活かせそうな企業のインターンを受けるためにESを書いていた。しかし思うように手が進まず、自分の気持ちが乗っていないことに気が付いた。
できることとやりたいことが違う。このことに焦りと戸惑いがあった。無論両者が一致していれば文句はないが、前者を取ることも後者を取ることもどちらも正しい。その中で私は後者を選び、熱意をもって仕事ができる場所を求めた。その筆頭が講談社だった。
二次面接は就活を通して初めての対面面接だった。生のコミュニケーションを取ることに対して、緊張と同時に喜びを感じていた。流れの中で思わぬ質問をされることもあったが、面接中は大きく崩さず話すことができた。それができたのは、面接官が自分の話に興味を持って真摯に聞いてくれていると感じたからだった。
私がeスポーツプレイヤーとして活動していた話には、特に興味を持たれた。面接が始まる前は、ゲームの話はプラスに働くどころかマイナスに作用するかもしれないと思っていたため、嬉しい誤算だった。自分が好きで取り組んできたことだったので、熱量をもって語ることができた。
できることはさておき、やりたいことを選ぶことは勇気が要る。そしてありのままの自分を曝け出すことは怖い。だがもしやりたいことを選んだのであれば、自分を包み隠さず出してほしい。思い切って飛び込んでみることで開ける道もきっとある。講談社にはそれを受け止める懐の深さがある。
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8%の希望
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コンテンツ事業志望
「92%俺落ちた」 三次面接が終わってすぐに頭をよぎったのは、『宇宙兄弟』の主人公・南波六太のセリフだった。理由はもちろん、面接がボロボロだったからだ。 開始早々、緊張で素を出すどころではない私が面接官からくらったのは「そつがないなあ」「なんか面白くないんだよなあ」のダブルパンチ。まとった鎧を身ぐるみ剥がされた感覚に陥った私は大いに動揺し、残りの質問に対しては回答を絞り出すのが精一杯だった。最後の一言の締めくくりが「ほんとに頑張るのでお願いします…」だったというだけでも、当時の追い込まれ具合が伝わってくる。 面接を終えての感想は、まさに「92%俺落ちた」。同じく最終選考を前に落第を覚悟する六太の心情が、手にとるようにわかる気がした。 ところが、その日の夜に届いたのは通過連絡。嬉しさと同時に、ある疑問が湧き上がる。なぜ私は通過できたのだろう。 後日伺ったことだが、面接を担当した方曰く、印象に残ったのは私の「元気さ」であったらしい。あまり意識していたポイントではなかったので驚いた。心当たりがあるとすれば、厳しいと感じながらも、最後まで諦めずに気合で食らいつき続けたことだろうか。 思えば、ボロボロだったのにもかかわらず8%の淡い希望を抱いていたことも、気力を出し尽くした自負があったからかもしれない。その方は「回答を絞り出すのが精一杯」だった私のことを、「精一杯回答を絞り出す」元気な姿勢の持ち主として評価してくださっていたのだ。 前の面接では手応えがあった話が、まったくウケなかった時。せっかく準備してきたことを質問されたのに、内容をど忘れしてしまった時。計4回の面接の最中には「もうダメかも」と感じる瞬間が何度かあった。それでも諦めなかったのは「絶対にこの会社に入りたい」という気持ちがあったから。 無様でも足掻き続ければ、8%の先に広がる夢見た宇宙に飛び立つことだって、きっと不可能ではないのだ。
ESSAY8%の希望文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性
/コンテンツ事業志望「92%俺落ちた」
三次面接が終わってすぐに頭をよぎったのは、『宇宙兄弟』の主人公・南波六太のセリフだった。理由はもちろん、面接がボロボロだったからだ。
開始早々、緊張で素を出すどころではない私が面接官からくらったのは「そつがないなあ」「なんか面白くないんだよなあ」のダブルパンチ。まとった鎧を身ぐるみ剥がされた感覚に陥った私は大いに動揺し、残りの質問に対しては回答を絞り出すのが精一杯だった。最後の一言の締めくくりが「ほんとに頑張るのでお願いします…」だったというだけでも、当時の追い込まれ具合が伝わってくる。
面接を終えての感想は、まさに「92%俺落ちた」。同じく最終選考を前に落第を覚悟する六太の心情が、手にとるようにわかる気がした。
ところが、その日の夜に届いたのは通過連絡。嬉しさと同時に、ある疑問が湧き上がる。なぜ私は通過できたのだろう。
後日伺ったことだが、面接を担当した方曰く、印象に残ったのは私の「元気さ」であったらしい。あまり意識していたポイントではなかったので驚いた。心当たりがあるとすれば、厳しいと感じながらも、最後まで諦めずに気合で食らいつき続けたことだろうか。
思えば、ボロボロだったのにもかかわらず8%の淡い希望を抱いていたことも、気力を出し尽くした自負があったからかもしれない。その方は「回答を絞り出すのが精一杯」だった私のことを、「精一杯回答を絞り出す」元気な姿勢の持ち主として評価してくださっていたのだ。
前の面接では手応えがあった話が、まったくウケなかった時。せっかく準備してきたことを質問されたのに、内容をど忘れしてしまった時。計4回の面接の最中には「もうダメかも」と感じる瞬間が何度かあった。それでも諦めなかったのは「絶対にこの会社に入りたい」という気持ちがあったから。
無様でも足掻き続ければ、8%の先に広がる夢見た宇宙に飛び立つことだって、きっと不可能ではないのだ。
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当たって砕けないこともある
