内定者エッセイ
講談社採用ホームページ名物の「内定者エッセイ」。
今年度もバラエティ豊かな26名の内定者が、受験するにあたっての決意、面接に向けた奇策、
試験を経て得たことなどなど、とことん本音の就活体験を綴っています。
でも、これらはヒントにこそなれ、答えにはなりません。
26名26通りの「ありのまま」をご覧いただきつつ、あなただけの就活物語を紡いでいってください。
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ダウンビートの正直
文系・関東・大学院修了見込み/男性/ライツ志望
ソクラテスは弟子を連れて小麦の畑にやってきた。「向こうまで進んで、あなたが思う一番大きくて美しい麦穂を選びたまえ。しかし、麦穂を手に取るチャンスは一度だけで、逆戻りも禁止だ」。君ならどうする。「37%の距離を使って一番大きい麦穂のサイズを探し出して、残りでこれより大きなものを見つけたら迷わず手にする」と、決めた顔で友人の問いかけに答えた自分がいた。そう、この問題には数学で証明できる答えがあるのだ。結婚も就職活動も同じさ。理論さえ押さえていれば、問題なくクリアできる自信があった。 今年に入り、覚えられないほど名前が長い専攻でポップカルチャーを研究している私は、修士論文と就職活動の併行を強いられた。準備は進んでますかと、就職センターの方はいつも親切に尋ねてくるのだが、そんなのいらないんじゃないのかと、いつもいらないプライドを持ってしまう。そして3月1日を迎えることになるが、正式解禁日だと思っていた自分に内定を披露する知り合いがいた。 焦った。回数を重ねて成功の確率を高めるしかないと、素早く冷静を取り戻した。気が付くと、私はすでにある会社の面接会場に座っていた。「弊社は第一志望でしょうか」。マニュアル通りに「第一志望です」と返せばよいのだが、私は躊躇してしまった。嘘は得意だ。得意だからこそ、伝わらない嘘をつかないスタンスだ。自惚れていた自分を殴りたい私の代わりに、「お前への贈り物を考えていた、絶望を贈ろうか」と言っているように見えるお祈りメールは、常識と理論にあった私の自信を叩きのめし続けていた。 伝えたい思いがなければ、いくら理論を用いても伝わることは決してない。何が成功の確率だ。私が思う一番大きくて美しい麦穂は、随分前から目の前にあったのではないか。そう悟った私は、『頭文字D』の曲を流しながら、講談社のエントリーシートを一から書き直した。今度こそ私の理論じゃなくて、私を書き込むのだ。
ESSAYダウンビートの正直文系・関東・大学院修了見込み
/男性/ライツ志望ソクラテスは弟子を連れて小麦の畑にやってきた。「向こうまで進んで、あなたが思う一番大きくて美しい麦穂を選びたまえ。しかし、麦穂を手に取るチャンスは一度だけで、逆戻りも禁止だ」。君ならどうする。「37%の距離を使って一番大きい麦穂のサイズを探し出して、残りでこれより大きなものを見つけたら迷わず手にする」と、決めた顔で友人の問いかけに答えた自分がいた。そう、この問題には数学で証明できる答えがあるのだ。結婚も就職活動も同じさ。理論さえ押さえていれば、問題なくクリアできる自信があった。
今年に入り、覚えられないほど名前が長い専攻でポップカルチャーを研究している私は、修士論文と就職活動の併行を強いられた。準備は進んでますかと、就職センターの方はいつも親切に尋ねてくるのだが、そんなのいらないんじゃないのかと、いつもいらないプライドを持ってしまう。そして3月1日を迎えることになるが、正式解禁日だと思っていた自分に内定を披露する知り合いがいた。
焦った。回数を重ねて成功の確率を高めるしかないと、素早く冷静を取り戻した。気が付くと、私はすでにある会社の面接会場に座っていた。「弊社は第一志望でしょうか」。マニュアル通りに「第一志望です」と返せばよいのだが、私は躊躇してしまった。嘘は得意だ。得意だからこそ、伝わらない嘘をつかないスタンスだ。自惚れていた自分を殴りたい私の代わりに、「お前への贈り物を考えていた、絶望を贈ろうか」と言っているように見えるお祈りメールは、常識と理論にあった私の自信を叩きのめし続けていた。
伝えたい思いがなければ、いくら理論を用いても伝わることは決してない。何が成功の確率だ。私が思う一番大きくて美しい麦穂は、随分前から目の前にあったのではないか。そう悟った私は、『頭文字D』の曲を流しながら、講談社のエントリーシートを一から書き直した。今度こそ私の理論じゃなくて、私を書き込むのだ。
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就活で、ちょっとだけ私を好きになれました
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/幼児・児童志望
就活は、辛い。
皆が同じような格好をして、皆が似たような髪型で、まるで定型文のような志望動機を言う。
それが私の中の就活というものに対するイメージでした。 私は都内の美術大学に通っていることもあり、周りは就職せずに作家として独立、もしくは技術を極めるために院に進む学生ばかりでした。
「絵が好きだから」。私が美術を始めたことも、美大に進んだことも、それだけの理由です。自分で決めたことで食べていくために、毎日必死に生きている人の多い環境のなかで、「ただ好き」でやっているだけの私は、周りよりも所謂平凡で、美術をする価値がない人間だと悩んでいました。
出版社に決めたきっかけも、絵を好きになったきっかけである絵本や漫画が好きだからです。こんな感じで就活ってしていいのか。いまいち明るいイメージを持てないまま、就活を始めました。 いざ講談社の面接に行ってみると、自分の中で想像していた就活の景色とは違いました。皆さん個性的な格好をしていたり、とにかく、しゃべる。
待合室でもこんなに話していいんだ……と最初は驚いて、戸惑ったことを覚えています。面接では、典型的な質疑応答ではなく、大学のことや、私が趣味や課題で作っていた絵本のことをいっぱい聞いてくださいました。
「その(私が作った)絵本、読んでみたいね」と言っていただいたことがとても嬉しく、忘れられません。面接官の方は、ただの受験生としてではなく、一人の人として、ちゃんと知ろうとして、話したり、聞いてくださっているんだなと感じました。 大学では、周りと比べて、落ち込む。焦りと自己嫌悪ばかりでした。けれど、就職活動をして、講談社を受けて、様々な環境と人がいて、自分は自分らしく素直にいていい。
ナマな私という人間を、受け入れてくれるところがあるんだと単純に嬉しく、安心したのかもしれません。 わたしは、“就活”という道を選んで、ほんとうに良かったです。ESSAY就活で、ちょっとだけ私を好きになれました文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/幼児・児童志望就活は、辛い。
皆が同じような格好をして、皆が似たような髪型で、まるで定型文のような志望動機を言う。
それが私の中の就活というものに対するイメージでした。私は都内の美術大学に通っていることもあり、周りは就職せずに作家として独立、もしくは技術を極めるために院に進む学生ばかりでした。
「絵が好きだから」。私が美術を始めたことも、美大に進んだことも、それだけの理由です。自分で決めたことで食べていくために、毎日必死に生きている人の多い環境のなかで、「ただ好き」でやっているだけの私は、周りよりも所謂平凡で、美術をする価値がない人間だと悩んでいました。
出版社に決めたきっかけも、絵を好きになったきっかけである絵本や漫画が好きだからです。こんな感じで就活ってしていいのか。いまいち明るいイメージを持てないまま、就活を始めました。いざ講談社の面接に行ってみると、自分の中で想像していた就活の景色とは違いました。皆さん個性的な格好をしていたり、とにかく、しゃべる。
待合室でもこんなに話していいんだ……と最初は驚いて、戸惑ったことを覚えています。面接では、典型的な質疑応答ではなく、大学のことや、私が趣味や課題で作っていた絵本のことをいっぱい聞いてくださいました。
「その(私が作った)絵本、読んでみたいね」と言っていただいたことがとても嬉しく、忘れられません。面接官の方は、ただの受験生としてではなく、一人の人として、ちゃんと知ろうとして、話したり、聞いてくださっているんだなと感じました。大学では、周りと比べて、落ち込む。焦りと自己嫌悪ばかりでした。けれど、就職活動をして、講談社を受けて、様々な環境と人がいて、自分は自分らしく素直にいていい。
ナマな私という人間を、受け入れてくれるところがあるんだと単純に嬉しく、安心したのかもしれません。わたしは、“就活”という道を選んで、ほんとうに良かったです。
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井の中の蛙、根拠のない自信を手に入れる
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
地方大学在学、東京まで往復5時間。
出版社就職を望むにはあまりに情報格差がひどく、仲間のいない環境で3年間を過ごした。 しかし不思議なもので、情報が入ってこないということは変に自信を無くすこともない。
井の中の蛙として、いくらかの根拠のない自信を携え、就活を迎えた。 しばらくして、蛙は大海を知ることとなる。
一次面接通過はたったの2社だった。 「私ならいける」と何となく思っていたけれど、そんなことはないのかもしれない。
きっと都内の私立大学の学生で、周りから一目置かれる、インスタ映えの塊みたいな人が採用されるのだろう。 ひとりぼっちの東京で、大きな不安が押し寄せてきた。
どうにかしてにじみ出るイモ感を拭わなければいけない、と思った。 運よく通った2社を手放すまいと、国会図書館に通いつめた。
二次面接を無事通過、三次面接を迎えた。 「東京にはよく来る?」
「はい」
「ルミネとか行く?」
「……行ったことはあります」 序盤でボロが出た。
しかしその瞬間肩の荷が下りたのか、全力田舎者モードでとにかくウケを取った。 「はめられたのかもしれない」
終わった瞬間にそう思った。
でも、今までで一番楽しい面接だったし、ここで落ちたらそれまでだと思った。 結果は通過。
隠さなきゃと思っていたイモ臭い経歴が認められた。
むしろそれは、立派なアイデンティティになっていたことに気が付いた。 最終面接は白のTシャツにジーンズという格好で挑んだ。
「最終に白Tで来たやつは初めてだよ」 最終面接は飾らない姿で挑もう、と決めていた。 なりたい自分があって、近づくために努力することも素敵だけれど、
今までの自分を肯定して、自信をもってさらけ出すことも同じくらい素敵なことだと知った。 そして、根拠のない自信が少しでもあるのなら、それを信じてあげて欲しい。
根拠がなくとも、今までの経験と努力無くして、その自信は手に入らないものだと思うから。ESSAY井の中の蛙、根拠のない自信を手に入れる文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ファッション・ライフスタイル志望地方大学在学、東京まで往復5時間。
出版社就職を望むにはあまりに情報格差がひどく、仲間のいない環境で3年間を過ごした。しかし不思議なもので、情報が入ってこないということは変に自信を無くすこともない。
井の中の蛙として、いくらかの根拠のない自信を携え、就活を迎えた。しばらくして、蛙は大海を知ることとなる。
一次面接通過はたったの2社だった。「私ならいける」と何となく思っていたけれど、そんなことはないのかもしれない。
きっと都内の私立大学の学生で、周りから一目置かれる、インスタ映えの塊みたいな人が採用されるのだろう。ひとりぼっちの東京で、大きな不安が押し寄せてきた。
どうにかしてにじみ出るイモ感を拭わなければいけない、と思った。運よく通った2社を手放すまいと、国会図書館に通いつめた。
二次面接を無事通過、三次面接を迎えた。「東京にはよく来る?」
「はい」
「ルミネとか行く?」
「……行ったことはあります」序盤でボロが出た。
しかしその瞬間肩の荷が下りたのか、全力田舎者モードでとにかくウケを取った。「はめられたのかもしれない」
終わった瞬間にそう思った。
でも、今までで一番楽しい面接だったし、ここで落ちたらそれまでだと思った。結果は通過。
隠さなきゃと思っていたイモ臭い経歴が認められた。
むしろそれは、立派なアイデンティティになっていたことに気が付いた。最終面接は白のTシャツにジーンズという格好で挑んだ。
「最終に白Tで来たやつは初めてだよ」最終面接は飾らない姿で挑もう、と決めていた。
なりたい自分があって、近づくために努力することも素敵だけれど、
今までの自分を肯定して、自信をもってさらけ出すことも同じくらい素敵なことだと知った。そして、根拠のない自信が少しでもあるのなら、それを信じてあげて欲しい。
根拠がなくとも、今までの経験と努力無くして、その自信は手に入らないものだと思うから。 -
自分は捨てたもんじゃない
文系・関東・大学院修了見込み/女性/ライツ志望
「そろそろ出版社への就職を諦めようと思う」。大学院進学を決めた時、電話越しで中国に住む母に伝えた。学部時代の就活では、講談社を含めて十何社もの出版社を受けたが全て落ちた。「出版社はそもそも外国人留学生を受け入れないのではないか」「日本人と一緒に日本語を競うのは無謀すぎた」と自分に言い聞かせ、無理やりそう思い込んだ。
