内定者エッセイ
今年度も講談社採用ホームページ恒例の人気企画「内定者エッセイ」をお届けします。
バラエティ豊かな22名の内定者たちは受験や面接にどんな思いで臨み、
何を感じどんなことを考え経験したのか。
22通りの「実感」がとことん本音で綴られた就活体験記です。
先輩たちのありのままの声にぜひ触れてみてください!
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淡水でも泳げるクラゲがいるらしい
文系・関西・四年制大学卒業見込み/女性/ライツ志望
「君は『出る杭は打たれる』という言葉を知っているかね」 就活本の模範解答を暗記し這い上がってきた大手メーカーの最終面接、私は遠回しに「出る杭」であることを告げられた。 「そこそこ安定した企業に入って、仕事はつまらないくらいがちょうどいい」、そう言い聞かせてきた。たとえトイレ研究会などという正体不明のサークルを立ち上げ、ピンク色の洋式便器を学内展示した私でも、リクルートスーツに素を隠し、綺麗に作り替えた経験談を並べたら普通でいられる。「好き」や「ありのまま」が嘲笑されるのはもうこりごり。 しかし、海月の魔法にかけられたあの夜、私はスーツを脱ぎ捨て「出版」という海を漂う夢を見る。ES落ちが続き絶望に沈む4月の夜、元気付けに見たアニメ『海月姫』が「私」を呼び覚ましたのだ。「やはり漫画やアニメが好きでたまらない! 馬鹿にされてもワクワクすることがしたいんだ、私は!」と、手がつかずにいた講談社のESに「アニメでアカデミー賞だって取ってみせる!」と書き込み、締切直前に完成させた。 面接会場に向かう新幹線の中の私は「出る杭」のトラウマの反動からか、両耳にピアスを装備し、フリルの襟とドット柄が素敵なお気に入りの服で完全武装していた。護国寺駅のトイレでは、これでもかというほど赤く唇を染めた。そんな私でも講談社はすんなり受け入れてくれて、アカデミー賞のくだりも好きなトイレの話も真剣に聞いてくれた。 いよいよ最終面接の日、緊張で固まる私を「皆同じ人間だからビビることないよ!」と勇気づけてくれたのは、警備員のおじさんだった。待機室では人事の方々や他の就活生と楽しい雑談を交わした。皆の優しさに励まされ、調子に乗った私は、最終面接で社長さんの前でサークルで作ったトイレ専門誌を見せびらかしながら「電子書籍もあるんで!」と営業までしていた。 淡水でも泳げる海月がいるように、自意識爆発のヲタクでもぷかぷかと漂える場所がある。きっと、あなたにも。
ESSAY淡水でも泳げるクラゲがいるらしい文系・関西・四年制大学卒業見込み
/女性/ライツ志望「君は『出る杭は打たれる』という言葉を知っているかね」
就活本の模範解答を暗記し這い上がってきた大手メーカーの最終面接、私は遠回しに「出る杭」であることを告げられた。
「そこそこ安定した企業に入って、仕事はつまらないくらいがちょうどいい」、そう言い聞かせてきた。たとえトイレ研究会などという正体不明のサークルを立ち上げ、ピンク色の洋式便器を学内展示した私でも、リクルートスーツに素を隠し、綺麗に作り替えた経験談を並べたら普通でいられる。「好き」や「ありのまま」が嘲笑されるのはもうこりごり。
しかし、海月の魔法にかけられたあの夜、私はスーツを脱ぎ捨て「出版」という海を漂う夢を見る。ES落ちが続き絶望に沈む4月の夜、元気付けに見たアニメ『海月姫』が「私」を呼び覚ましたのだ。「やはり漫画やアニメが好きでたまらない! 馬鹿にされてもワクワクすることがしたいんだ、私は!」と、手がつかずにいた講談社のESに「アニメでアカデミー賞だって取ってみせる!」と書き込み、締切直前に完成させた。
面接会場に向かう新幹線の中の私は「出る杭」のトラウマの反動からか、両耳にピアスを装備し、フリルの襟とドット柄が素敵なお気に入りの服で完全武装していた。護国寺駅のトイレでは、これでもかというほど赤く唇を染めた。そんな私でも講談社はすんなり受け入れてくれて、アカデミー賞のくだりも好きなトイレの話も真剣に聞いてくれた。