理系・関東・大学院修了見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
自分が就職活動をする年がいよいよやってきた。周りの友人や先輩方がどんどん生気を失い、追い込まれ、もう二度と経験したくないと語っていた、あの就活が。特筆すべきスキルも経験も持ち合わせていない私が、出版社に受かるなんて夢のまた夢だと思ったが、挑戦するだけしてみようとESを提出した。絶対通らないと思った、ESとWebテストを通過し、オンライン一次面接。とんでもない人数を面接しているだろうに、私なんぞの話を真摯に聞いてくださったことが印象に残っている。実際に現場で働いていらっしゃる社員の方とお話が出来ただけで御の字、そう思っていた。 まさかの通過、初めての対面での面接だった二次面接に。画面越しなら何とかごまかせていたのかもしれない“粗”のような部分が見破られて、どうせ落ちる、そう思っていた。受付ブースで、惨敗後の励ましに何を食べに行こうなどと考えながら待機していたとき、社員の方の「私たちは、あなた方の良いところを一つでも見つけようと思って面接に臨んでいます。」という言葉に励まされ、何か一つでも面白いと思ってもらえればいいんだ、と心が一気に軽くなった。 好きなレポマンガを書く作家さんと宅配サービスの大好きなケチャップの話しか面接の記憶はない。三次面接も、四次面接も、食べることが大好きで、目の前の興味関心に素直に生きてきたことを話した。優秀な人物像を作り上げ、それを演じるなんてことはせず(作り上げるべき像がよく分からなかったというのもある)、そのままの自分で。急にロシア語で質問が飛んでくるわけでもない、日本語で聞かれたことに素直に返せばよいのだ。 有難いことに、そんなありのままの私を面白いと思っていただけたようで、今この文を、就活時何度も読み返したこの文章を書くことが出来ている。何がどう転ぶかわからない、だからこそ、あの時、ESを出してみて本当に良かったと、心からそう思う。
ESSAY当たって砕けないこともある理系・関東・大学院修了見込み/女性
/ファッション・ライフスタイル志望自分が就職活動をする年がいよいよやってきた。周りの友人や先輩方がどんどん生気を失い、追い込まれ、もう二度と経験したくないと語っていた、あの就活が。特筆すべきスキルも経験も持ち合わせていない私が、出版社に受かるなんて夢のまた夢だと思ったが、挑戦するだけしてみようとESを提出した。絶対通らないと思った、ESとWebテストを通過し、オンライン一次面接。とんでもない人数を面接しているだろうに、私なんぞの話を真摯に聞いてくださったことが印象に残っている。実際に現場で働いていらっしゃる社員の方とお話が出来ただけで御の字、そう思っていた。
まさかの通過、初めての対面での面接だった二次面接に。画面越しなら何とかごまかせていたのかもしれない“粗”のような部分が見破られて、どうせ落ちる、そう思っていた。受付ブースで、惨敗後の励ましに何を食べに行こうなどと考えながら待機していたとき、社員の方の「私たちは、あなた方の良いところを一つでも見つけようと思って面接に臨んでいます。」という言葉に励まされ、何か一つでも面白いと思ってもらえればいいんだ、と心が一気に軽くなった。
好きなレポマンガを書く作家さんと宅配サービスの大好きなケチャップの話しか面接の記憶はない。三次面接も、四次面接も、食べることが大好きで、目の前の興味関心に素直に生きてきたことを話した。優秀な人物像を作り上げ、それを演じるなんてことはせず(作り上げるべき像がよく分からなかったというのもある)、そのままの自分で。急にロシア語で質問が飛んでくるわけでもない、日本語で聞かれたことに素直に返せばよいのだ。
有難いことに、そんなありのままの私を面白いと思っていただけたようで、今この文を、就活時何度も読み返したこの文章を書くことが出来ている。何がどう転ぶかわからない、だからこそ、あの時、ESを出してみて本当に良かったと、心からそう思う。
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枠からはみ出たその先に
文系・関東・大学院修了見込み/女性/海外事業志望
寒さ深まる1月の半ば。気がつけば世間の就活モードにすっかり乗り遅れた私は、とりあえず就活生のコスプレをしようと写真館に乗り込んだ。 元々就活にはネガティブなイメージしかなかった。みんなと同じ黒いスーツに身を包み、まるで自分がすごい人かのように綺麗な言葉を並べ立てる。正直その意味が理解できなかったし、散々普通から外れてきた私には所謂“就活生”になれる自信もなかった。就活メイク? ガクチカ? そんな状態だった私は、安易な考えでとりあえず形から入ってみることにしたのだ。 「眉毛はキリッと描いた方が知的に見えますよ」「清潔感と意欲が大事です」そんなことを言いながら、ヘアーメイクのお姉さんが私の顔にいろんな色を重ねていく。準備が終わり鏡を覗き込んだ瞬間、私はそこに映る姿に思わず「誰?」と吹き出してしまった。もはや他人に見えるその就活生は、なんとか型にはまって自分を綺麗事で塗り固めようとしている私そのものだった。 そんな最中始まった講談社の選考。ESにガクチカは見当たらず、むしろわくわくする項目が溢れていた。自分を自由に表現する欄に写真をペタペタ貼り付けながら、私は決意した。就活のテンプレは一旦脇に置いて、いつもの私でトライしてみようと。作文では推しへの想いを書き連ね、面接にはいつもの服とメイク、お気に入りのピアスで挑んだ。控え室の雰囲気や面接官から飛んでくる質問は良い意味で予想を裏切り、私の中の就活のイメージが音を立てて崩れた。 正直、最初は本当にありのままの自分を受け入れてくれるのか不安もあった。しかし、講談社は就活作法が窮屈で仕方がなかった、ある意味はみ出し者の私をまるっと受け入れてくれた。日々興味を持っていること、熱中していること、考えていること。形式にとらわれず、どんな些細なことでも丁寧に拾い上げて聞いてくれるのが講談社の選考だと思う。 あの日、就活生のコスプレを脱ぎ捨てて本当によかった。