ただ、私は中学の時から日本のコミックや小説に魅了され、「日本の出版社に入りたい」という目標を抱き始めた。それで中国から日本まで留学してきたのだ。この目標を諦めるのは、まるで自分を丸ごと否定して、捨てるようにも思えた。 悔しさや苦しさを抱えながらも、人生2度目の就活が始まった。メーカー、コンサルティング、金融……。様々な業界の面接を受けてきた。だが、どこかで「100%になれない自分」がいるように感じた。
3月、他社の面接から家に帰る途中、講談社の建物が遠くから見えた。以前の失敗に飲み込まれるようで、思わず目を背けた。いつの間にか、私は理想から逃げようとしていた。そう気づいた瞬間、「意地でも、もう一度チャレンジする」と決めた。
「たとえ受からなくても、本当にしたいことは、どうしても実現させる」と考え、私は講談社のエントリーシートを書き始めた。 決意が固まったためか、「どうして出版社? 何をしたい?」という面接官からの質問に対して、自信を持って今までの人生を話せた。最初から最後まで、素のままで居られたのは講談社の面接だけだ。
選考を通じて2年前の私を反省した。留学生だからとか、日本語力不足だからとか、自分が持つ不要な先入観でしかない。私はその思い込みによって自身を縛ってしまっていたのだ。 大事なのは、「あなたはどんな人か?」「将来何をしたいか?」を面接官に伝えることだ。かつて失敗して情けなかった時間も自分の一部で、将来も背負っていくしかない。
だから、どんな壁にぶつかっても、自分は捨てたもんじゃないのだ。ESSAY自分は捨てたもんじゃない文系・関東・大学院修了見込み
/女性/ライツ志望「そろそろ出版社への就職を諦めようと思う」。大学院進学を決めた時、電話越しで中国に住む母に伝えた。学部時代の就活では、講談社を含めて十何社もの出版社を受けたが全て落ちた。「出版社はそもそも外国人留学生を受け入れないのではないか」「日本人と一緒に日本語を競うのは無謀すぎた」と自分に言い聞かせ、無理やりそう思い込んだ。
ただ、私は中学の時から日本のコミックや小説に魅了され、「日本の出版社に入りたい」という目標を抱き始めた。それで中国から日本まで留学してきたのだ。この目標を諦めるのは、まるで自分を丸ごと否定して、捨てるようにも思えた。悔しさや苦しさを抱えながらも、人生2度目の就活が始まった。メーカー、コンサルティング、金融……。様々な業界の面接を受けてきた。だが、どこかで「100%になれない自分」がいるように感じた。
3月、他社の面接から家に帰る途中、講談社の建物が遠くから見えた。以前の失敗に飲み込まれるようで、思わず目を背けた。いつの間にか、私は理想から逃げようとしていた。そう気づいた瞬間、「意地でも、もう一度チャレンジする」と決めた。
「たとえ受からなくても、本当にしたいことは、どうしても実現させる」と考え、私は講談社のエントリーシートを書き始めた。 -
忖度は必要ありません
文系・関東・四年制大学卒業/男性/コミック志望
「忖度」──高校生のとき夏休みの読書感想文で、少し知的な自分を演出したくて、覚えたての言葉を使ってみた。その時は一般的ではなかったその言葉は、2017年に流行語になる。奇しくも私の新卒の年だった。 当時の私は不貞腐れていた。新卒採用という時代の熱に浮かされて始めた就活だった。どうせ、どの企業でも面接官に阿り、耳触りの良い言葉でアピールしないとダメだろう、と変に観念していた。だからどこでも御社が第一志望です、と威勢よく言った気がするし、全身から忖度という忖度が滲んでいたと思う。 結果、出版社には全滑りして、エンタメ業界に進んだ。目まぐるしい毎日だった。驚いたのは、白熱する議論の場に居合わせた時も、「おもしろい」をとことん突き詰めて作っていく時も、どこにも忖度はなかったことだ。どうやら「おもしろい」に忖度は必要ないようだった。そんな場所だからか、私の忖度のない漫画編集への思いも、冷めていくどころか、相乗して熱を増していった。 そんなわけで、今年も護国寺の駅を降りていた。在職中の身で、再度の就活に向き合うのは大変だった。ラブレターよりも思いを曝け出さないと書けないESも、何度も行われる面接も、新卒時よりも真摯に向き合う分、一筋縄ではいかなかった。ただそれは、採用側の選考のためのみならず、自分の熱意を深化して、十二分にぶつけるには必要な過程だったと思う。 私は勘違いしていたようで、少なくとも講談社の面接で、忖度は必要なかった。等身大の自分と、自分の熱の籠った言葉とを届ければよかった。緊張しいの私は、幾度も言葉に詰まってはその場でぐるぐると考え込んだのだが、どなたも辛抱強く聞いてくださった。「とても二度目の就活とは思えない」と冗談交じりに言われたけれども。 結局のところ、忖度のない本音こそが、「おもしろい」に通じているのだろう。 ちなみに、筆記試験でも、「忖度」を書くという問題はついぞ出なかったと記憶している。
ESSAY忖度は必要ありません文系・関東・四年制大学卒業
/男性/コミック志望「忖度」──高校生のとき夏休みの読書感想文で、少し知的な自分を演出したくて、覚えたての言葉を使ってみた。その時は一般的ではなかったその言葉は、2017年に流行語になる。奇しくも私の新卒の年だった。
当時の私は不貞腐れていた。新卒採用という時代の熱に浮かされて始めた就活だった。どうせ、どの企業でも面接官に阿り、耳触りの良い言葉でアピールしないとダメだろう、と変に観念していた。だからどこでも御社が第一志望です、と威勢よく言った気がするし、全身から忖度という忖度が滲んでいたと思う。
結果、出版社には全滑りして、エンタメ業界に進んだ。目まぐるしい毎日だった。驚いたのは、白熱する議論の場に居合わせた時も、「おもしろい」をとことん突き詰めて作っていく時も、どこにも忖度はなかったことだ。どうやら「おもしろい」に忖度は必要ないようだった。そんな場所だからか、私の忖度のない漫画編集への思いも、冷めていくどころか、相乗して熱を増していった。
そんなわけで、今年も護国寺の駅を降りていた。在職中の身で、再度の就活に向き合うのは大変だった。ラブレターよりも思いを曝け出さないと書けないESも、何度も行われる面接も、新卒時よりも真摯に向き合う分、一筋縄ではいかなかった。ただそれは、採用側の選考のためのみならず、自分の熱意を深化して、十二分にぶつけるには必要な過程だったと思う。
私は勘違いしていたようで、少なくとも講談社の面接で、忖度は必要なかった。等身大の自分と、自分の熱の籠った言葉とを届ければよかった。緊張しいの私は、幾度も言葉に詰まってはその場でぐるぐると考え込んだのだが、どなたも辛抱強く聞いてくださった。「とても二度目の就活とは思えない」と冗談交じりに言われたけれども。
結局のところ、忖度のない本音こそが、「おもしろい」に通じているのだろう。
ちなみに、筆記試験でも、「忖度」を書くという問題はついぞ出なかったと記憶している。
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人事を尽くして天命を待つ
文系・関東・四年制大学卒業/男性/コミック志望
自分は現在社会人7年目。出版社に勤務しており、自分なりに充実した社会人生活を送っている。だが、どうしても目に入る某有名週刊少年誌等、漫画業界のセンターで活躍する人々に劣等感を感じてしまっている自分もいる。「新卒時に三大出版に入社できなかった」ことは私にとって大きなコンプレックスだった。
慣れ親しんだ今の会社への情もあったが、どうしても諦めきれず、年齢制限的にもラストチャンスなので定期採用にチャレンジしてみることにした。 そうと決まれば「対策」だ。新卒時に一度落ちた経験をもとに、今度こそ内定を勝ち取るために動くことにした。
準備は単純で、「運任せ以外のやれることは全部やる」。採用試験の肝は面接だ。過去にされた質問をもとに、質問と回答の予定稿をあらかじめ作っておく。出たとこ勝負が良いなんて言う人もいるかもしれないが、緊張しいの私にはこのやり方が一番性に合っていた。志望動機はもちろん、行きたい部署ややりたい仕事、私の場合社会人なので今の仕事のことも聞かれるだろう。ESの内容も。スマホのメモ帳に書き写し、幾度となくイマジナリー面接官との面接を繰り広げた。 準備をしてきた甲斐があり、面接は思っていた以上にすんなり進んでいった。途中(私のESの写真をみて)「もっと休んだ方が良いんじゃないか」などと優しい言葉を頂いて面を食らったりしたが、結果として内定を頂けた。 今回の就職活動が辛くなかったといえば嘘になる。周りがフレッシュな大学生ばかりのところにアラサーが混ぜられるという状況、数年ぶりに筆記試験の勉強、本職の仕事の合間を縫って面接対策と、正直社会人との二足の草鞋はハードだった。でも、そこまでして手に入れたい環境がここにはあると思うので、社会人の皆さんで悶々としている方はぜひ検討してみて欲しい。長い回り道のようにも思えたが、今までのすべてに感謝を込めて、私は社会人として第二の人生の一歩を歩みだす。ESSAY人事を尽くして天命を待つ文系・関東・四年制大学卒業
/男性/コミック志望自分は現在社会人7年目。出版社に勤務しており、自分なりに充実した社会人生活を送っている。だが、どうしても目に入る某有名週刊少年誌等、漫画業界のセンターで活躍する人々に劣等感を感じてしまっている自分もいる。「新卒時に三大出版に入社できなかった」ことは私にとって大きなコンプレックスだった。
慣れ親しんだ今の会社への情もあったが、どうしても諦めきれず、年齢制限的にもラストチャンスなので定期採用にチャレンジしてみることにした。そうと決まれば「対策」だ。新卒時に一度落ちた経験をもとに、今度こそ内定を勝ち取るために動くことにした。
準備は単純で、「運任せ以外のやれることは全部やる」。採用試験の肝は面接だ。過去にされた質問をもとに、質問と回答の予定稿をあらかじめ作っておく。出たとこ勝負が良いなんて言う人もいるかもしれないが、緊張しいの私にはこのやり方が一番性に合っていた。志望動機はもちろん、行きたい部署ややりたい仕事、私の場合社会人なので今の仕事のことも聞かれるだろう。ESの内容も。スマホのメモ帳に書き写し、幾度となくイマジナリー面接官との面接を繰り広げた。準備をしてきた甲斐があり、面接は思っていた以上にすんなり進んでいった。途中(私のESの写真をみて)「もっと休んだ方が良いんじゃないか」などと優しい言葉を頂いて面を食らったりしたが、結果として内定を頂けた。
今回の就職活動が辛くなかったといえば嘘になる。周りがフレッシュな大学生ばかりのところにアラサーが混ぜられるという状況、数年ぶりに筆記試験の勉強、本職の仕事の合間を縫って面接対策と、正直社会人との二足の草鞋はハードだった。でも、そこまでして手に入れたい環境がここにはあると思うので、社会人の皆さんで悶々としている方はぜひ検討してみて欲しい。長い回り道のようにも思えたが、今までのすべてに感謝を込めて、私は社会人として第二の人生の一歩を歩みだす。
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スマートじゃなくても
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ニュース・芸能・スポーツ志望
就活は、「私って何?」を探る戦いだった。99%正しい結果が出るという性格診断を受け、「自分勝手だが人が好き。豪快だが繊細。ロマンチストだが非情」という結果を受け取った時は、文字通り頭を抱えた。私の人格、破綻してんの?
数々の自分探しを試すなかで、ひとつだけ、いつも揺るがず長所として挙がる項目があった。「めちゃめちゃ根性がある」。正直、この文句を見るたび落ち込んだ。私の長所ってそんなことなのかよ、と思ったのだ。もっとなんかあるだろ! 協調性があるとか、頭の回転が早いとか! 「めちゃめちゃ根性がある」なんて抽象的だし、馬鹿っぽすぎる。こんなんじゃ講談社で働く未来、想像できない。一番行きたい会社、一生やりたい仕事なのに……。不安で不安で、でももう迷う時間もなくて、私はとうとう開き直り、「根性」を一番の武器にしようと決めた。 そう腹を括ってからは必死だった。面接では初恋の人について語り、田舎者だけど東京でおしゃれになりたいと喚き散らし、大酒飲みです! と謎のアピールをし……最後に「あと、根性あります!」と付け加えることも忘れなかった。自分の一番人間らしい部分を大声でさらけ出したあとは決まって恥ずかしくなり、護国寺駅の階段を顔を真っ赤にしながら駆け下りた。最終的には、「これは面接じゃない。何かのプレイだ」と思うことで精神を保っていた。 自ら志願して繰り出した一発芸がダダ滑りした三次面接で(やらなくてもいいことまでやってしまうから恥ずかしい気持ちになるのだ)、「最後に一言どうぞ」と言われた時、全然用意していなかった言葉が口をついて出てきた。「私はスマートでもクレバーでもなくて、根性しかないけど、だけど、泥臭い私だからこそ、できることがあると思っています」。
ダサくてちっぽけだと思っていた私の武器。それを堂々と、自分のいい所ですって言えた。やっぱりちょっと言葉の響きは馬鹿っぽいけど、でも、でもそれが私だ。ESSAYスマートじゃなくても文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ニュース・芸能・スポーツ志望就活は、「私って何?」を探る戦いだった。99%正しい結果が出るという性格診断を受け、「自分勝手だが人が好き。豪快だが繊細。ロマンチストだが非情」という結果を受け取った時は、文字通り頭を抱えた。私の人格、破綻してんの?