いよいよ最終面接の日、緊張で固まる私を「皆同じ人間だからビビることないよ!」と勇気づけてくれたのは、警備員のおじさんだった。待機室では人事の方々や他の就活生と楽しい雑談を交わした。皆の優しさに励まされ、調子に乗った私は、最終面接で社長さんの前でサークルで作ったトイレ専門誌を見せびらかしながら「電子書籍もあるんで!」と営業までしていた。
淡水でも泳げる海月がいるように、自意識爆発のヲタクでもぷかぷかと漂える場所がある。きっと、あなたにも。
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ヴィヴィッド
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
大学3年の秋口、あたしは、世の中の就活モードの波になんとか乗っかって、作法をいっさい知らんまま、それでもちゃあんと就活を始めたわけであります。 始めてすぐ、もお、止めたかった。思ってもいない志望動機を文字数と闘いながら打ち込むエントリーシートが、ぐっぐっと自分を抑え込んで、会社が求める人物像に寄せて話す面接が、そんな就活が、心の底から大嫌いになった。あたしはへいへいぼんぼんやけど、それでもいろんな面を持ってるのに、一つの言葉でいい感じにパッケージするのが、それはもお、びっくりするくらいめちゃくちゃ厭やった。 暗あい気持ちを抱えながらもなんとか辿り着いた講談社の1次面接は、コロナの影響でウェブやった。始まってすぐ、画面越しやけど、それはもお、とんでもなく前のめりに、めちゃくちゃ熱心にあたしの話を聞いてくれてるのが分かった。それがうれしくて、うれしくて、ほんまにうれしくて。気づけばすっ裸で話してるあたしがいた。いつの間にかいろんなものを脱がされてたみたいで、あたしの心は丸裸やった。 それから対面になった講談社の面接では毎回、怖くて恥ずかしくて、心臓がどきんどきんしたけど、自ら脱ぐことにした。ぽつらぽつら、今まで隠してきたコンプレックスや、ずっと手放せずにいるダサいセンチメンタルを話し始め、だんだんとその場にいる自分自身がヴィヴィッドになっていくのが分かった。心を晒す恐怖は、味わったことのない快感に変わっていき、あれよあれよと、あたしの心はまた、裸ん坊になっていた。 講談社には、勝手にすっぽんぽんになったあたしを気持ち悪がったり、がっかりせえへん、それどころか無防備なあたしと真正面から向き合って、仰け反って笑って、面白がってくれる人たちがたくさんいた。それでもやっぱり、人前で脱衣し、心を晒すのは怖かった。 ただ、あの場で脱いでへんかったら、あたしはこれを書いてません。
ESSAYヴィヴィッド文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/文芸志望大学3年の秋口、あたしは、世の中の就活モードの波になんとか乗っかって、作法をいっさい知らんまま、それでもちゃあんと就活を始めたわけであります。
始めてすぐ、もお、止めたかった。思ってもいない志望動機を文字数と闘いながら打ち込むエントリーシートが、ぐっぐっと自分を抑え込んで、会社が求める人物像に寄せて話す面接が、そんな就活が、心の底から大嫌いになった。あたしはへいへいぼんぼんやけど、それでもいろんな面を持ってるのに、一つの言葉でいい感じにパッケージするのが、それはもお、びっくりするくらいめちゃくちゃ厭やった。
暗あい気持ちを抱えながらもなんとか辿り着いた講談社の1次面接は、コロナの影響でウェブやった。始まってすぐ、画面越しやけど、それはもお、とんでもなく前のめりに、めちゃくちゃ熱心にあたしの話を聞いてくれてるのが分かった。それがうれしくて、うれしくて、ほんまにうれしくて。気づけばすっ裸で話してるあたしがいた。いつの間にかいろんなものを脱がされてたみたいで、あたしの心は丸裸やった。