ESSAY枠からはみ出たその先に文系・関東・大学院修了見込み/女性
/海外事業志望寒さ深まる1月の半ば。気がつけば世間の就活モードにすっかり乗り遅れた私は、とりあえず就活生のコスプレをしようと写真館に乗り込んだ。
元々就活にはネガティブなイメージしかなかった。みんなと同じ黒いスーツに身を包み、まるで自分がすごい人かのように綺麗な言葉を並べ立てる。正直その意味が理解できなかったし、散々普通から外れてきた私には所謂“就活生”になれる自信もなかった。就活メイク? ガクチカ? そんな状態だった私は、安易な考えでとりあえず形から入ってみることにしたのだ。
「眉毛はキリッと描いた方が知的に見えますよ」「清潔感と意欲が大事です」そんなことを言いながら、ヘアーメイクのお姉さんが私の顔にいろんな色を重ねていく。準備が終わり鏡を覗き込んだ瞬間、私はそこに映る姿に思わず「誰?」と吹き出してしまった。もはや他人に見えるその就活生は、なんとか型にはまって自分を綺麗事で塗り固めようとしている私そのものだった。
そんな最中始まった講談社の選考。ESにガクチカは見当たらず、むしろわくわくする項目が溢れていた。自分を自由に表現する欄に写真をペタペタ貼り付けながら、私は決意した。就活のテンプレは一旦脇に置いて、いつもの私でトライしてみようと。作文では推しへの想いを書き連ね、面接にはいつもの服とメイク、お気に入りのピアスで挑んだ。控え室の雰囲気や面接官から飛んでくる質問は良い意味で予想を裏切り、私の中の就活のイメージが音を立てて崩れた。
正直、最初は本当にありのままの自分を受け入れてくれるのか不安もあった。しかし、講談社は就活作法が窮屈で仕方がなかった、ある意味はみ出し者の私をまるっと受け入れてくれた。日々興味を持っていること、熱中していること、考えていること。形式にとらわれず、どんな些細なことでも丁寧に拾い上げて聞いてくれるのが講談社の選考だと思う。
あの日、就活生のコスプレを脱ぎ捨てて本当によかった。
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恩人は研修医
文系・関西・四年制大学卒業見込み/女性/コミック志望
私は心に大きな矛盾を抱えながら就職活動に挑んだ。 絶対に趣味の漫画に関わる仕事に就きたいと強く思いながらも、全ての企業に落ちたらどこかの田舎で伝統工芸家に弟子入りしようと覚悟を決めていた私。この心持ちのおかげで私は就職活動を楽しむことができたと思う。 「全落ち」した未来の自分を常に想像していたから、私はあまり自分を追い込まずに就職活動ができた。「絶対に趣味を仕事にするんだ!」と周りに宣言していたのになんとも能天気なことだ。 勉強に自信が全くなかったから筆記試験対策はするようにしていた。出版社は面接で時事問題について聞かれるらしいという情報を耳にしていたから新聞も読むようにしていた。しかし自己分析や〇〇研究というものは早々にやめてしまった。その代わりに「ステイホーム」を兼ねて「好き」をたくさん吸収するようにした。 読みたかった漫画、溜めていたアニメ、未開封のまま放置していたゲーム、色々な作品に目を通し、何もしていない時間を減らした。しかしこの時間こそが、面接での窮地を救ってくれた。 講談社の三次面接で私は少女漫画について質問をされた。大好きな少年漫画についてのネタならいくらでも用意していたけど正直に言うと、私は少年漫画についての話題だけで面接に挑んでいたため、この質問で頭が真っ白になってしまった。 「少し考えさせてください」 答えに窮していたところで私は、母が見ていた海外の医療系ドラマを思い出した。医療現場を描いているが、職場内のドロドロした男女の恋愛模様がメインだと言って良い。「これだ!」と思った私は少女漫画と海外ドラマを結びつけて面接官に私のアイデアを話した。 私の「好き」について面接で語る場面は多くあった。しかし私のピンチを救ってくれたのは、今まで何気なく見聞きしてきた内容だ。就職活動を通して、私は自分が目を向けている場所以外にも面白いネタが身近に溢れていることに気がつくことができた。
ESSAY恩人は研修医文系・関西・四年制大学卒業見込み/女性
/コミック志望私は心に大きな矛盾を抱えながら就職活動に挑んだ。
絶対に趣味の漫画に関わる仕事に就きたいと強く思いながらも、全ての企業に落ちたらどこかの田舎で伝統工芸家に弟子入りしようと覚悟を決めていた私。この心持ちのおかげで私は就職活動を楽しむことができたと思う。
「全落ち」した未来の自分を常に想像していたから、私はあまり自分を追い込まずに就職活動ができた。「絶対に趣味を仕事にするんだ!」と周りに宣言していたのになんとも能天気なことだ。
勉強に自信が全くなかったから筆記試験対策はするようにしていた。出版社は面接で時事問題について聞かれるらしいという情報を耳にしていたから新聞も読むようにしていた。しかし自己分析や〇〇研究というものは早々にやめてしまった。その代わりに「ステイホーム」を兼ねて「好き」をたくさん吸収するようにした。
読みたかった漫画、溜めていたアニメ、未開封のまま放置していたゲーム、色々な作品に目を通し、何もしていない時間を減らした。しかしこの時間こそが、面接での窮地を救ってくれた。
講談社の三次面接で私は少女漫画について質問をされた。大好きな少年漫画についてのネタならいくらでも用意していたけど正直に言うと、私は少年漫画についての話題だけで面接に挑んでいたため、この質問で頭が真っ白になってしまった。
「少し考えさせてください」