数々の自分探しを試すなかで、ひとつだけ、いつも揺るがず長所として挙がる項目があった。「めちゃめちゃ根性がある」。正直、この文句を見るたび落ち込んだ。私の長所ってそんなことなのかよ、と思ったのだ。もっとなんかあるだろ! 協調性があるとか、頭の回転が早いとか! 「めちゃめちゃ根性がある」なんて抽象的だし、馬鹿っぽすぎる。こんなんじゃ講談社で働く未来、想像できない。一番行きたい会社、一生やりたい仕事なのに……。不安で不安で、でももう迷う時間もなくて、私はとうとう開き直り、「根性」を一番の武器にしようと決めた。そう腹を括ってからは必死だった。面接では初恋の人について語り、田舎者だけど東京でおしゃれになりたいと喚き散らし、大酒飲みです! と謎のアピールをし……最後に「あと、根性あります!」と付け加えることも忘れなかった。自分の一番人間らしい部分を大声でさらけ出したあとは決まって恥ずかしくなり、護国寺駅の階段を顔を真っ赤にしながら駆け下りた。最終的には、「これは面接じゃない。何かのプレイだ」と思うことで精神を保っていた。
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「趣味はうどんです!」
理系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ライツ志望
就職活動は長いようで短かった。冬の私は、学費を稼ぐためにひたすらアルバイトをしており、動き出したのは年が明けてからだった。1月に慌てて何社かインターンを申し込み、アルバイト先にも休む旨を伝え、私の就活は始まった。 始めてすぐに、自分が多大なマイナスを抱えていることに気づいた。1浪2留、数学科、語学なし、コネなし。エントリーシートの資格の欄に、10年前に取得した漢検2級を書いた。ひどすぎて自分でも笑ってしまった。この状態で志望する業界に入るためにはどうしたらいいか悩みながら、なりふり構わずエントリーシートを出し続けた。腱鞘炎になって泣きながら郵便局で書く羽目になったときは、無職を覚悟した。 そんな私が唯一持っていたものがうどんだった。あるうどんチェーン店が大好きで、年200杯のうどんを食べ、社員並の知識を持ってしまった私は、テレビ番組にも取材された。 このうどんが、私を救ってくれた。どこに行っても面接で聞かれたし、人事の方にも「うどんのやつ」と顔を覚えてもらえた。おすすめのうどん屋を面接官に尋ねたこともあった。この話だけ用意して、たくさんの会社を巡った。1日に3社選考がある日もあったほど、目まぐるしく活動した。 その中で一番動揺した面接が講談社だった。「エントリーシートのうどんの話はおもしろかったので、それ以外でお願いします」と言われたのだ。動揺しすぎて面接官の顔すら覚えていない。 あっという間に6月になり、内々定の連絡をいただいた。最初に訪れた就職活動のイベントで入社したいと思った会社から内々定をいただけたのは、純粋に嬉しかった。選考を通過できたのは、私にしかないものを飾らずに話したからだと思っている。私の「とんがり」はうどんだったから胸を張って答えていた。 「趣味はうどんです!」 乗り越えたご褒美に、普段は頼まない牛すき釜玉うどんを食べた。私史上最もおいしい一杯だった。
ESSAY「趣味はうどんです!」理系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ライツ志望就職活動は長いようで短かった。冬の私は、学費を稼ぐためにひたすらアルバイトをしており、動き出したのは年が明けてからだった。1月に慌てて何社かインターンを申し込み、アルバイト先にも休む旨を伝え、私の就活は始まった。
始めてすぐに、自分が多大なマイナスを抱えていることに気づいた。1浪2留、数学科、語学なし、コネなし。エントリーシートの資格の欄に、10年前に取得した漢検2級を書いた。ひどすぎて自分でも笑ってしまった。この状態で志望する業界に入るためにはどうしたらいいか悩みながら、なりふり構わずエントリーシートを出し続けた。腱鞘炎になって泣きながら郵便局で書く羽目になったときは、無職を覚悟した。
そんな私が唯一持っていたものがうどんだった。あるうどんチェーン店が大好きで、年200杯のうどんを食べ、社員並の知識を持ってしまった私は、テレビ番組にも取材された。
このうどんが、私を救ってくれた。どこに行っても面接で聞かれたし、人事の方にも「うどんのやつ」と顔を覚えてもらえた。おすすめのうどん屋を面接官に尋ねたこともあった。この話だけ用意して、たくさんの会社を巡った。1日に3社選考がある日もあったほど、目まぐるしく活動した。
その中で一番動揺した面接が講談社だった。「エントリーシートのうどんの話はおもしろかったので、それ以外でお願いします」と言われたのだ。動揺しすぎて面接官の顔すら覚えていない。
あっという間に6月になり、内々定の連絡をいただいた。最初に訪れた就職活動のイベントで入社したいと思った会社から内々定をいただけたのは、純粋に嬉しかった。選考を通過できたのは、私にしかないものを飾らずに話したからだと思っている。私の「とんがり」はうどんだったから胸を張って答えていた。
「趣味はうどんです!」
乗り越えたご褒美に、普段は頼まない牛すき釜玉うどんを食べた。私史上最もおいしい一杯だった。
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崖っぷちの恋
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/販売・宣伝志望
就活は恋愛に通じる。スーツ姿でしばしば耳にしては鼻で笑っていたセリフだ。だが、この常套句はあながち間違いではないのかもしれない……。 「誠に残念ながら貴意に添いかねる結果となりました。○○様(私)の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」。幾度となく頂いたお祈りメール。不採用通知を慣れた手つきで削除する自分にほとほと嫌気がさしていた。「あがり症ですぐ早口になってしまう私に、就活は向いていないんだな……」とぼやく日々。 事実、就活も佳境に入る5月末、私に残された選考は講談社と他一社の最終面接結果のみだった(他社は後日お祈りを頂きました)。暗澹たる気持ちが私を包み、「就浪」という現実が脳裏にちらつく。 それでも、自分の就活スタイルを変える気は毛頭無かった。「移り気で飽き性な私がずっと仕事を続けるには、ありのままの自分を受け入れてくれる会社でなきゃいけないんだ!」という大層傲慢なロマンを掲げ、負け戦を繰り返していた。 背水の陣で迎えた講談社の三次面接当日。朝早く護国寺へと赴き、地蔵様に一言願掛けをしたおかげか。はたまた、受付前で汗をだくだく流していた私に、優しく声をかけてくれた人事の方のおかげか。程よい緊張感を保ちつつ、そしてさほど早口にならず(多分)、素の自分を伝えられたと思う。 インモラルが好きだと告白した。心に突き刺さる、等身大の自分が見えてくると。「確かに君はビジネス誌業界には向いてない。けど、うちのような色々な人がいる会社に合っているよ」と、しっかりと目を見て応えてくれた。女装の過去を告白した。まるでアイドルになったかのような高揚感を味わえたと。「君、最初は真面目な人だと思っていたけど、結構面白いね」と、目を細めつつ応えてくれた。 面接終了時、裸の、ありのままの自分が彼らの好奇心を刺激できたのだと思わずガッツポーズした。あぁ、この会社でこの人たちと働きたいな。そのとき確かに、私は恋に落ちていた。
ESSAY崖っぷちの恋文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/販売・宣伝志望就活は恋愛に通じる。スーツ姿でしばしば耳にしては鼻で笑っていたセリフだ。だが、この常套句はあながち間違いではないのかもしれない……。
「誠に残念ながら貴意に添いかねる結果となりました。○○様(私)の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」。幾度となく頂いたお祈りメール。不採用通知を慣れた手つきで削除する自分にほとほと嫌気がさしていた。「あがり症ですぐ早口になってしまう私に、就活は向いていないんだな……」とぼやく日々。
事実、就活も佳境に入る5月末、私に残された選考は講談社と他一社の最終面接結果のみだった(他社は後日お祈りを頂きました)。暗澹たる気持ちが私を包み、「就浪」という現実が脳裏にちらつく。
それでも、自分の就活スタイルを変える気は毛頭無かった。「移り気で飽き性な私がずっと仕事を続けるには、ありのままの自分を受け入れてくれる会社でなきゃいけないんだ!」という大層傲慢なロマンを掲げ、負け戦を繰り返していた。
背水の陣で迎えた講談社の三次面接当日。朝早く護国寺へと赴き、地蔵様に一言願掛けをしたおかげか。はたまた、受付前で汗をだくだく流していた私に、優しく声をかけてくれた人事の方のおかげか。程よい緊張感を保ちつつ、そしてさほど早口にならず(多分)、素の自分を伝えられたと思う。
インモラルが好きだと告白した。心に突き刺さる、等身大の自分が見えてくると。「確かに君はビジネス誌業界には向いてない。けど、うちのような色々な人がいる会社に合っているよ」と、しっかりと目を見て応えてくれた。女装の過去を告白した。まるでアイドルになったかのような高揚感を味わえたと。「君、最初は真面目な人だと思っていたけど、結構面白いね」と、目を細めつつ応えてくれた。
面接終了時、裸の、ありのままの自分が彼らの好奇心を刺激できたのだと思わずガッツポーズした。あぁ、この会社でこの人たちと働きたいな。そのとき確かに、私は恋に落ちていた。
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オタクのオタク
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/校閲志望
「オタクのオタク」。これは、就職活動に際して自らにつけたキャッチコピーだ。世の中に数多いる「オタク」と呼ばれる人々に、その分野の魅力や面白いトピックを教えてもらったり、オタクの行動分析をするという私自身の趣味や性格を表している。 就活という大真面目な場にもかかわらずこんなトンチキキャッチコピーをつけようと思ったのは、自己PRが全く思いつかなかったからだ。外国語が大の苦手で、一芸があるわけでもなく、校閲の経験もない私にはアピールできるようなことがなかった(そもそも校閲志望は何をアピールすればいいかもわからなかった)。そこで、もういっそ開き直って他業界ではあまり言えないような趣味を個性にしてしまおうと考えたのだ。 講談社の面接ではどの面接でもこの「オタクのオタク」を面白がっていただけた。特に一次面接では「講談社はオタクいっぱいいるよ! 絶対入ったら楽しいと思うよ!」という面接官の方のお言葉についテンションが上がってしまい、「今まで一番びっくりした人はどんな人ですか!?」と面接を忘れて質問をしてしまった。即座にやらかしたと青ざめた私だったが、「同期にこんな人がいてね……」「そうそう、〇〇さんも……」と面接官の方々はむしろ話を膨らませてくださった。まるで飲み屋で意気投合したかのような楽しい面接が終わった後、紋切り型の面接ではなくこんなに一緒に会話を楽しんでくれる企業は他にはないと思い、エントリーシートに書いた「御社以外はすべり止め」という決意が執念に変わった。 就活で武器になるのは自分が今持っているスキルや資格だけだと思ってしまいがちだ。しかし講談社の方々は、私のこれまでの趣味や出会った人々、そこで感じたことを重視してくれていたように思う。だからどうか、自分には素質がないと諦めるのは待ってほしい。講談社を志すに至った貴方の人生が、すでにその素質になっているかもしれないのだから。
ESSAYオタクのオタク文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/校閲志望「オタクのオタク」。これは、就職活動に際して自らにつけたキャッチコピーだ。世の中に数多いる「オタク」と呼ばれる人々に、その分野の魅力や面白いトピックを教えてもらったり、オタクの行動分析をするという私自身の趣味や性格を表している。
就活という大真面目な場にもかかわらずこんなトンチキキャッチコピーをつけようと思ったのは、自己PRが全く思いつかなかったからだ。外国語が大の苦手で、一芸があるわけでもなく、校閲の経験もない私にはアピールできるようなことがなかった(そもそも校閲志望は何をアピールすればいいかもわからなかった)。そこで、もういっそ開き直って他業界ではあまり言えないような趣味を個性にしてしまおうと考えたのだ。
講談社の面接ではどの面接でもこの「オタクのオタク」を面白がっていただけた。特に一次面接では「講談社はオタクいっぱいいるよ! 絶対入ったら楽しいと思うよ!」という面接官の方のお言葉についテンションが上がってしまい、「今まで一番びっくりした人はどんな人ですか!?」と面接を忘れて質問をしてしまった。即座にやらかしたと青ざめた私だったが、「同期にこんな人がいてね……」「そうそう、〇〇さんも……」と面接官の方々はむしろ話を膨らませてくださった。まるで飲み屋で意気投合したかのような楽しい面接が終わった後、紋切り型の面接ではなくこんなに一緒に会話を楽しんでくれる企業は他にはないと思い、エントリーシートに書いた「御社以外はすべり止め」という決意が執念に変わった。
就活で武器になるのは自分が今持っているスキルや資格だけだと思ってしまいがちだ。しかし講談社の方々は、私のこれまでの趣味や出会った人々、そこで感じたことを重視してくれていたように思う。だからどうか、自分には素質がないと諦めるのは待ってほしい。講談社を志すに至った貴方の人生が、すでにその素質になっているかもしれないのだから。
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備えはなくとも戦える!