それから対面になった講談社の面接では毎回、怖くて恥ずかしくて、心臓がどきんどきんしたけど、自ら脱ぐことにした。ぽつらぽつら、今まで隠してきたコンプレックスや、ずっと手放せずにいるダサいセンチメンタルを話し始め、だんだんとその場にいる自分自身がヴィヴィッドになっていくのが分かった。心を晒す恐怖は、味わったことのない快感に変わっていき、あれよあれよと、あたしの心はまた、裸ん坊になっていた。
講談社には、勝手にすっぽんぽんになったあたしを気持ち悪がったり、がっかりせえへん、それどころか無防備なあたしと真正面から向き合って、仰け反って笑って、面白がってくれる人たちがたくさんいた。それでもやっぱり、人前で脱衣し、心を晒すのは怖かった。
ただ、あの場で脱いでへんかったら、あたしはこれを書いてません。
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居酒屋談義 in 講談社 ~野球とお尻~
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/学芸・学術志望
およそ就職活動で訊かれる質問というのは、つまらなくてありきたりなものが多い。怠惰な私は6社しか採用試験を受けていないが、それでも「またこれか」と辟易する場面が何度もあった。無論それぞれの質問に明確な意図があったのだろうが、「自分をモノに例えるとなんだと思いますか」という質問に目を輝かせて答えられるほど、私は真面目な人間ではない。そもそも何故モノに例える必要があるのか理解に苦しむ。私はヒトである。 とにかく面接を重ねれば重ねるほど、私は暗澹たる気分になった。しかし、たった一つだけ、会場に向かうのが楽しみだった企業がある。講談社だ。 講談社での面接は(適切な言い方ではないかもしれないが)、近所のおじさんと居酒屋で世間話をしているような感覚に近かった。野球、みうらじゅん、小津安二郎、グラビアアイドルのお尻。全四回、総務面接を含めれば五回にわたる採用面接において私が話したのは、本に関する質問を除けばほとんどこの四つのうちのどれかである。私だって最初から進んでお尻の話をしたわけではない。二次面接の面接官の、「好きなグラビアアイドルはいるの?」という質問に誠心誠意お答えした結果、倉持由香さんのお尻が素晴らしいという話にまとまったのである。約30分間の三次面接では、話の大半を野球が占めた。本当に居酒屋で野球中継を観ながら話しているような心地であった。もちろん、面接の全てがこのようなくだけた話だったわけではない。どの面接官も私が持っている思いを真剣に聞いてくれたし、質問に対しては真剣に答えてくれた。この真面目さとフランクさの絶妙なバランスが、講談社という会社の魅力を象徴している気がした。 この会社の選考で、私は自分を飾らずに全てを曝け出すことができた。就活直前期、ある友人が「就活なんてのは嘘つき合戦だよ。人事と俺らの化かし合いさ」と言っていたが、それこそ真っ赤な嘘である。就活は、曝け出し合いだ。
ESSAY居酒屋談義 in 講談社 ~野球とお尻~文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/学芸・学術志望およそ就職活動で訊かれる質問というのは、つまらなくてありきたりなものが多い。怠惰な私は6社しか採用試験を受けていないが、それでも「またこれか」と辟易する場面が何度もあった。無論それぞれの質問に明確な意図があったのだろうが、「自分をモノに例えるとなんだと思いますか」という質問に目を輝かせて答えられるほど、私は真面目な人間ではない。そもそも何故モノに例える必要があるのか理解に苦しむ。私はヒトである。
とにかく面接を重ねれば重ねるほど、私は暗澹たる気分になった。しかし、たった一つだけ、会場に向かうのが楽しみだった企業がある。講談社だ。