答えに窮していたところで私は、母が見ていた海外の医療系ドラマを思い出した。医療現場を描いているが、職場内のドロドロした男女の恋愛模様がメインだと言って良い。「これだ!」と思った私は少女漫画と海外ドラマを結びつけて面接官に私のアイデアを話した。
私の「好き」について面接で語る場面は多くあった。しかし私のピンチを救ってくれたのは、今まで何気なく見聞きしてきた内容だ。就職活動を通して、私は自分が目を向けている場所以外にも面白いネタが身近に溢れていることに気がつくことができた。
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まじめのすゝめ
理系・関東・大学院終了見込み/男性/コミック志望
「就活はまじめにやったほうがいい」 よく言われるこの言葉の意味を僕は間違ってとらえていた。 いち早く業界研究をはじめ、ガクチカを練り上げ、面接対策もばっちりといった模範的就活生。これが「まじめな」僕だった。完全装備で次々と企業を攻略していくなか強敵「講談社」が現れた。僕が受けた企業の中では遅い時期に選考があった講談社は、ボスキャラと呼ぶにふさわしい相手だ。就活戦士は準備を怠らない。もちろんESも先輩にチェックしてもらう。しかし、僕のESを見た先輩の感想は予想外なものだった。 「これ、落ちるよ」 先輩曰く、僕のESは「つまらない」ものだった。「おもしろくて、ためになる」を掲げる講談社ではつまらないことは致命的だった。 ウケを狙って面白おかしくESを書いたほうがいいのか? という質問に対し、「まじめに面白おかしく書くんだよ」という禅問答のような回答をいただいた。 「まじめ」とは何なのか? 悩んだ末に僕が出した結論は辞書通り「本気であること、嘘でないこと」ということだ。 その言葉は本気なのか? 僕にしか書けない文章になっているか? そうやって書き直したESは、熱中した音楽の話や大好きな漫画の話、恋愛失敗談まで含まれ、「完全装備」ではないが、とても正直なものになった。 普通の面接では「質問に端的に答える」ことが重要だが、講談社の面接ではそんなことは忘れて好きなことを語りまくった。「もう少し話してもいいですか?」と言うと、面接官の方々は僕の気が済むまで話を聞いてくれた。 わからないことも正直に答えた。正念場の3次面接で講談社のロゴが変わったことすら知らずに、場を凍らせたのは僕くらいのものだろう。 就活は「内定先」を探すことではなくて「なりたいもの」を探すことだ。完全装備したままじゃ自分のことは見えてこない。丸腰になってからが本番だ。 僕から皆さんへのアドバイスは一言です。「就活はまじめにやったほういい」。
よく言われるこの言葉の意味を僕は間違ってとらえていた。
いち早く業界研究をはじめ、ガクチカを練り上げ、面接対策もばっちりといった模範的就活生。これが「まじめな」僕だった。完全装備で次々と企業を攻略していくなか強敵「講談社」が現れた。僕が受けた企業の中では遅い時期に選考があった講談社は、ボスキャラと呼ぶにふさわしい相手だ。就活戦士は準備を怠らない。もちろんESも先輩にチェックしてもらう。しかし、僕のESを見た先輩の感想は予想外なものだった。
「これ、落ちるよ」
先輩曰く、僕のESは「つまらない」ものだった。「おもしろくて、ためになる」を掲げる講談社ではつまらないことは致命的だった。
ウケを狙って面白おかしくESを書いたほうがいいのか? という質問に対し、「まじめに面白おかしく書くんだよ」という禅問答のような回答をいただいた。
「まじめ」とは何なのか?
悩んだ末に僕が出した結論は辞書通り「本気であること、嘘でないこと」ということだ。
その言葉は本気なのか?
僕にしか書けない文章になっているか?
そうやって書き直したESは、熱中した音楽の話や大好きな漫画の話、恋愛失敗談まで含まれ、「完全装備」ではないが、とても正直なものになった。
普通の面接では「質問に端的に答える」ことが重要だが、講談社の面接ではそんなことは忘れて好きなことを語りまくった。「もう少し話してもいいですか?」と言うと、面接官の方々は僕の気が済むまで話を聞いてくれた。
わからないことも正直に答えた。正念場の3次面接で講談社のロゴが変わったことすら知らずに、場を凍らせたのは僕くらいのものだろう。
就活は「内定先」を探すことではなくて「なりたいもの」を探すことだ。完全装備したままじゃ自分のことは見えてこない。丸腰になってからが本番だ。
僕から皆さんへのアドバイスは一言です。「就活はまじめにやったほういい」。
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己隠して腐、隠せず。
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/こども・児童志望
過去の内定者エッセイを読むと、「講談社の面接では裸の自分を見せられた」という内容の文章が散見される。 素晴らしいエピソードだと思うが、私はというと、ぶっちゃけそんなことはしなかった。 はっきり言って、私は全力で素の自分を隠そうとした。 具体的には、「腐女子」であることを。 ご存じかもしれないが、腐女子とはBL、つまり男性同士の恋愛を愛好する女性のことだ。 この趣味はたいてい、一般人に理解されない。必然、我々腐女子は自分が「腐って」いることを隠すのが世の習い……だと、私はそう思っていた。講談社の面接を受けるまでは。 「もしかして腐女子ですか?」 1次面接で好きな漫画を聞かれたとき、できるだけ“一般の漫画好き”を装った回答をした私に、唐突に投げかけられた言葉がこれだった。 正直焦った。まさかいきなり看破されるとは思ってもみなかったのだ。 テレパシスト!? と真面目に怖くなったが、嘘をついても仕方がないと思い、「はい、お察しの通りです……」と認めた。 ただ、腐女子に関する掘り下げはこれで終わると思っていた。 