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ライツ志望
「間に合わへん……」 3月、私はヨーロッパの片田舎で途方に暮れていた。羊や馬に囲まれのんびり暮らしているうちに、就職活動に対する危機感を失っていたようだ。留学からの帰国を目前にしてようやく就活サイトをチェックしはじめ、世間はもう就活一色であると気がついた。某出版社の選考には間に合わず、自らの将来に対する計画性のなさに呆れることとなった。 就職活動は大学受験と違って、誰かが発破をかけてくれるわけでも周りと一斉にスタートするわけでもないらしい。「はい、夏になったから部活を引退して、予備校に行って、志望校に願書を出してくださいね」とは誰も言ってくれない。注意していないと知らぬ間に始まっている。それが就職活動である。というわけで私の就職活動は帰国後、幸いにも講談社の締め切りに間に合ったところからようやく始動した。 「人生はなるようにしかならない」とはよく言ったもので、今までどれだけ努力しても報われないこともあったし、期せずして思いが叶うこともあった。明らかに準備不足だった私にできることは、今回の就職活動が後者であることを信じて勢いでぶつかっていくことだけだった。 選考中、やはり出版社で働くことに対する準備不足は隠しきれなかった。鋭い質問に考えの甘さを見透かされた。しかし、同時に講談社の面接は、「私」という人間そのものも見てくれていたと思う。これまで自分が何をしてきたのか、何に心を動かされてきたのか。そんな話もたくさんできた。実際、頑張って考えた企画の話よりも、最近の失敗談がウケたのだから驚きだ。開き直って、自由気ままに過ごしてきた大学生活を存分に語り、内定を頂いた。結局力になったのは付け焼き刃の準備ではなく、今までの人生だ。 「就職活動があるから」とやりたいことを後回しにするのはもったいない! 奔放に生きて、その余りあるエネルギーを不格好な形のまま大人たちにぶつけてやる。そんな就職活動もありかもしれない。
ESSAY備えはなくとも戦える!文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ライツ志望「間に合わへん……」
3月、私はヨーロッパの片田舎で途方に暮れていた。羊や馬に囲まれのんびり暮らしているうちに、就職活動に対する危機感を失っていたようだ。留学からの帰国を目前にしてようやく就活サイトをチェックしはじめ、世間はもう就活一色であると気がついた。某出版社の選考には間に合わず、自らの将来に対する計画性のなさに呆れることとなった。
就職活動は大学受験と違って、誰かが発破をかけてくれるわけでも周りと一斉にスタートするわけでもないらしい。「はい、夏になったから部活を引退して、予備校に行って、志望校に願書を出してくださいね」とは誰も言ってくれない。注意していないと知らぬ間に始まっている。それが就職活動である。というわけで私の就職活動は帰国後、幸いにも講談社の締め切りに間に合ったところからようやく始動した。
「人生はなるようにしかならない」とはよく言ったもので、今までどれだけ努力しても報われないこともあったし、期せずして思いが叶うこともあった。明らかに準備不足だった私にできることは、今回の就職活動が後者であることを信じて勢いでぶつかっていくことだけだった。
選考中、やはり出版社で働くことに対する準備不足は隠しきれなかった。鋭い質問に考えの甘さを見透かされた。しかし、同時に講談社の面接は、「私」という人間そのものも見てくれていたと思う。これまで自分が何をしてきたのか、何に心を動かされてきたのか。そんな話もたくさんできた。実際、頑張って考えた企画の話よりも、最近の失敗談がウケたのだから驚きだ。開き直って、自由気ままに過ごしてきた大学生活を存分に語り、内定を頂いた。結局力になったのは付け焼き刃の準備ではなく、今までの人生だ。
「就職活動があるから」とやりたいことを後回しにするのはもったいない! 奔放に生きて、その余りあるエネルギーを不格好な形のまま大人たちにぶつけてやる。そんな就職活動もありかもしれない。
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結局「すき」が一番つよい
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/コミック志望
「ごめん、てっきり就活で忙しいかと思って卒業旅行誘わなかった……」 唯一無二の親友だと思っていた子から告げられた言葉である。留年して内定も無い分際で、社会人を目前に最後の学生生活を謳歌せんとする彼女らのお祭りムードに便乗出来るはずもなかったのだ。漸く腹を括った2月半ば、孤独な留年生の就職活動が幕を開けた。 当初は「出版社なんて超絶狭き門、自分には無理だ」と思い込んでおり、とりあえず就活サイトのトップページにある企業に片っ端からエントリーしていた。対策本を読み漁り、テンプレに則ってESの項目を埋める日々。
「趣味かぁ、漫画・アニメ鑑賞……はウケが悪いらしいから料理にしとくか」
ちなみに私の料理スキルは、目玉焼きを作ろうとして卵をレンジでチンして爆発させるレベルである。 こんなして自分を捏造しているうちに段々とやりたいことが分からなくなり、就活のモチベーションは失われていった。
私って何が好きなんだっけ? 何がしたいんだっけ?
幼少期から買いためた漫画で埋め尽くされた自分の部屋を見渡して、ハッとする。
思えば、私が人生で最も愛とお金と時間を注いできたものは漫画だった。タイミング遅めの自己分析を経て「これ(漫画)しかないじゃん!」と、試しに提出締め切りの迫る講談社のESを書いてみる。
楽しい! 偽る余地も無く、思うままに書ける! 運良く筆記試験を通過し、漕ぎ着けた講談社の面接。そこは就活を通して最も素で挑むことができ、過敏性腸症候群の私が唯一お腹を下さずに居られた場所であった。
何故なら、面接官との会話はまるで友達に好きな作品を勧めるような、妄想を語り尽くすような、ありのままの自分で臨めたからだ。作品に対する愛と熱意だけではなく、不平不満、更には自らの性癖までぶちまけても面白がってくれる懐の深さがここにはある。模範解答ではなく、楽しくおしゃべりするように、好きなモノについて話す時の表情が一番魅力的なのだ。ESSAY結局「すき」が一番つよい文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/コミック志望「ごめん、てっきり就活で忙しいかと思って卒業旅行誘わなかった……」
唯一無二の親友だと思っていた子から告げられた言葉である。留年して内定も無い分際で、社会人を目前に最後の学生生活を謳歌せんとする彼女らのお祭りムードに便乗出来るはずもなかったのだ。漸く腹を括った2月半ば、孤独な留年生の就職活動が幕を開けた。
当初は「出版社なんて超絶狭き門、自分には無理だ」と思い込んでおり、とりあえず就活サイトのトップページにある企業に片っ端からエントリーしていた。対策本を読み漁り、テンプレに則ってESの項目を埋める日々。
「趣味かぁ、漫画・アニメ鑑賞……はウケが悪いらしいから料理にしとくか」
ちなみに私の料理スキルは、目玉焼きを作ろうとして卵をレンジでチンして爆発させるレベルである。こんなして自分を捏造しているうちに段々とやりたいことが分からなくなり、就活のモチベーションは失われていった。
私って何が好きなんだっけ? 何がしたいんだっけ?
幼少期から買いためた漫画で埋め尽くされた自分の部屋を見渡して、ハッとする。
思えば、私が人生で最も愛とお金と時間を注いできたものは漫画だった。タイミング遅めの自己分析を経て「これ(漫画)しかないじゃん!」と、試しに提出締め切りの迫る講談社のESを書いてみる。
楽しい! 偽る余地も無く、思うままに書ける!運良く筆記試験を通過し、漕ぎ着けた講談社の面接。そこは就活を通して最も素で挑むことができ、過敏性腸症候群の私が唯一お腹を下さずに居られた場所であった。
何故なら、面接官との会話はまるで友達に好きな作品を勧めるような、妄想を語り尽くすような、ありのままの自分で臨めたからだ。作品に対する愛と熱意だけではなく、不平不満、更には自らの性癖までぶちまけても面白がってくれる懐の深さがここにはある。模範解答ではなく、楽しくおしゃべりするように、好きなモノについて話す時の表情が一番魅力的なのだ。 -
色彩を持たない就活生と、彼の参拝の年
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/文芸志望
就活を始めて間もない3月初旬、僕は早くも絶望していた。
講談社の採用サイトの「新入社員アンケート」にこう書かれていたからだ。
【Q.講談社の採用について一番近いイメージはどれ? ⇒ 全くの運任せ:62.5%】
人生をかけた就活が全くの運任せだと?
今まで自分がツイていると思った瞬間が僕にはただの一度だってなかったのだ。
おみくじは末吉ばかりだし、虫には顔をよく刺され、自転車はよく盗まれる。
そして、なぜか僕が券売機にお札を通すと、必ずと言っていいほど詰まる。 そんな運のない僕の個性と想いは講談社に通用するのだろうか?
何はともあれ、そこから僕の参拝の日々が始まった。安直だけれど、もう運を味方につけるしかないと思ったのだ。明治神宮で就活守りを買ってからのこと、僕は日常で見つけた寺、神社、教会、祠、地蔵にひたすらに祈り、願った。筆記試験と計5回の面接当日には自宅の仏壇と神棚に祈り、家を出た。護国寺には面接前と後に必ず参拝し、この地で働かせてください! と心の中で叫んだ。 面接本番、十分すぎるほどに神と仏を味方につけたと思った僕は、言いたいことを全部言ってしまおうと決めた。今ならどんなに失敗しても、薄情な神と仏のせいだ! という捨て身の覚悟だった。思えば、それこそが僕が初めて運を掴んだ瞬間だったのかもしれない。
ありのままに夢や熱意を語り、正面からぶつかった分だけ面接官の方々は僕の個性や情熱を見てくれようとしたのだ。
「ES、書くの下手くそか!」とはっきり言われたけれど、それでも会話の中で僕のとんがり部分を探してくれた。僕も下手くそな言葉でもぶつかり続けようと思った。 運も実力のうちというのは間違っていると思う。運も、実力だって、どちらも自分で切り開かなければ身につかないのだ。神と仏のおかげにも、せいにもできるくらい、出来ることから全力でこなしていく。拙い言葉でも、泥臭くても、ありのままの自分をさらけ出せばきっとそこに運は付いてくる。ESSAY色彩を持たない就活生と、彼の参拝の年文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/文芸志望就活を始めて間もない3月初旬、僕は早くも絶望していた。
講談社の採用サイトの「新入社員アンケート」にこう書かれていたからだ。
【Q.講談社の採用について一番近いイメージはどれ? ⇒ 全くの運任せ:62.5%】
人生をかけた就活が全くの運任せだと?
今まで自分がツイていると思った瞬間が僕にはただの一度だってなかったのだ。
おみくじは末吉ばかりだし、虫には顔をよく刺され、自転車はよく盗まれる。
そして、なぜか僕が券売機にお札を通すと、必ずと言っていいほど詰まる。そんな運のない僕の個性と想いは講談社に通用するのだろうか?