講談社での面接は(適切な言い方ではないかもしれないが)、近所のおじさんと居酒屋で世間話をしているような感覚に近かった。野球、みうらじゅん、小津安二郎、グラビアアイドルのお尻。全四回、総務面接を含めれば五回にわたる採用面接において私が話したのは、本に関する質問を除けばほとんどこの四つのうちのどれかである。私だって最初から進んでお尻の話をしたわけではない。二次面接の面接官の、「好きなグラビアアイドルはいるの?」という質問に誠心誠意お答えした結果、倉持由香さんのお尻が素晴らしいという話にまとまったのである。約30分間の三次面接では、話の大半を野球が占めた。本当に居酒屋で野球中継を観ながら話しているような心地であった。もちろん、面接の全てがこのようなくだけた話だったわけではない。どの面接官も私が持っている思いを真剣に聞いてくれたし、質問に対しては真剣に答えてくれた。この真面目さとフランクさの絶妙なバランスが、講談社という会社の魅力を象徴している気がした。
この会社の選考で、私は自分を飾らずに全てを曝け出すことができた。就活直前期、ある友人が「就活なんてのは嘘つき合戦だよ。人事と俺らの化かし合いさ」と言っていたが、それこそ真っ赤な嘘である。就活は、曝け出し合いだ。
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コンマ3秒の臆病
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
私は、ひとつだけ嘘をついた。 二次面接終盤、高校の部活の話題。 「陸上やってたの?」 「はい。短距離でした」 「へぇ。実は私も陸上やってて。400とか走ります?」 「えっと、大会で何回か」 「なるほど。ちなみに何秒でしたか?」 「えっ?」 「いや、私も400だったので気になって」 言葉に詰まった。世の中のどの就活マニュアルにも、面接で400mのタイムを聞かれた時の対処法は書いていない。 私の400mのベストタイムは52.7秒。専門じゃないにしてはまぁまぁ速いぐらいのタイムだ。しかし、これを正直に答えてもいいのだろうか? 相手は経験者だ。もし、自分より遅かったらどうする? 機嫌を損ねてしまうのでは? でも面接は自然体で臨めって待合室でも言われたし……。だめだ、早く何か答えないと……! 「53秒です……だいたい」 私の無意識は、小数第一位を切り上げることを選択した。 大丈夫。だいたい53秒なのは本当のことだ。自分に言い聞かせて反応を窺う。 その面接官はニヤリと笑って、おもむろに口を開いた。 「……勝った」 なんじゃそりゃ‼ 私は脱力した。この人はただ純粋に、自分と相手のどちらが速いか知りたかっただけなんだ! 冷静になると、余計なことを考えてベストを下方修正してしまった自分の臆病さに腹が立ってきた。陸上の世界は、コンマ3秒の間に星の数ほど選手がひしめき合っている。もしも本当のタイムを答えていれば、「参りました」を引き出すことができていたかもしれないのだ。というか、どうせ聞くなら専門にしていた、さらに短距離の競技のタイムを聞いて欲しかった……。 吹っ切れた私の口から、反撃の狼煙が上がる。 「でも、体力は誰にも負けません!」 今となってはどちらが正解なのか分からないし、そもそも正解なんてなかったのかもしれない。でも、少なくとも今私はこれを書けている。結局、マニュアルの外側から絞り出したナマの答えが一番おもしろいということなんだろう。ありがとう、コンマ3秒の臆病。
二次面接終盤、高校の部活の話題。
「陸上やってたの?」
「はい。短距離でした」
「へぇ。実は私も陸上やってて。400とか走ります?」
「えっと、大会で何回か」
「なるほど。ちなみに何秒でしたか?」
「えっ?」
「いや、私も400だったので気になって」
言葉に詰まった。世の中のどの就活マニュアルにも、面接で400mのタイムを聞かれた時の対処法は書いていない。
私の400mのベストタイムは52.7秒。専門じゃないにしてはまぁまぁ速いぐらいのタイムだ。しかし、これを正直に答えてもいいのだろうか? 相手は経験者だ。もし、自分より遅かったらどうする? 機嫌を損ねてしまうのでは? でも面接は自然体で臨めって待合室でも言われたし……。だめだ、早く何か答えないと……!