終わらなかった。 3次では、「緊張されてますね〜雑談でもしましょうか」と気を利かせていただいたときの話題が「どのジャンルのどのカップリングが好きか」だった。 4次では、児童書を志望する私に対し「腐女子ならBL系のコミックスを作りたいとかはないんですか?」と質問された。 おまけに、同期には腐女子を公言する人が2人いたし、男性でBLに興味があるという人もいた。 ここまでくると、隠すのが馬鹿らしくなった。講談社で「好き」に関する気後れは一切いらないと、私は肌で実感することになったのだ。 就活において、私は全力で素の自分を隠そうとした。 だが、結果として裸の自分を見せることになった。隠そうとしてもひっぺがされるのだ。 だったら最初から、堂々とすればいい。好きなものを好きと言えばいい。 それを馬鹿にする人は、ここにはいないのだから。
ESSAY己隠して腐、隠せず。文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性
/こども・児童志望過去の内定者エッセイを読むと、「講談社の面接では裸の自分を見せられた」という内容の文章が散見される。
素晴らしいエピソードだと思うが、私はというと、ぶっちゃけそんなことはしなかった。
はっきり言って、私は全力で素の自分を隠そうとした。
具体的には、「腐女子」であることを。
ご存じかもしれないが、腐女子とはBL、つまり男性同士の恋愛を愛好する女性のことだ。
この趣味はたいてい、一般人に理解されない。必然、我々腐女子は自分が「腐って」いることを隠すのが世の習い……だと、私はそう思っていた。講談社の面接を受けるまでは。
「もしかして腐女子ですか?」
1次面接で好きな漫画を聞かれたとき、できるだけ“一般の漫画好き”を装った回答をした私に、唐突に投げかけられた言葉がこれだった。
正直焦った。まさかいきなり看破されるとは思ってもみなかったのだ。
テレパシスト!? と真面目に怖くなったが、嘘をついても仕方がないと思い、「はい、お察しの通りです……」と認めた。
ただ、腐女子に関する掘り下げはこれで終わると思っていた。
終わらなかった。
3次では、「緊張されてますね〜雑談でもしましょうか」と気を利かせていただいたときの話題が「どのジャンルのどのカップリングが好きか」だった。
4次では、児童書を志望する私に対し「腐女子ならBL系のコミックスを作りたいとかはないんですか?」と質問された。
おまけに、同期には腐女子を公言する人が2人いたし、男性でBLに興味があるという人もいた。
ここまでくると、隠すのが馬鹿らしくなった。講談社で「好き」に関する気後れは一切いらないと、私は肌で実感することになったのだ。
就活において、私は全力で素の自分を隠そうとした。
だが、結果として裸の自分を見せることになった。隠そうとしてもひっぺがされるのだ。
だったら最初から、堂々とすればいい。好きなものを好きと言えばいい。
それを馬鹿にする人は、ここにはいないのだから。
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重たい革ジャンと
文系・関西・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
革ジャンを羽織る。4月の朝、春の陽光とは不釣り合いな重たいそれを着て、私は講談社の最終面接に向かった。 大学3回生の夏、年季の入った革ジャンを買ったのは、メキシコ留学へ行く前日のことだった。それを着て過ごすメキシコでの一人暮らし。向こうの夜は夏でも寒く、薄い毛布一枚しかない安宿でその革ジャンを被って寝た。知らない土地でもそれを羽織れば憧れのロックスターにでもなった気分で、勇気が湧いてきた。日本に帰って研究発表するときも、スペイン留学するときも一緒だった。私にとってその革ジャンは勇気をくれるお守りであり、そして自分を強くする鎧でもあった。 だから講談社のESで、自分らしさを表現する欄には革ジャンのことを書いたし、全ての面接にそれを着て行った。革ジャンから自信をもらい、勢いそのままに講談社の作品やインターンで聞いたお話への想いを語れたのはよかったと思う。 そんな私が就活で意識したのは、「自分を曲げず、自分を武装して挑む」ことだった。 喧伝される信じられない就活ハウツーに従ったり、自分の気持ちに嘘をついたりするのは嫌だった。かといって「素の自分をただ曝け出す」やり方も、自分にとってはベストな方法ではないと思った。やるべき努力はたくさんあったから。ストーリーや想いはそのままに、相手により深く自分を突き刺すために武器を用意する、力をつける、気持ちを整える……。つまり「武装して挑む」ことが私のやり方だと考えたのだ。 私にとっての武装とは、前述の革ジャンを着て、勇気と自信を持って挑むこと。そして講談社のことや編集という仕事について学び、面接で笑いをとれそうなトークを考え、面接の妄想を繰り返しておくことだった。 そんな武装の結果かどうかはわからない(面接官の方々にはその中を見られたのかも)けれど、内定をいただき、革ジャンにはまた思い出と自信が染み込んだ。なんだか前よりも少し重たくなった気がしている。
ESSAY重たい革ジャンと文系・関西・四年制大学卒業見込み/男性
/コミック志望革ジャンを羽織る。4月の朝、春の陽光とは不釣り合いな重たいそれを着て、私は講談社の最終面接に向かった。
大学3回生の夏、年季の入った革ジャンを買ったのは、メキシコ留学へ行く前日のことだった。それを着て過ごすメキシコでの一人暮らし。向こうの夜は夏でも寒く、薄い毛布一枚しかない安宿でその革ジャンを被って寝た。知らない土地でもそれを羽織れば憧れのロックスターにでもなった気分で、勇気が湧いてきた。日本に帰って研究発表するときも、スペイン留学するときも一緒だった。私にとってその革ジャンは勇気をくれるお守りであり、そして自分を強くする鎧でもあった。