何はともあれ、そこから僕の参拝の日々が始まった。安直だけれど、もう運を味方につけるしかないと思ったのだ。明治神宮で就活守りを買ってからのこと、僕は日常で見つけた寺、神社、教会、祠、地蔵にひたすらに祈り、願った。筆記試験と計5回の面接当日には自宅の仏壇と神棚に祈り、家を出た。護国寺には面接前と後に必ず参拝し、この地で働かせてください! と心の中で叫んだ。面接本番、十分すぎるほどに神と仏を味方につけたと思った僕は、言いたいことを全部言ってしまおうと決めた。今ならどんなに失敗しても、薄情な神と仏のせいだ! という捨て身の覚悟だった。思えば、それこそが僕が初めて運を掴んだ瞬間だったのかもしれない。
ありのままに夢や熱意を語り、正面からぶつかった分だけ面接官の方々は僕の個性や情熱を見てくれようとしたのだ。
「ES、書くの下手くそか!」とはっきり言われたけれど、それでも会話の中で僕のとんがり部分を探してくれた。僕も下手くそな言葉でもぶつかり続けようと思った。運も実力のうちというのは間違っていると思う。運も、実力だって、どちらも自分で切り開かなければ身につかないのだ。神と仏のおかげにも、せいにもできるくらい、出来ることから全力でこなしていく。拙い言葉でも、泥臭くても、ありのままの自分をさらけ出せばきっとそこに運は付いてくる。
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小心者の就活生へ
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
私には、講談社の面接前夜に必ず守っていたジンクスが2つあった。ひとつ目は講談社の本を1冊読むこと。ふたつ目は真っ暗闇の中、近所の神社にお参りに行くこと。だから、勝負の日はいつも寝不足だった。
このジンクスのおかげではなく、評価されるべくしてされたのだと信じてやまないが、もしあの時の私と同じように、不安でたまらない夜を過ごしている就活生がこれを読んでいるならば、気休めにおすすめする。当たり前だが、早く寝られそうなら寝たほうがよい。 ジンクスの話で伝わったかもしれないが、私は臆病な小心者だ。ありのままに私を語れば、面接官は絶対に落胆すると疑わなかった。だから、私は自分を少しでも大きく見せるために、企業理念や業績を調べ上げた上で、頭の良さそうな志望理由を毎回必死に練っていた。
講談社の面接当日も、いつもと変わらず丸暗記した志望理由をブツブツ唱えながら向かった。しかし、面接官の顔を見た瞬間、「ああ、この人たちにこの志望理由は響かない」となぜか咄嗟に思った。それまで数多くの会社の面接を受けてきたが、そういう感覚を得たのは初めてのことだった。
代わりに、言葉にしたことはなかったが、心の奥底でぼんやり思っていたことを話した。地方では自分のことをお洒落だと思っていたけれど、上京してみたらダサかったこと。そんな私が大学生活を明るく楽しめたのは『ViVi』のおかげだったこと。
あの堅苦しい志望理由を口にしていれば、間違いなく私はこのエッセイを書いていない。きっと小心者を見かねた神社の神様が助け舟を出してくれたのだろう。 面接では背伸びしないでよいと言えば、「じゃあ、ありのままの自分をさらけ出して落ちたらどうしてくれるんだ」という声が聞こえてきそうだが、「本当の自分がどうしたらその会社の役に立てるかを考えればよかったのだ」と、今、私はあの頃の私に教えてあげたい。
すべての小心者の就活がうまくいくよう健闘を祈ります。ESSAY小心者の就活生へ文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ファッション・ライフスタイル志望私には、講談社の面接前夜に必ず守っていたジンクスが2つあった。ひとつ目は講談社の本を1冊読むこと。ふたつ目は真っ暗闇の中、近所の神社にお参りに行くこと。だから、勝負の日はいつも寝不足だった。
このジンクスのおかげではなく、評価されるべくしてされたのだと信じてやまないが、もしあの時の私と同じように、不安でたまらない夜を過ごしている就活生がこれを読んでいるならば、気休めにおすすめする。当たり前だが、早く寝られそうなら寝たほうがよい。ジンクスの話で伝わったかもしれないが、私は臆病な小心者だ。ありのままに私を語れば、面接官は絶対に落胆すると疑わなかった。だから、私は自分を少しでも大きく見せるために、企業理念や業績を調べ上げた上で、頭の良さそうな志望理由を毎回必死に練っていた。
講談社の面接当日も、いつもと変わらず丸暗記した志望理由をブツブツ唱えながら向かった。しかし、面接官の顔を見た瞬間、「ああ、この人たちにこの志望理由は響かない」となぜか咄嗟に思った。それまで数多くの会社の面接を受けてきたが、そういう感覚を得たのは初めてのことだった。
代わりに、言葉にしたことはなかったが、心の奥底でぼんやり思っていたことを話した。地方では自分のことをお洒落だと思っていたけれど、上京してみたらダサかったこと。そんな私が大学生活を明るく楽しめたのは『ViVi』のおかげだったこと。
あの堅苦しい志望理由を口にしていれば、間違いなく私はこのエッセイを書いていない。きっと小心者を見かねた神社の神様が助け舟を出してくれたのだろう。 -
大英博物館と猥談
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
「ミーハーですけどなにか」と開き直ってきた。「才能ないんやから、大人しく家を継ぎなさい」と言い放った父親へのコンプレックス。「所詮、君はお山の大将だったんだね」と言い放ったシティーボーイな先輩へのコンプレックス。私は「知らないことはない」と自己防衛するために、学生時代にあらゆる領域のコンテンツをチェックするようにしていた。
一次、二次面接と両方で「興味の幅がとにかく広いです」と伝えた。深みのあるミーハーであり続けたことだけは自信だった。 三次面接。「これから漫画はどのようなかたちになると思う?」と面接官から聞かれた。「大英博物館で漫画が特集されたように、芸術としての側面が強くなると思います」「なので、もっとジャンクな作品があってもいいと思います」と答えた。我ながら悪くない回答だと思った。リアルタイムな話題、それに対する冷静な分析、紋切り型の回答でもない。ほくそ笑んだ。
すると、思わぬツッコミが。「でも君のエントリーシートに書いてある企画は全然ジャンクじゃないよね」頭が真っ白になった。「あっ、あっ……」と紋切り型な焦り方をする自分。2、3個ほどジャンクだと思う企画をぶつけてみたが面接官の表情は変わらない。しまいには「な〜んか違うんだよな」と言われる始末。過ぎていく時間、立っていくフラグ。
「もうワンチャンスください、お願いします」と続けた私の口から出たのは、「猥談を漫画化する」という企画だった。ドッと湧く部屋、晴れていく空気。「それを最初から言いなさいよ」面接官の表情が柔らかくなった。 就活中でも、「大英博物館」も「猥談」も引っ張り出せるミーハーな自分でいられたこと。それは、学生時代にコンプレックスと向き合い続けたからだと振り返って思う。
これを読んでくれた就活生へ、どうか怖がらずに恥ずかしがらずに自分のコンプレックスと向き合ってほしい。そのコンプレックスはきっとあなたの強みに変わると思うから。ESSAY大英博物館と猥談文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/コミック志望「ミーハーですけどなにか」と開き直ってきた。「才能ないんやから、大人しく家を継ぎなさい」と言い放った父親へのコンプレックス。「所詮、君はお山の大将だったんだね」と言い放ったシティーボーイな先輩へのコンプレックス。私は「知らないことはない」と自己防衛するために、学生時代にあらゆる領域のコンテンツをチェックするようにしていた。
一次、二次面接と両方で「興味の幅がとにかく広いです」と伝えた。深みのあるミーハーであり続けたことだけは自信だった。三次面接。「これから漫画はどのようなかたちになると思う?」と面接官から聞かれた。「大英博物館で漫画が特集されたように、芸術としての側面が強くなると思います」「なので、もっとジャンクな作品があってもいいと思います」と答えた。我ながら悪くない回答だと思った。リアルタイムな話題、それに対する冷静な分析、紋切り型の回答でもない。ほくそ笑んだ。
すると、思わぬツッコミが。「でも君のエントリーシートに書いてある企画は全然ジャンクじゃないよね」頭が真っ白になった。「あっ、あっ……」と紋切り型な焦り方をする自分。2、3個ほどジャンクだと思う企画をぶつけてみたが面接官の表情は変わらない。しまいには「な〜んか違うんだよな」と言われる始末。過ぎていく時間、立っていくフラグ。
「もうワンチャンスください、お願いします」と続けた私の口から出たのは、「猥談を漫画化する」という企画だった。ドッと湧く部屋、晴れていく空気。「それを最初から言いなさいよ」面接官の表情が柔らかくなった。 -
自分だけの答えを探して
文系・関東・大学院修了見込み/男性/学芸・学術志望
就職活動を始めたころ、就活には「模範解答」があるものだと私は思い込んでいた。書店の就職コーナーへ行けばハウツー本がうず高く積まれていて、就活サイトにも情報が溢れている。そこに載っている通りにやれば、自然に内定がもらえるものと勘違いしていた。 しかし私の甘い考えは早々に打ち砕かれる。初めて面接を受けた出版社。その会社の本を読み込み、先方から好かれそうな自分を演出して臨んだ。だがそこで面接官の方々から聞かれたことを要約すれば、「本当の君はどんな人間なの?」この質問一つに尽きた。そんなこと本にもサイトにも載っているわけがない。結局上手く答えられず残念な結果に終わった。落ちてみて初めて、本当の自分を出さなかったことを悔しく思った。 それからは開き直って、素の自分で行くと決めた。特技欄にモノマネと書いたために面接官の前で歌ったこともあれば、短所を聞かれて(編集者志望としてあるまじき)「締め切りに弱いこと」と答えたこともある。就活マニュアルにある「模範解答」ではないが仕方ない。だってこれが本当の僕なのだから。きっとそれが原因で落ちた企業もあると思うが、不思議とあの時ほどの喪失感はなかった。 そして、忘れもしない講談社の三次面接はとても楽しい時間だった(そもそもあの会話を面接と呼んでいいのか今でも疑問である)。おもしろいと思う本や好きな海外ドラマ、ありのままの自分を語っているだけであっという間に時間が過ぎており、生身の僕を出し尽くした。「たとえ落ちたとしても後悔はない」、そう言い切れるほど清々しい気持ちで護国寺駅を後にしたことを覚えている。 あらためて振り返ると、自分だけの答えを探すプロセスの大切さを実感した半年間だった。就職活動中、不安になって何かに頼りたくなるのは当然だと思う。だがそんな時こそ胸に手を当てて考えてみてほしい。この問いの先にきっと答えがあるはずだ。 「本当のあなたはどのような人ですか?」
ESSAY自分だけの答えを探して文系・関東・大学院修了見込み
/男性/学芸・学術志望就職活動を始めたころ、就活には「模範解答」があるものだと私は思い込んでいた。書店の就職コーナーへ行けばハウツー本がうず高く積まれていて、就活サイトにも情報が溢れている。そこに載っている通りにやれば、自然に内定がもらえるものと勘違いしていた。
しかし私の甘い考えは早々に打ち砕かれる。初めて面接を受けた出版社。その会社の本を読み込み、先方から好かれそうな自分を演出して臨んだ。だがそこで面接官の方々から聞かれたことを要約すれば、「本当の君はどんな人間なの?」この質問一つに尽きた。そんなこと本にもサイトにも載っているわけがない。結局上手く答えられず残念な結果に終わった。落ちてみて初めて、本当の自分を出さなかったことを悔しく思った。
それからは開き直って、素の自分で行くと決めた。特技欄にモノマネと書いたために面接官の前で歌ったこともあれば、短所を聞かれて(編集者志望としてあるまじき)「締め切りに弱いこと」と答えたこともある。就活マニュアルにある「模範解答」ではないが仕方ない。だってこれが本当の僕なのだから。きっとそれが原因で落ちた企業もあると思うが、不思議とあの時ほどの喪失感はなかった。
そして、忘れもしない講談社の三次面接はとても楽しい時間だった(そもそもあの会話を面接と呼んでいいのか今でも疑問である)。おもしろいと思う本や好きな海外ドラマ、ありのままの自分を語っているだけであっという間に時間が過ぎており、生身の僕を出し尽くした。「たとえ落ちたとしても後悔はない」、そう言い切れるほど清々しい気持ちで護国寺駅を後にしたことを覚えている。
あらためて振り返ると、自分だけの答えを探すプロセスの大切さを実感した半年間だった。就職活動中、不安になって何かに頼りたくなるのは当然だと思う。だがそんな時こそ胸に手を当てて考えてみてほしい。この問いの先にきっと答えがあるはずだ。
「本当のあなたはどのような人ですか?」
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自惚れ屋の目にも涙
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/コミック志望
「どうしよう。このままだと私、小説家としてスカウトされちゃうかも……」
私は脚を組みながら読み返した。第一志望である講談社の筆記試験の作文で、過去最高の一本が書けてしまったのだ。試験が終わると、私は颯爽と会場を後にした。 お察しの通り、私は自惚れ屋である。「なんか向いてる気がする」という謎の自信のもと、狭き門である出版社ばかり受けていた就活でもその性格がよく表れていたと思う。特に講談社は作文の件もあり、「私は講談社と相性がいい」などと完全に思い上がっていた。 だが、そんな傲慢な人間にはバチが当たるようだ。
「作文感動したよ。あれって実話?」
三次面接。ついに例の話題がでた。
「はい、実話です! あの話は……」
しかし、それ以上声が出なかった。なぜならば、突然私は泣き出してしまったからだ!