「53秒です……だいたい」
私の無意識は、小数第一位を切り上げることを選択した。
大丈夫。だいたい53秒なのは本当のことだ。自分に言い聞かせて反応を窺う。
その面接官はニヤリと笑って、おもむろに口を開いた。
「……勝った」
なんじゃそりゃ‼ 私は脱力した。この人はただ純粋に、自分と相手のどちらが速いか知りたかっただけなんだ! 冷静になると、余計なことを考えてベストを下方修正してしまった自分の臆病さに腹が立ってきた。陸上の世界は、コンマ3秒の間に星の数ほど選手がひしめき合っている。もしも本当のタイムを答えていれば、「参りました」を引き出すことができていたかもしれないのだ。というか、どうせ聞くなら専門にしていた、さらに短距離の競技のタイムを聞いて欲しかった……。
吹っ切れた私の口から、反撃の狼煙が上がる。
「でも、体力は誰にも負けません!」
今となってはどちらが正解なのか分からないし、そもそも正解なんてなかったのかもしれない。でも、少なくとも今私はこれを書けている。結局、マニュアルの外側から絞り出したナマの答えが一番おもしろいということなんだろう。ありがとう、コンマ3秒の臆病。
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風立ちぬ
文系・関東・大学院修了見込み/女性/ライツ志望
2020年の春はいつもと違った。マスクが消えてもう何ヵ月、トイレットペーパーも相次いで消えていった。世界の終わりに直面しているような危機感に無性に苛立ち、社会秩序も少しずつ乱れていくように見えた。 息苦しい。この世の中も、私も。 「新卒必読!」「〇〇対策が大事!」とばかり叫んでいる就職対策情報があふれて、中身が本当に役に立つとしても、そういう押し付けがましい言い方が嫌。就職情報の半分は、不安と焦りの商売にすぎないだろう。そもそも私は、決まり文句で塗り隠さなければ就職できない人間なのか。 それ以外のストレスの源もよく知っている。出版社は日本人にとっても狭き門。外国人の私にとっては大きすぎる夢、手の届かない星なのだ。大きすぎる夢を抱くことは初めてではないが、現実と夢の距離に泣かされるのも日常茶飯事。それでも、挑戦したい。そうでなければきっと一生後悔する。こんな気持ちを抱えながら、紫陽花の季節に二次面接を迎えた。 二次面接が終わった後、護国寺に参拝に行った。自信がなくて半分絶望の気持ちで、「護国寺も、講談社も、二度と来ないかも」と、記念としてお守りを買った。会計の時、自分が一万円札しか持ってないことに気付き、「すみません」と言って、住職さんは難色を示しながらも一万円を手に取った。 「あ、ちょっと待ってください」、私は何かを思い出した。「さっき面接でもらった交通費があります」と、封筒から千円札を取り出した。すると、彼は表情が明るくなり、流れで面接の話を聞いてきた。気づくと私は不安な気持ちをすべて住職さんに吐き出していた。最後におみくじを引きたいと申し出ると、住職さんは真面目な顔で「何が出ても心配ありませんよ」と励ましてくれた。 ―—中吉だった。 お守りが効いたのか住職さんの言葉が効いたのかは分からないが、私は今こうして内定者エッセイを書いている。 最後に、就活中の皆さんにおみくじに書かれていた一言を捧げたい。 「風を待っているところに風は吹きません。風を吹かそうとする人のところに追い風が吹く」
ESSAY風立ちぬ文系・関東・大学院修了見込み
/女性/ライツ志望2020年の春はいつもと違った。マスクが消えてもう何ヵ月、トイレットペーパーも相次いで消えていった。世界の終わりに直面しているような危機感に無性に苛立ち、社会秩序も少しずつ乱れていくように見えた。
息苦しい。この世の中も、私も。
「新卒必読!」「〇〇対策が大事!」とばかり叫んでいる就職対策情報があふれて、中身が本当に役に立つとしても、そういう押し付けがましい言い方が嫌。就職情報の半分は、不安と焦りの商売にすぎないだろう。そもそも私は、決まり文句で塗り隠さなければ就職できない人間なのか。
それ以外のストレスの源もよく知っている。出版社は日本人にとっても狭き門。外国人の私にとっては大きすぎる夢、手の届かない星なのだ。大きすぎる夢を抱くことは初めてではないが、現実と夢の距離に泣かされるのも日常茶飯事。それでも、挑戦したい。そうでなければきっと一生後悔する。こんな気持ちを抱えながら、紫陽花の季節に二次面接を迎えた。