だから講談社のESで、自分らしさを表現する欄には革ジャンのことを書いたし、全ての面接にそれを着て行った。革ジャンから自信をもらい、勢いそのままに講談社の作品やインターンで聞いたお話への想いを語れたのはよかったと思う。
そんな私が就活で意識したのは、「自分を曲げず、自分を武装して挑む」ことだった。
喧伝される信じられない就活ハウツーに従ったり、自分の気持ちに嘘をついたりするのは嫌だった。かといって「素の自分をただ曝け出す」やり方も、自分にとってはベストな方法ではないと思った。やるべき努力はたくさんあったから。ストーリーや想いはそのままに、相手により深く自分を突き刺すために武器を用意する、力をつける、気持ちを整える……。つまり「武装して挑む」ことが私のやり方だと考えたのだ。
私にとっての武装とは、前述の革ジャンを着て、勇気と自信を持って挑むこと。そして講談社のことや編集という仕事について学び、面接で笑いをとれそうなトークを考え、面接の妄想を繰り返しておくことだった。
そんな武装の結果かどうかはわからない(面接官の方々にはその中を見られたのかも)けれど、内定をいただき、革ジャンにはまた思い出と自信が染み込んだ。なんだか前よりも少し重たくなった気がしている。
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ものすごくきらきらした感じで
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
講談社のエントリーシートには、働くとはどんなことだと思いますか、想像でも構わないので書いてみてください、という設問がありました。これまでもあったのか、これからも出てくるのかはわからないのですが、この設問は不意打ちの図星というか、痛いところを衝かれたというか、それでとても頭を悩ませた記憶があります。いざ聞かれると、うーん何だろう、というこの質問は振り返ってみても講談社のほかに見なかったものでした。 わたしはそれまで就職とは社会の歯車になるようなもので、つまり自分が埋もれて薄くなってしまうようなイメージを持っていました。働く、お金、ふむ、少し考えよう温めなきゃならないと思い、その時に書き上げるのをやめました。本屋に行ったり、社会人の先輩の仕事の話をこっそり傾聴してみたり、できる限り大げさにならないように身近なところをヒントに考えました。 結論から言うと、働くってそんなに悪いことじゃないかも知らん、と思ったのです。本を読んだり(べたな感じで申し訳ないのですが池上彰さんの『なぜ僕らは働くのか』がおすすめ)人に話を聞いたりして自分なりに考えていくと、何かをはじいていた鱗がばらばらとはためいて落ちていき、講談社の方々はじめ、本当にいろんな職業、職種の方々が、自分自身の意思で、それぞれのやり方で誰かの役に立っている、ということが、ものすごくきらきらした感じで、頭に馴染んでいきました。 とはいっても当時のメモやなんかを見返すと苦しかったんじゃな、と思い出したりするのですが、それでも働くことについて考えるきっかけをくれたこの設問があってよかった。もちろん、これから色々発見があるのであって、働くとは何ぞやということが分かったというわけではないのですが、そういう機会に出会えることはとても幸せなことだし、それぞれのタイミングで自分なりに考えていくと、思わぬところでそれにすくわれる時があるように思います。
ESSAYものすごくきらきらした感じで文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性
/ファッション・ライフスタイル志望講談社のエントリーシートには、働くとはどんなことだと思いますか、想像でも構わないので書いてみてください、という設問がありました。これまでもあったのか、これからも出てくるのかはわからないのですが、この設問は不意打ちの図星というか、痛いところを衝かれたというか、それでとても頭を悩ませた記憶があります。いざ聞かれると、うーん何だろう、というこの質問は振り返ってみても講談社のほかに見なかったものでした。
わたしはそれまで就職とは社会の歯車になるようなもので、つまり自分が埋もれて薄くなってしまうようなイメージを持っていました。働く、お金、ふむ、少し考えよう温めなきゃならないと思い、その時に書き上げるのをやめました。本屋に行ったり、社会人の先輩の仕事の話をこっそり傾聴してみたり、できる限り大げさにならないように身近なところをヒントに考えました。
結論から言うと、働くってそんなに悪いことじゃないかも知らん、と思ったのです。本を読んだり(べたな感じで申し訳ないのですが池上彰さんの『なぜ僕らは働くのか』がおすすめ)人に話を聞いたりして自分なりに考えていくと、何かをはじいていた鱗がばらばらとはためいて落ちていき、講談社の方々はじめ、本当にいろんな職業、職種の方々が、自分自身の意思で、それぞれのやり方で誰かの役に立っている、ということが、ものすごくきらきらした感じで、頭に馴染んでいきました。
とはいっても当時のメモやなんかを見返すと苦しかったんじゃな、と思い出したりするのですが、それでも働くことについて考えるきっかけをくれたこの設問があってよかった。もちろん、これから色々発見があるのであって、働くとは何ぞやということが分かったというわけではないのですが、そういう機会に出会えることはとても幸せなことだし、それぞれのタイミングで自分なりに考えていくと、思わぬところでそれにすくわれる時があるように思います。
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武器よさらば
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/文芸志望