「終わった……」
調子に乗るなよ、と神様に言われた気がした。 本当は、私は自分に自信がない。だからこそ、自分が優れていると思える部分をひけらかしてしまう。そうすることで、劣っている部分を隠しているのだ。
だからあの時私は、そんな自分の自慢を憧れの講談社に勤めている人に褒めてもらえたことがすごく嬉しかったのだと思う。そのことで緊張の糸が緩み、思わず泣いてしまった。 「もう開き直って本当の私を見せよう」
心が折れかけていたが、そう思って自分の涙の理由を話した。それに続き、そんな私が救われた漫画の話や、だからこそ絶対に講談社に入ってそれに負けないくらいの作品をつくりたい、という想いも話した。
面接官の方々は、私の話を真剣に聞いてくださった。上手く話せなくても泣いてしまっていても、その向こうの「本当の私」を見てくれた。講談社は、誰かの本気に同じくらい本気で向き合ってくれる。 そして奇跡が起きて、私は今、こうして内定者エッセイを書いている。
「もう調子に乗りません」と神に誓ったはずだが、春から講談社で働けると思うと、にやけずにいられない。ESSAY自惚れ屋の目にも涙文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/コミック志望「どうしよう。このままだと私、小説家としてスカウトされちゃうかも……」
私は脚を組みながら読み返した。第一志望である講談社の筆記試験の作文で、過去最高の一本が書けてしまったのだ。試験が終わると、私は颯爽と会場を後にした。お察しの通り、私は自惚れ屋である。「なんか向いてる気がする」という謎の自信のもと、狭き門である出版社ばかり受けていた就活でもその性格がよく表れていたと思う。特に講談社は作文の件もあり、「私は講談社と相性がいい」などと完全に思い上がっていた。
だが、そんな傲慢な人間にはバチが当たるようだ。
「作文感動したよ。あれって実話?」
三次面接。ついに例の話題がでた。
「はい、実話です! あの話は……」
しかし、それ以上声が出なかった。なぜならば、突然私は泣き出してしまったからだ!
「終わった……」
調子に乗るなよ、と神様に言われた気がした。本当は、私は自分に自信がない。だからこそ、自分が優れていると思える部分をひけらかしてしまう。そうすることで、劣っている部分を隠しているのだ。
だからあの時私は、そんな自分の自慢を憧れの講談社に勤めている人に褒めてもらえたことがすごく嬉しかったのだと思う。そのことで緊張の糸が緩み、思わず泣いてしまった。「もう開き直って本当の私を見せよう」
心が折れかけていたが、そう思って自分の涙の理由を話した。それに続き、そんな私が救われた漫画の話や、だからこそ絶対に講談社に入ってそれに負けないくらいの作品をつくりたい、という想いも話した。
面接官の方々は、私の話を真剣に聞いてくださった。上手く話せなくても泣いてしまっていても、その向こうの「本当の私」を見てくれた。講談社は、誰かの本気に同じくらい本気で向き合ってくれる。そして奇跡が起きて、私は今、こうして内定者エッセイを書いている。
「もう調子に乗りません」と神に誓ったはずだが、春から講談社で働けると思うと、にやけずにいられない。 -
「あなたのことを簡単に説明してください」
文系・関西・四年制大学卒業見込み/男性/学芸・学術志望
「あなたのことを簡単に説明してください」
エントリーシートでも面接でも、就活中によく出会う質問だ。就職活動を始めて少し経った頃の僕は、この質問がかなり嫌いになっていた。自分のしてきた経験を相手の会社が求めている人物像に合わせて切り貼りし、「主体性」やら「課題解決」やら、イイ感じの言葉でパッケージングする。手慣れてくると同時に、「これは誰のことを言ってるんだろう?」と思う自分がいた。 しかし、同じ「自分を説明する」のでも、僕にはウキウキして話せる場所があった。古本屋である。自分のよく行く古本屋のおじさんは本当によく喋る人で、人が手にとった本を見てはすぐに話しかけてくる。それに誘われて自分も読書趣味や恋愛観や悩みなどをさらけ出してみると、ドンピシャの本を差し出してくれたりする。他人ではあるけれど、差し出した「僕」のことを面白がって本を選んでくれる。こういう会話をするのは楽しいのになあ、と就活中ずっと思っていた。 所変わって講談社の一次面接。いつものようにイイ感じの言葉を装備して面接に向かった。志望動機やらガクチカやらをきっちり話せたと思っていたところに、「最近読んで面白かった本はなんですか?」という準備していなかった質問が飛んできた。とっさに口をついて出たのは講談社の本でも、ましてや志望部署に関係もしない宮沢賢治の本。就活中に出会い、面接の数日前におじさんに「こんなの見つけたんすよ」と話していたせいだ。言ってしまった以上、しどろもどろになりながら賢治がいかに変な人でオモロイかを説いた。スマートでも論理的でもない(そもそも本の説明でもない)説明だったが、目を上げて見た面接官の顔は少し綻んでいるように見えた。 就活用に武装した「自分」が崩れて、薄皮をめくった自分が顔を出す。少し恥ずかしい瞬間だけど、「あなたという人間」はそこに出てくるのではないだろうか。簡単になんて説明できないけれども。ESSAY「あなたのことを簡単に説明してください」文系・関西・四年制大学卒業見込み
/男性/学芸・学術志望「あなたのことを簡単に説明してください」
エントリーシートでも面接でも、就活中によく出会う質問だ。就職活動を始めて少し経った頃の僕は、この質問がかなり嫌いになっていた。自分のしてきた経験を相手の会社が求めている人物像に合わせて切り貼りし、「主体性」やら「課題解決」やら、イイ感じの言葉でパッケージングする。手慣れてくると同時に、「これは誰のことを言ってるんだろう?」と思う自分がいた。しかし、同じ「自分を説明する」のでも、僕にはウキウキして話せる場所があった。古本屋である。自分のよく行く古本屋のおじさんは本当によく喋る人で、人が手にとった本を見てはすぐに話しかけてくる。それに誘われて自分も読書趣味や恋愛観や悩みなどをさらけ出してみると、ドンピシャの本を差し出してくれたりする。他人ではあるけれど、差し出した「僕」のことを面白がって本を選んでくれる。こういう会話をするのは楽しいのになあ、と就活中ずっと思っていた。
所変わって講談社の一次面接。いつものようにイイ感じの言葉を装備して面接に向かった。志望動機やらガクチカやらをきっちり話せたと思っていたところに、「最近読んで面白かった本はなんですか?」という準備していなかった質問が飛んできた。とっさに口をついて出たのは講談社の本でも、ましてや志望部署に関係もしない宮沢賢治の本。就活中に出会い、面接の数日前におじさんに「こんなの見つけたんすよ」と話していたせいだ。言ってしまった以上、しどろもどろになりながら賢治がいかに変な人でオモロイかを説いた。スマートでも論理的でもない(そもそも本の説明でもない)説明だったが、目を上げて見た面接官の顔は少し綻んでいるように見えた。
就活用に武装した「自分」が崩れて、薄皮をめくった自分が顔を出す。少し恥ずかしい瞬間だけど、「あなたという人間」はそこに出てくるのではないだろうか。簡単になんて説明できないけれども。
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大人は判ってくれないこともない
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
怪人に立ち向かう覚悟を決め、「よーいスタート」の声に合わせてカチンコを打つ代わりに扉をノック。20分後こんなはずじゃないという「カット」の声がかかり、退出。就活生Aは、ESという脚本の上で作った理想の就活ヒーローA’へと変身を遂げるためのベルト装着段階で怪人面接官の奇襲攻撃に遭い、無様に散る。学生時代に好きだった映画、音楽、お笑いという装備は、面接において何も助けてくれないと絶望的な気持ちになった。 自然体を求めるなら、なぜスーツという着慣れない衣装を義務付けるのか。不満は止まない。人は理想のヒーローになどなれない。怪人も同じだ。ニコニコ装っていても容赦なく“地獄のお祈り”をお見舞いし、就活生を放浪の旅へ出向かせる。弱音を吐けないポジティブハラスメントに体力消耗するのが私である。私ができる抵抗は出来る限り媚びず、でも決して威圧的にならないこと。 怪人は、就活ヒーローが書いた媚び諂う弱点だらけのESを調書のように眺め、“汝、嘘つくなビーム”を発射。与えられた状況で自分を保つには、状況をラフにしてもらうしかない。私の就活は他力本願。幸い講談社の面接は最後まで私服でよかったので、変身ベルトから解放されて就活を束の間忘れられたし、嫌でも他人と比較されるグループ選考もなく個人として受け入れられている感覚があった。 勿論失敗しても個人として否定されるわけでもないと怪人……失礼、「快人」に声をかけてもらえた。自分を飾らない環境で、初めて就活生Aは就活生Aのまま、
快人「本は好き?」
A 「好きだけど、映画の方が詳しいです」
快人「講談社の漫画のどんなところが好き?」
A 「いい意味で特徴が無いところだと思います」
と伝えられる。歩み寄ってくれる怪人(快人)も稀にいるなら、面接は運でしかなくても自分や好きなものを嫌いにならなくてもいい。自分をよく見せることに抵抗のある人はそれだけで魅力的だし、尊重されていいと気づいた。ESSAY大人は判ってくれないこともない文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/コミック志望怪人に立ち向かう覚悟を決め、「よーいスタート」の声に合わせてカチンコを打つ代わりに扉をノック。20分後こんなはずじゃないという「カット」の声がかかり、退出。就活生Aは、ESという脚本の上で作った理想の就活ヒーローA’へと変身を遂げるためのベルト装着段階で怪人面接官の奇襲攻撃に遭い、無様に散る。学生時代に好きだった映画、音楽、お笑いという装備は、面接において何も助けてくれないと絶望的な気持ちになった。
自然体を求めるなら、なぜスーツという着慣れない衣装を義務付けるのか。不満は止まない。人は理想のヒーローになどなれない。怪人も同じだ。ニコニコ装っていても容赦なく“地獄のお祈り”をお見舞いし、就活生を放浪の旅へ出向かせる。弱音を吐けないポジティブハラスメントに体力消耗するのが私である。私ができる抵抗は出来る限り媚びず、でも決して威圧的にならないこと。
怪人は、就活ヒーローが書いた媚び諂う弱点だらけのESを調書のように眺め、“汝、嘘つくなビーム”を発射。与えられた状況で自分を保つには、状況をラフにしてもらうしかない。私の就活は他力本願。幸い講談社の面接は最後まで私服でよかったので、変身ベルトから解放されて就活を束の間忘れられたし、嫌でも他人と比較されるグループ選考もなく個人として受け入れられている感覚があった。
勿論失敗しても個人として否定されるわけでもないと怪人……失礼、「快人」に声をかけてもらえた。自分を飾らない環境で、初めて就活生Aは就活生Aのまま、
快人「本は好き?」
A 「好きだけど、映画の方が詳しいです」
快人「講談社の漫画のどんなところが好き?」
A 「いい意味で特徴が無いところだと思います」
と伝えられる。歩み寄ってくれる怪人(快人)も稀にいるなら、面接は運でしかなくても自分や好きなものを嫌いにならなくてもいい。自分をよく見せることに抵抗のある人はそれだけで魅力的だし、尊重されていいと気づいた。 -
あなたの椅子
文系・関西・四年制大学卒業見込み/男性/ファッション・ライフスタイル志望
就活は椅子取りゲーム。自分が今座っている椅子が、いつなくなるかはわからない。面接を受けるたび、そんな恐怖を感じていた。 中学、高校と、教室には自分の席が用意されていて、そこが自分の居場所だった。大学に入ってからも「自分の椅子を自分で作る」なんて経験は、ろくにしていない。だから面接で「あなたは誰ですか」と問われるたびに困惑した。ただ座っていただけの私は、自分を知らなすぎた。そして私は、自分を見失った。 自信をなくし、迎えた講談社の面接。「好きなことはなんですか?」というシンプルな問いに、思わず言葉があふれた。ファッション、映画、好きな80年代の雑誌のこと。心から出てきた、自分の好きなものについての話。「時代錯誤だね」と言いながらも、面接官の方々は笑って話を聞いてくれた。こわばっていた私の輪郭が、部屋に溶け込んでいくような、そんな感覚。少しだけれども、その日の私は自分の色で椅子を染められた気がした。「ここで自分の椅子を作りたい、いや、作るんだ」そんな思いがこみ上げてきた。 迎えた最終面接。練習してきた志望動機、準備してきた「最後の一言」を話す。用意してきた言葉たちは、喉からうまくでてこない。素直さを失った言葉たちは、私の温度とも部屋の空気ともちぐはぐで、言葉はどこかへ浮かんでいってしまった。「準備してきたことを話すと緊張するんだね」そう最後に声をかけられたとき、私は自然と「もう一度だけ、最後に一言言わせてください」とお願いしていた。面接官の方は、優しくチャンスをくれた。その時私は思ったことを素直に、滑らかに、ありったけの熱量で話した。そうしたことで、自分の色を少しだけ、椅子に置いて帰ることができたように思う。 こんな文章を書き終えた今でも、自分のことはよくわからない。けれども、いつだって「好き」という感情には素直になれる。自分の椅子を作るのは、そんな素直な心なのかもしれない。
ESSAYあなたの椅子文系・関西・四年制大学卒業見込み
/男性/ファッション・ライフスタイル志望就活は椅子取りゲーム。自分が今座っている椅子が、いつなくなるかはわからない。面接を受けるたび、そんな恐怖を感じていた。
中学、高校と、教室には自分の席が用意されていて、そこが自分の居場所だった。大学に入ってからも「自分の椅子を自分で作る」なんて経験は、ろくにしていない。だから面接で「あなたは誰ですか」と問われるたびに困惑した。ただ座っていただけの私は、自分を知らなすぎた。そして私は、自分を見失った。
自信をなくし、迎えた講談社の面接。「好きなことはなんですか?」というシンプルな問いに、思わず言葉があふれた。ファッション、映画、好きな80年代の雑誌のこと。心から出てきた、自分の好きなものについての話。「時代錯誤だね」と言いながらも、面接官の方々は笑って話を聞いてくれた。こわばっていた私の輪郭が、部屋に溶け込んでいくような、そんな感覚。少しだけれども、その日の私は自分の色で椅子を染められた気がした。「ここで自分の椅子を作りたい、いや、作るんだ」そんな思いがこみ上げてきた。
迎えた最終面接。練習してきた志望動機、準備してきた「最後の一言」を話す。用意してきた言葉たちは、喉からうまくでてこない。素直さを失った言葉たちは、私の温度とも部屋の空気ともちぐはぐで、言葉はどこかへ浮かんでいってしまった。「準備してきたことを話すと緊張するんだね」そう最後に声をかけられたとき、私は自然と「もう一度だけ、最後に一言言わせてください」とお願いしていた。面接官の方は、優しくチャンスをくれた。その時私は思ったことを素直に、滑らかに、ありったけの熱量で話した。そうしたことで、自分の色を少しだけ、椅子に置いて帰ることができたように思う。
こんな文章を書き終えた今でも、自分のことはよくわからない。けれども、いつだって「好き」という感情には素直になれる。自分の椅子を作るのは、そんな素直な心なのかもしれない。
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これまでの道
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/コミック志望
講談社の筆記試験が終わった後、私は護国寺の境内にあるベンチに座り、人目も憚らず大号泣していた。出版社恒例の作文が思うように書けずに試験が終了してしまったのだ。就活の準備をギリギリまでせず、他社の書類選考のお祈りが続々と届いていた事も重なり、気がつくと涙が溢れ出していた。
筆記試験に構えすぎて、作文を答えがあるかのように考えていた。考えるほどに何度も書き直し、気付くと時間はほとんど残されておらず、後悔ばかりが残った。
「自分の好きな事すら語れないかもしれない……」
「話を聞いてもらう前に終わってしまうのか……」
そんな考えが頭をよぎると、境内で一人どうしようもない気持ちになった。 まさかまさかの通過通知を頂いた時、この筆記試験の経験があったからこそ、必ず後悔をしない面接をしようと心に決めた。素直な気持ちを伝える事が、今自分に出来る最大限の事だと思った。 そうして迎えた一次面接から最終面接まで、難しい質問が多く飛んできた。
「小説で泣いた事があればそのフレーズと理由を教えて」
「この企画を漫画にするとして、今キャッチフレーズ作ってみて」
「君のこれまでの経験と出版社ってどう繋がるの?」
緊張で頭が真っ白になりながらも出てきた答えは、大好きな本への大切な想いだけだった。反抗期だった時の話や本に励まされた時の事、ひとつひとつの答えは、自分の人生そのものだった。 就活では何度も涙を流し、お祈りされるたびに、これまで自分が歩いてきた道が否定されたような気持ちになった。けれど、自分の歩いてきた道が今に繋がっていると気づくことができたのは、講談社の面接のおかげだと思う。 実は一次面接の控え室で印象に残っている人事の方との会話がある。
「筆記試験ってどうだった?」
「正直、ダメだと思っていました……」
「でも、今ここにいるじゃん!」
近道もまわり道もあって今ここにいる。これまでの道のおかげで、難しい質問に答えられたのかもしれない。ESSAYこれまでの道文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/コミック志望講談社の筆記試験が終わった後、私は護国寺の境内にあるベンチに座り、人目も憚らず大号泣していた。出版社恒例の作文が思うように書けずに試験が終了してしまったのだ。就活の準備をギリギリまでせず、他社の書類選考のお祈りが続々と届いていた事も重なり、気がつくと涙が溢れ出していた。
筆記試験に構えすぎて、作文を答えがあるかのように考えていた。考えるほどに何度も書き直し、気付くと時間はほとんど残されておらず、後悔ばかりが残った。
「自分の好きな事すら語れないかもしれない……」
「話を聞いてもらう前に終わってしまうのか……」
そんな考えが頭をよぎると、境内で一人どうしようもない気持ちになった。まさかまさかの通過通知を頂いた時、この筆記試験の経験があったからこそ、必ず後悔をしない面接をしようと心に決めた。素直な気持ちを伝える事が、今自分に出来る最大限の事だと思った。
そうして迎えた一次面接から最終面接まで、難しい質問が多く飛んできた。
「小説で泣いた事があればそのフレーズと理由を教えて」
「この企画を漫画にするとして、今キャッチフレーズ作ってみて」
「君のこれまでの経験と出版社ってどう繋がるの?」
緊張で頭が真っ白になりながらも出てきた答えは、大好きな本への大切な想いだけだった。反抗期だった時の話や本に励まされた時の事、ひとつひとつの答えは、自分の人生そのものだった。就活では何度も涙を流し、お祈りされるたびに、これまで自分が歩いてきた道が否定されたような気持ちになった。けれど、自分の歩いてきた道が今に繋がっていると気づくことができたのは、講談社の面接のおかげだと思う。
実は一次面接の控え室で印象に残っている人事の方との会話がある。
「筆記試験ってどうだった?」
「正直、ダメだと思っていました……」
「でも、今ここにいるじゃん!」
近道もまわり道もあって今ここにいる。これまでの道のおかげで、難しい質問に答えられたのかもしれない。 -
準備とアドリブのあいだ
文系・関東・大学院修了見込み/男性/学芸・学術志望
大事な物事にはきちんと準備して臨むタイプだ。
それはアドリブに自信がないこともあるし、不安になりやすい性格のせいもある。
講談社の面接も、面接ごとに対策シートを作り、自分なりに入念な準備を重ねたつもり「だった」。 一次面接。趣のある講堂でパネルに仕切られたブースに入る。入ろうとしたら、入り口がわからない。あちこち見てもドアノブも目印もない。仕方ないからパネルの上から覗いてみた(僕は186センチある)。さながら進撃の巨人だっただろう。
むりやり壁を破壊して(パネルを動かして)ブース内に入った時、面接官から「そこから!?」と驚きの声があがった。 三次面接。ここが正念場と、出来る限りの準備をした。学芸志望だが、マンガから週刊誌まで企画を用意し、出版の未来についても考えをまとめてきた。
「今まで、両親と一番喧嘩したのはいつ?」
「なんで一人暮らししないの?」
実際に三次面接で聞かれた質問だ。30分以上の長い面接の中で、企画も出版の未来も、会ってみたい著者も全く聞かれなかった。 ご覧の通り、事前の準備が見事に実を結んだとは言い難い。じゃあ、「準備なんて意味ない。出版の面接は運だ」となるかというと、そうじゃないと思う。
予想外の質問や事態になった時にもなんとか対応できたのは、結局、準備を通じて自分の想いや考えが整理できていたからだ。初手からやらかした時も、予想外の質問でパニックになりかけた時も、自分の軸がしっかり出来ていたから、迷子にならずにすんだ。 これを読んでいる皆さんは、出版の就活は変わっていて準備できない、という話を聞いたことがあるかもしれない。
多分、そんなことはない。変わった質問の中にも、出版人としての資質や、あなたの想いを図る要素はある。
やらかしてしまって頭が真っ白になっても、丁寧に質問に答えれば、面接官はきちんと見てくれる。
安心して、しっかりと自分の考えやアイデアをまとめて、後は全力で伝えてください。ESSAY準備とアドリブのあいだ文系・関東・大学院修了見込み
/男性/学芸・学術志望大事な物事にはきちんと準備して臨むタイプだ。
それはアドリブに自信がないこともあるし、不安になりやすい性格のせいもある。
講談社の面接も、面接ごとに対策シートを作り、自分なりに入念な準備を重ねたつもり「だった」。一次面接。趣のある講堂でパネルに仕切られたブースに入る。入ろうとしたら、入り口がわからない。あちこち見てもドアノブも目印もない。仕方ないからパネルの上から覗いてみた(僕は186センチある)。さながら進撃の巨人だっただろう。
むりやり壁を破壊して(パネルを動かして)ブース内に入った時、面接官から「そこから!?」と驚きの声があがった。三次面接。ここが正念場と、出来る限りの準備をした。学芸志望だが、マンガから週刊誌まで企画を用意し、出版の未来についても考えをまとめてきた。
「今まで、両親と一番喧嘩したのはいつ?」
「なんで一人暮らししないの?」
実際に三次面接で聞かれた質問だ。30分以上の長い面接の中で、企画も出版の未来も、会ってみたい著者も全く聞かれなかった。ご覧の通り、事前の準備が見事に実を結んだとは言い難い。じゃあ、「準備なんて意味ない。出版の面接は運だ」となるかというと、そうじゃないと思う。
予想外の質問や事態になった時にもなんとか対応できたのは、結局、準備を通じて自分の想いや考えが整理できていたからだ。初手からやらかした時も、予想外の質問でパニックになりかけた時も、自分の軸がしっかり出来ていたから、迷子にならずにすんだ。これを読んでいる皆さんは、出版の就活は変わっていて準備できない、という話を聞いたことがあるかもしれない。
多分、そんなことはない。変わった質問の中にも、出版人としての資質や、あなたの想いを図る要素はある。
やらかしてしまって頭が真っ白になっても、丁寧に質問に答えれば、面接官はきちんと見てくれる。
安心して、しっかりと自分の考えやアイデアをまとめて、後は全力で伝えてください。 -
丸腰で
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
「あの、あの、好きでした」
2年間練りに練った告白の文句は全て飛んでしまって、私の初告白はとてもシンプルに終わった。中学3年生の春のことだ。 私は既にこの頃から、準備をすればするほど上手くいかない星の巡りにいるらしい。 就職活動の面接も例外ではなかった。
志望動機、ガクチカ、面接で聞かれることは大体決まっていて、決まっているからには準備をした。
しかし実際に面接で聞かれると、準備したことを言うのが嫌で堪らなくなる。ぎこちなくなってしまってだめなのだ。 そして世の就職内定率が50%を越えた5月中旬、内定0の私はついに決める。
面接には、丸腰で挑む。
ESを読み返さず、質問を想定せず、準備ゼロで面接に行くこと。
それはある意味、ありのままの自分を認めてもらいたいという気持ちの表れだったのかもしれなかった。 そんな矢先の講談社の面接で、ひょんなことから初恋の話をすることになった。
もちろん準備しているはずもなく、ちょっと引かれてしまうくらいの熱心な初恋話は5分に及んだかもしれない。
けれど、やっちゃった、という心持ちで見上げた面接官の笑顔と、「よく喋るけど、無駄なことは言ってないね」という言葉にはっとした。 私は面接が嫌なのではなかった。
ただ、私にとって、面接用に話をまとめることで省かれてしまう曖昧な感情や感覚こそがとても大事で、伝えたいことなのだ。
大切に思うことを省くのが嫌で堪らないのだ。そうなのだ。 初恋の話は、まさにそんな、私の曖昧な感情や感覚だらけの話だった。
それに対しての「無駄はない」はつまり、私と同じように、そんな感情や感覚を大切にしているということなのだと感じて嬉しかった。 初恋の告白も、丸腰で挑んだなら何か違っただろうか。そんなことは分からない。
何が起こるか分からない人生で、私達は結局のところ丸腰だ。どうせなら自分のやりたいようにやるのがいい。
大切なものを大切にできる方法を選んでよいのだ。ESSAY丸腰で文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/文芸志望「あの、あの、好きでした」
2年間練りに練った告白の文句は全て飛んでしまって、私の初告白はとてもシンプルに終わった。中学3年生の春のことだ。私は既にこの頃から、準備をすればするほど上手くいかない星の巡りにいるらしい。
就職活動の面接も例外ではなかった。
志望動機、ガクチカ、面接で聞かれることは大体決まっていて、決まっているからには準備をした。
しかし実際に面接で聞かれると、準備したことを言うのが嫌で堪らなくなる。ぎこちなくなってしまってだめなのだ。そして世の就職内定率が50%を越えた5月中旬、内定0の私はついに決める。
面接には、丸腰で挑む。
ESを読み返さず、質問を想定せず、準備ゼロで面接に行くこと。
それはある意味、ありのままの自分を認めてもらいたいという気持ちの表れだったのかもしれなかった。そんな矢先の講談社の面接で、ひょんなことから初恋の話をすることになった。