「きみ、なんか元気ないね」 ずっと第1志望だった講談社の3次面接。冒頭から予想していなかった質問が押し寄せ、しどろもどろな回答が続いた。そうして声まで小さくなってしまっていたのだ。 「出版業界志望は必ず併願業界を考えるべし!」 就活関連のセミナーやイベントで、耳にタコができるほど聞いたアドバイスだ。就活に対する不安で押し潰されそうだった当時のぼくは、そのアドバイスを間違ったほうに解釈してしまった。 「エントリーありがとうございます」 解禁日の3月1日にはメールボックスが溢れかえっていた。 今思うと、その中には自分がやりたいこととはかけ離れた企業もあった。「内定をとりあえず取れば安心できるかも」という本末転倒な期待から、いつしかテクニックでごまかそうとするようになっていた。 憑かれたように大量の「就活テク」で武装する日々。面接が予想した質問に終始した際は「しめしめ」と思ったりもした。 でも、本当のぼくはどこへ行ってしまったんだろう。 ふと我に返る瞬間が多くなっていた。 そんなとき、冒頭の言葉でぼくは目が覚めた。予期せぬ質問だからなんだ。思ったことを答えるのが「面接」じゃないか。 かき集めた武器は、いつの間にか背負いきれないほどの重荷となっていたのかもしれない。 面接時間の後半は、憑き物が落ちたようにいつも通り話すことができた。 好きな小説の話から池袋で目撃した斬新なナンパの話まで、面接官の方々は素の自分を快く受け入れてくれた。 続く最終面接の日。もちろんガチガチに緊張した。ネクタイピンがずれていることを警備員の方に指摘された。しかし、前回のような迷いはない。社長をはじめとする役員の方々の前でも晴れやかに話すことができた。 たしかに、就活において準備はかなり重要だ。 ぼくたちではなく、何を引っ提げて来たかを見られることもときにはある。 でも講談社の面接では、きっと武器ではなくてぼくたち自身を見てくれる。
ずっと第1志望だった講談社の3次面接。冒頭から予想していなかった質問が押し寄せ、しどろもどろな回答が続いた。そうして声まで小さくなってしまっていたのだ。
「出版業界志望は必ず併願業界を考えるべし!」
就活関連のセミナーやイベントで、耳にタコができるほど聞いたアドバイスだ。就活に対する不安で押し潰されそうだった当時のぼくは、そのアドバイスを間違ったほうに解釈してしまった。
「エントリーありがとうございます」
解禁日の3月1日にはメールボックスが溢れかえっていた。
今思うと、その中には自分がやりたいこととはかけ離れた企業もあった。「内定をとりあえず取れば安心できるかも」という本末転倒な期待から、いつしかテクニックでごまかそうとするようになっていた。
憑かれたように大量の「就活テク」で武装する日々。面接が予想した質問に終始した際は「しめしめ」と思ったりもした。
でも、本当のぼくはどこへ行ってしまったんだろう。
ふと我に返る瞬間が多くなっていた。
そんなとき、冒頭の言葉でぼくは目が覚めた。予期せぬ質問だからなんだ。思ったことを答えるのが「面接」じゃないか。
かき集めた武器は、いつの間にか背負いきれないほどの重荷となっていたのかもしれない。
面接時間の後半は、憑き物が落ちたようにいつも通り話すことができた。
好きな小説の話から池袋で目撃した斬新なナンパの話まで、面接官の方々は素の自分を快く受け入れてくれた。
続く最終面接の日。もちろんガチガチに緊張した。ネクタイピンがずれていることを警備員の方に指摘された。しかし、前回のような迷いはない。社長をはじめとする役員の方々の前でも晴れやかに話すことができた。
たしかに、就活において準備はかなり重要だ。
ぼくたちではなく、何を引っ提げて来たかを見られることもときにはある。
でも講談社の面接では、きっと武器ではなくてぼくたち自身を見てくれる。
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推しこそ物の上手なれ
文系・関東・大学院修了見込み/女性/校閲志望
「大学生時代に何に打ち込みましたか?」と聞かれると、とても困る。 一見、非常にくだらない話だからだ。 わたしが大学生時代に最も心と時間を注いだもの、それは推しである。 推し、と言っても、一人でも一つでもない。 映画も、俳優も、二次元も、舞台も、文学も、ありあまる大学生の時間で、ありとあらゆる推しに触れた。 そもそも留学も映画が好きで行ったようなものだ。 イギリスを選んだのは、演劇がとにかくいっぱい観られそうで、かつ数えきれない推し俳優のうち五人がイギリス出身だからワンチャン主演舞台が観られるのでは、と思ったからである。(実際に二回も観られた。) しかし、どんなに推しに心血を注ごうが、そんなことは就職活動で微塵も役に立たない世知辛い世の中である。 “留学で多様性に触れた”を繰り返しエントリーシートになぞる中、目に飛び込んできた講談社の設問、「大学時代を象徴する『物語』」。 もう、推しのことしか頭に出て来なかった。 サークルのリーダーになったことも、東南アジアに学校を建てたことも、バイトで売り上げを十倍にしたこともなかったが、わたしにはハリウッドスターの推しに「仲間だね」と言ってもらった経験があるのだ。 英語での生活に限界を感じるたび、母国語が英語ではないのに、ハリウッドはおろかフランスやドイツや世界中の映画に出演し活躍している推しの姿に、いつも勇気をもらっていた。 その推しに、英語が母国語ではない「仲間だね」と言ってもらったのである。 ただ推しに会った話と言ってしまえばそれまでなのだけれど、わたしの大学時代どころか人生を象徴する物語であるのは間違いなかった。 神聖なる就活の場で推しの話なんて持ち出して、と言われたら嫌だなと思ったが、わたしは今またこうしてここで推しの話をしている。 ちなみに面接は八割、推しの話をして終わった。 つまり、推しは就活をも救うのである。 あなたの推しもきっとあなたを助けてくれる、はずだ。