もちろん準備しているはずもなく、ちょっと引かれてしまうくらいの熱心な初恋話は5分に及んだかもしれない。
けれど、やっちゃった、という心持ちで見上げた面接官の笑顔と、「よく喋るけど、無駄なことは言ってないね」という言葉にはっとした。私は面接が嫌なのではなかった。
ただ、私にとって、面接用に話をまとめることで省かれてしまう曖昧な感情や感覚こそがとても大事で、伝えたいことなのだ。
大切に思うことを省くのが嫌で堪らないのだ。そうなのだ。初恋の話は、まさにそんな、私の曖昧な感情や感覚だらけの話だった。
それに対しての「無駄はない」はつまり、私と同じように、そんな感情や感覚を大切にしているということなのだと感じて嬉しかった。初恋の告白も、丸腰で挑んだなら何か違っただろうか。そんなことは分からない。
何が起こるか分からない人生で、私達は結局のところ丸腰だ。どうせなら自分のやりたいようにやるのがいい。
大切なものを大切にできる方法を選んでよいのだ。 -
立ち止まるな
文系・関東・大学院修了見込み/女性/ライツ志望
「お祈りされたみんなのESはどうなるんだ?」
某出版社にお祈りをもらったとき、私は呆然とそんなことを考えた。何度も練り直し、書き直し、厳選した写真まで貼った数枚の紙は、今頃シュレッダーでずたずたになっているだろうか。 傷心のあまり浮かんできたその光景がひどく虚しかった。二日間、部屋にひきこもって現実逃避を試みたが、全くすっきりせず、むしろ焦りが増した。 出版は狭き門。誰よりも〇〇が好きだと自負していても、どれほど国会図書館で雑誌を読み漁っても、上には上がいて、面接官が飛ばす質問は誰にも予測できない。受かる保証はどこにもない。すべてが無駄な時間、無駄な努力に感じる時が来るかもしれない。 私も投げ出そうとしたことがある。無理ゲーだし、入っても激務だし、本は趣味でいい、などとお布団の中で理屈を並べた。 それでも、心の底からやりたいことがあるなら、くよくよと突っ立っている暇などないのだ。嵐のようにESの締め切りが次から次へとやってくる。筆記試験の後は仲間と答え合わせ、面接の後は一人で反省会。毎日、テレビを見て、本屋に足を運ぶ。ノートは読んだ本の感想でぎっしり。常に寝不足で、身体がみるみる痩せていく。しんどい。しんどいけれど、お布団の中に逃げるよりはましだ。就活のモヤモヤは、就活でしか解消できない。 お祈りされたESは写真として携帯に残っていた。何を隠そう、一度思いを言葉にしたそれを基盤にESを量産した。 無駄は一つもなかったと思う。今まで触れてきたものが思わぬ所で武器になってくれた。それはもはや本やアニメの話だけでなく、大学一年の夏休みに観光した街や、軽い気持ちで後輩と訪れた飲食店、電車の中でふっと目にした広告――これはすべて講談社の面接で話したことだ。 自信がなくて結構! 賢くなくてもいい。私の好きな漫画の主人公はこう言った。
「前に進めば前進する。」
先が暗ければ暗いほど、猛然と走りたくなる就活だった。ESSAY立ち止まるな文系・関東・大学院修了見込み
/女性/ライツ志望「お祈りされたみんなのESはどうなるんだ?」
某出版社にお祈りをもらったとき、私は呆然とそんなことを考えた。何度も練り直し、書き直し、厳選した写真まで貼った数枚の紙は、今頃シュレッダーでずたずたになっているだろうか。傷心のあまり浮かんできたその光景がひどく虚しかった。二日間、部屋にひきこもって現実逃避を試みたが、全くすっきりせず、むしろ焦りが増した。
出版は狭き門。誰よりも〇〇が好きだと自負していても、どれほど国会図書館で雑誌を読み漁っても、上には上がいて、面接官が飛ばす質問は誰にも予測できない。受かる保証はどこにもない。すべてが無駄な時間、無駄な努力に感じる時が来るかもしれない。
私も投げ出そうとしたことがある。無理ゲーだし、入っても激務だし、本は趣味でいい、などとお布団の中で理屈を並べた。
それでも、心の底からやりたいことがあるなら、くよくよと突っ立っている暇などないのだ。嵐のようにESの締め切りが次から次へとやってくる。筆記試験の後は仲間と答え合わせ、面接の後は一人で反省会。毎日、テレビを見て、本屋に足を運ぶ。ノートは読んだ本の感想でぎっしり。常に寝不足で、身体がみるみる痩せていく。しんどい。しんどいけれど、お布団の中に逃げるよりはましだ。就活のモヤモヤは、就活でしか解消できない。
お祈りされたESは写真として携帯に残っていた。何を隠そう、一度思いを言葉にしたそれを基盤にESを量産した。
無駄は一つもなかったと思う。今まで触れてきたものが思わぬ所で武器になってくれた。それはもはや本やアニメの話だけでなく、大学一年の夏休みに観光した街や、軽い気持ちで後輩と訪れた飲食店、電車の中でふっと目にした広告――これはすべて講談社の面接で話したことだ。
自信がなくて結構! 賢くなくてもいい。私の好きな漫画の主人公はこう言った。
「前に進めば前進する。」
先が暗ければ暗いほど、猛然と走りたくなる就活だった。 -
活
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/校閲志望
「活」とつく熟語は、基本大嫌いだ。朝活、終活、婚活、妊活、そして就活……。そうそう、「独活(うど)」は別に好きでも嫌いでもない。 自分のことを話すのが苦手な私は、就活に大苦戦した。あがり性で、面接の場では思うように言葉が出ない。日々積み重なるお祈りメールの束に、心は悲鳴をあげていた。暑苦しくて動きづらいスーツは1秒たりとも着たくないし、靴擦れを起こす革靴だって非効率の極みだと思う。そもそもたったの10分会っただけで評価を下すだなんて、ずいぶんとアンフェアではないか──。 そんな、「就活を渋々やっている」態度がにじみ出てしまっていたのか、受ける面接受ける面接すべてで「お祈り」されてしまった。敗北に敗北を重ね、選考に残っている企業は講談社しかなくなってしまった。死中に活を求めて、最後の一社に挑むしかなかったのだ。 幸いなことに、今まで一次面接すらろくに突破できなかった私だけれども、講談社だけはなぜか三次面接まで突破できていた。でも、ここで落ちたら、また就活がゼロからやり直しになる。面接時に通される控室の中で、重いスーツに身を包んだ私は重い気持ちに支配されていた。 「このままどこにも就職できないのではないか、そもそも今までの面接だって何が良くて通ったのかわからない。何かの間違いなのではないだろうか──」 そのような考えが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。最終面接を前にして、活力はもはやゼロ。このままの状態で面接に臨んでいたら、きっと何も話せなくて落ちてしまっていただろう。 そんな私を見かねたのか、人事の方が声をかけてくれた。 「今までの面接官は、『君がいい』と思ったから上にあげたんだよ」 この一言で、目の前が晴れた気がした。そうだ、今私がここにいるのは、今まで会ってきた人たちみんなが私に期待してくれているからだ。私はここにいていいんだ! 私は、自分に自信が持てない私に「活」を入れて面接会場の扉を開けた。
ESSAY活文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/校閲志望「活」とつく熟語は、基本大嫌いだ。朝活、終活、婚活、妊活、そして就活……。そうそう、「独活(うど)」は別に好きでも嫌いでもない。
自分のことを話すのが苦手な私は、就活に大苦戦した。あがり性で、面接の場では思うように言葉が出ない。日々積み重なるお祈りメールの束に、心は悲鳴をあげていた。暑苦しくて動きづらいスーツは1秒たりとも着たくないし、靴擦れを起こす革靴だって非効率の極みだと思う。そもそもたったの10分会っただけで評価を下すだなんて、ずいぶんとアンフェアではないか──。
そんな、「就活を渋々やっている」態度がにじみ出てしまっていたのか、受ける面接受ける面接すべてで「お祈り」されてしまった。敗北に敗北を重ね、選考に残っている企業は講談社しかなくなってしまった。死中に活を求めて、最後の一社に挑むしかなかったのだ。
幸いなことに、今まで一次面接すらろくに突破できなかった私だけれども、講談社だけはなぜか三次面接まで突破できていた。でも、ここで落ちたら、また就活がゼロからやり直しになる。面接時に通される控室の中で、重いスーツに身を包んだ私は重い気持ちに支配されていた。
「このままどこにも就職できないのではないか、そもそも今までの面接だって何が良くて通ったのかわからない。何かの間違いなのではないだろうか──」
そのような考えが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。最終面接を前にして、活力はもはやゼロ。このままの状態で面接に臨んでいたら、きっと何も話せなくて落ちてしまっていただろう。
そんな私を見かねたのか、人事の方が声をかけてくれた。
「今までの面接官は、『君がいい』と思ったから上にあげたんだよ」
この一言で、目の前が晴れた気がした。そうだ、今私がここにいるのは、今まで会ってきた人たちみんなが私に期待してくれているからだ。私はここにいていいんだ!
私は、自分に自信が持てない私に「活」を入れて面接会場の扉を開けた。
-
好き、だからやりたい
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
就活が始まってから、私はずっと、確かな答えを知りたかった。「どうやったら講談社に内定をもらえるか」。 とにかく自分に自信がなかったし、こんな自分が選ばれるわけがない、と思っていた。そんな私は、内定を頂いた今、その問いに何と答えるだろう。確かなことはわからないが、一つ、これかな、という理由を見つけた。 5月半ば、何十社もの面接を受け、落ち続けた。中でも特に胸に刺さったのは、面接官の方に「熱意が無さそう」と言われたこと。そうなのだ。もちろん、熱意は有り余るほどにある。しかし、人見知りかつ口下手という面接に不向きな性格ゆえ、それを伝えることができないでいた。 心身ともにボロボロになったタイミングで、大好きなアイドルのライブに訪れた。かれこれ7年間も応援し続け、幾度となく足を運んでいるグループ。改めて、圧倒された。なんて愛に溢れた幸せな空間なのだろう。そして、そうだ、私の熱意の根源はこれだ、と気がついた。自分が心の底から好きと思うものを、もっと沢山の人々に知ってほしい。そのために私は働きたい、そしてこの強い気持ちを伝えなければ。眩しいほどに輝く彼らを見ながら、私は一人密かに決意を固めた。 今考えれば、これが私の就活の風向きを変えてくれた瞬間だった。それ以降、未熟な自分を変えるべく、面接の度に毎回フィードバックを行い、どうすればきちんと伝えられるか、毎日試行錯誤した。加えて、そうした努力を続けていれば、就活の「縁」や「運」が味方をしてくれるかもしれないと信じていた。それが実ったのか、こうして私は内定者エッセイを書いている。 自分の「好き」について、自分の言葉で相手に伝わるように話す。これが、私なりの「内定をもらえた理由」だ。結局のところ、「好き」に勝るものは存在しないのではないか。自信なんてまったくない、けれど「好き、だからやりたい」。このような気持ちを持つあなたを、全力で応援したい。
ESSAY好き、だからやりたい文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/文芸志望就活が始まってから、私はずっと、確かな答えを知りたかった。「どうやったら講談社に内定をもらえるか」。
とにかく自分に自信がなかったし、こんな自分が選ばれるわけがない、と思っていた。そんな私は、内定を頂いた今、その問いに何と答えるだろう。確かなことはわからないが、一つ、これかな、という理由を見つけた。
5月半ば、何十社もの面接を受け、落ち続けた。中でも特に胸に刺さったのは、面接官の方に「熱意が無さそう」と言われたこと。そうなのだ。もちろん、熱意は有り余るほどにある。しかし、人見知りかつ口下手という面接に不向きな性格ゆえ、それを伝えることができないでいた。
心身ともにボロボロになったタイミングで、大好きなアイドルのライブに訪れた。かれこれ7年間も応援し続け、幾度となく足を運んでいるグループ。改めて、圧倒された。なんて愛に溢れた幸せな空間なのだろう。そして、そうだ、私の熱意の根源はこれだ、と気がついた。自分が心の底から好きと思うものを、もっと沢山の人々に知ってほしい。そのために私は働きたい、そしてこの強い気持ちを伝えなければ。眩しいほどに輝く彼らを見ながら、私は一人密かに決意を固めた。
今考えれば、これが私の就活の風向きを変えてくれた瞬間だった。それ以降、未熟な自分を変えるべく、面接の度に毎回フィードバックを行い、どうすればきちんと伝えられるか、毎日試行錯誤した。加えて、そうした努力を続けていれば、就活の「縁」や「運」が味方をしてくれるかもしれないと信じていた。それが実ったのか、こうして私は内定者エッセイを書いている。
自分の「好き」について、自分の言葉で相手に伝わるように話す。これが、私なりの「内定をもらえた理由」だ。結局のところ、「好き」に勝るものは存在しないのではないか。自信なんてまったくない、けれど「好き、だからやりたい」。このような気持ちを持つあなたを、全力で応援したい。