わたしが大学生時代に最も心と時間を注いだもの、それは推しである。
推し、と言っても、一人でも一つでもない。
映画も、俳優も、二次元も、舞台も、文学も、ありあまる大学生の時間で、ありとあらゆる推しに触れた。
そもそも留学も映画が好きで行ったようなものだ。
イギリスを選んだのは、演劇がとにかくいっぱい観られそうで、かつ数えきれない推し俳優のうち五人がイギリス出身だからワンチャン主演舞台が観られるのでは、と思ったからである。(実際に二回も観られた。)
しかし、どんなに推しに心血を注ごうが、そんなことは就職活動で微塵も役に立たない世知辛い世の中である。
“留学で多様性に触れた”を繰り返しエントリーシートになぞる中、目に飛び込んできた講談社の設問、「大学時代を象徴する『物語』」。
もう、推しのことしか頭に出て来なかった。
サークルのリーダーになったことも、東南アジアに学校を建てたことも、バイトで売り上げを十倍にしたこともなかったが、わたしにはハリウッドスターの推しに「仲間だね」と言ってもらった経験があるのだ。
英語での生活に限界を感じるたび、母国語が英語ではないのに、ハリウッドはおろかフランスやドイツや世界中の映画に出演し活躍している推しの姿に、いつも勇気をもらっていた。
その推しに、英語が母国語ではない「仲間だね」と言ってもらったのである。
ただ推しに会った話と言ってしまえばそれまでなのだけれど、わたしの大学時代どころか人生を象徴する物語であるのは間違いなかった。
神聖なる就活の場で推しの話なんて持ち出して、と言われたら嫌だなと思ったが、わたしは今またこうしてここで推しの話をしている。
ちなみに面接は八割、推しの話をして終わった。
つまり、推しは就活をも救うのである。
あなたの推しもきっとあなたを助けてくれる、はずだ。
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蟻クジラ
理系・関西・四年制大学卒業見込み/男性/学芸・学術志望
僕は一匹の蟻クジラと一緒に暮らしている。そいつは自由奔放、真面目な僕をいつも振り回す。この前なんか急に熱帯に行くと言い出して次の日連れていくことになり、大学の授業を何個か落とした。僕とは正反対の性格で大変だけど、なぜか気が合う不思議なやつだ。 就職活動が始まると蟻クジラは暇を持て余し、僕の邪魔ばかりした。ESを書いたときも、何度も書き直した渾身の一枚がムシャムシャと食べられた。そのとき彼はなぜか怒っていた。ヤケになった僕は新しい一枚を少し「自由」に書いた。すると蟻クジラはニコニコと私のまわりを周り、潮を宙に巻き上げて喜んでくれた。彼は守りに入っていた僕に喝を入れてくれたのかもしれない。 僕らは書類選考を通過し面接に進んだ。面接では、大学での研究内容、好きな本や映画、ハマっていることなどいろいろ聞いてもらえた。僕らの「大好き」は向きがバラバラで掴みどころがなく、面接官を困らせたと思う。「君がどういう人間かわからない」と言われたときは不採用を覚悟した。それからは真面目でなければ、と決めつけて堅苦しい事ばかり答えていた。ちょうどこの頃から蟻クジラの姿が見えなくなった。 そして、迎えた最終面接。社長に質問された。 「君の作文面白かったよ。君はどの翅(ハネ)が好きなんだい?」 蟻クジラと僕の「フェチ論争」の末書き上げた作文に関する質問だった。 僕は迷った。無難に真面目な回答をするべきか、自分が詰まった自由な回答をするべきか。僕が好きな僕は、どの僕なんだろう・・・。 すると突然、蟻クジラが目の前の床からザプンと現れ、大きく口を開いた。 「僕はハサミムシの翅が一番好きです!!!」 社長は少し驚いた表情をしていたが、すぐ笑みを浮かべ言った。 「オタクだねぇ~」 僕は、僕が蟻クジラでいられるこの会社に入りたいと心の底から思った。
ESSAY蟻クジラ理系・関西・四年制大学卒業見込み/男性
/学芸・学術志望僕は一匹の蟻クジラと一緒に暮らしている。そいつは自由奔放、真面目な僕をいつも振り回す。この前なんか急に熱帯に行くと言い出して次の日連れていくことになり、大学の授業を何個か落とした。僕とは正反対の性格で大変だけど、なぜか気が合う不思議なやつだ。
就職活動が始まると蟻クジラは暇を持て余し、僕の邪魔ばかりした。ESを書いたときも、何度も書き直した渾身の一枚がムシャムシャと食べられた。そのとき彼はなぜか怒っていた。ヤケになった僕は新しい一枚を少し「自由」に書いた。すると蟻クジラはニコニコと私のまわりを周り、潮を宙に巻き上げて喜んでくれた。彼は守りに入っていた僕に喝を入れてくれたのかもしれない。
僕らは書類選考を通過し面接に進んだ。面接では、大学での研究内容、好きな本や映画、ハマっていることなどいろいろ聞いてもらえた。僕らの「大好き」は向きがバラバラで掴みどころがなく、面接官を困らせたと思う。「君がどういう人間かわからない」と言われたときは不採用を覚悟した。それからは真面目でなければ、と決めつけて堅苦しい事ばかり答えていた。ちょうどこの頃から蟻クジラの姿が見えなくなった。
そして、迎えた最終面接。社長に質問された。
「君の作文面白かったよ。君はどの翅(ハネ)が好きなんだい?」
蟻クジラと僕の「フェチ論争」の末書き上げた作文に関する質問だった。
僕は迷った。無難に真面目な回答をするべきか、自分が詰まった自由な回答をするべきか。僕が好きな僕は、どの僕なんだろう・・・。
すると突然、蟻クジラが目の前の床からザプンと現れ、大きく口を開いた。
「僕はハサミムシの翅が一番好きです!!!」
社長は少し驚いた表情をしていたが、すぐ笑みを浮かべ言った。
「オタクだねぇ~」
僕は、僕が蟻クジラでいられるこの会社に入りたいと心の底から思った。