二次面接が終わった後、護国寺に参拝に行った。自信がなくて半分絶望の気持ちで、「護国寺も、講談社も、二度と来ないかも」と、記念としてお守りを買った。会計の時、自分が一万円札しか持ってないことに気付き、「すみません」と言って、住職さんは難色を示しながらも一万円を手に取った。
「あ、ちょっと待ってください」、私は何かを思い出した。「さっき面接でもらった交通費があります」と、封筒から千円札を取り出した。すると、彼は表情が明るくなり、流れで面接の話を聞いてきた。気づくと私は不安な気持ちをすべて住職さんに吐き出していた。最後におみくじを引きたいと申し出ると、住職さんは真面目な顔で「何が出ても心配ありませんよ」と励ましてくれた。
―—中吉だった。
お守りが効いたのか住職さんの言葉が効いたのかは分からないが、私は今こうして内定者エッセイを書いている。
最後に、就活中の皆さんにおみくじに書かれていた一言を捧げたい。
「風を待っているところに風は吹きません。風を吹かそうとする人のところに追い風が吹く」
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曲がりくねった道の形
理系・関東・四年制大学卒業/男性/文芸志望
「紆余曲折」って、一字ずつ見ていくと、思っていた2倍近く曲がりくねってるな……。就職活動を始めてすぐのころ、自己分析をしながらそんなことを考えていた。現実逃避だ。 就活における強力なアピールポイントがない。人生を振り返って書き出してみても見当たらなかった。並べてみて初めて気がついたが、わりと曲がり角の多い人生だったからかもしれない。 海外出身で、日本に来たのは年長さんのころ。ほぼ日本語しか話せない。大学での専攻は理系の分野。大学院まで進んでおいて、気がついたら出版社志望で就職活動中だ。王道からはとっくに外れている。それに、浪人と留年という分かりやすい道草も経験済みだ。 この紆余曲折がただの遠回りならまだしも、迷走もしているのが困る。分析して明らかになった自己は、軸がブレブレで中途半端な代物だった。私にはずっと続けてきた取り組みはないし、留学や部活動などの経験もない。文芸の編集を志望するくらいだから本は好きだが、誰よりも、と言えるほどは読んでいない。 そして漫画も映画も音楽もテレビもラジオもゲームも全部好きという無節操ぶり。いろんなことに詳しいようで、逆に言えば何も究めていないということなのではないか? 興味のおもむくまま道を歩いていたら、自分の武器を見失ったように感じていた。 こんなので大丈夫かな、という心配は杞憂だった。見失った武器ではなく、紆余曲折をこそ講談社は面白がってくれている。そう思えたのは、面接ごとに違う話題を引き出してくれたからだ。 研究の内容、出身地の風景、漫画の企画、ネットラジオの流行、VRゲームの開発。それぞれ寄り道、回り道しなければ話せなかった、私だけの話題だった。 就活生の誰しもが分かりやすい強みを持っているわけではない。だけど、そんなことで引け目を感じる必要はない。どんなに自信が持てなくても、今まで歩んできた道はその人にしか描けないのだから。
ESSAY曲がりくねった道の形理系・関東・四年制大学卒業
/男性/文芸志望「紆余曲折」って、一字ずつ見ていくと、思っていた2倍近く曲がりくねってるな……。就職活動を始めてすぐのころ、自己分析をしながらそんなことを考えていた。現実逃避だ。
就活における強力なアピールポイントがない。人生を振り返って書き出してみても見当たらなかった。並べてみて初めて気がついたが、わりと曲がり角の多い人生だったからかもしれない。
海外出身で、日本に来たのは年長さんのころ。ほぼ日本語しか話せない。大学での専攻は理系の分野。大学院まで進んでおいて、気がついたら出版社志望で就職活動中だ。王道からはとっくに外れている。それに、浪人と留年という分かりやすい道草も経験済みだ。
この紆余曲折がただの遠回りならまだしも、迷走もしているのが困る。分析して明らかになった自己は、軸がブレブレで中途半端な代物だった。私にはずっと続けてきた取り組みはないし、留学や部活動などの経験もない。文芸の編集を志望するくらいだから本は好きだが、誰よりも、と言えるほどは読んでいない。
そして漫画も映画も音楽もテレビもラジオもゲームも全部好きという無節操ぶり。いろんなことに詳しいようで、逆に言えば何も究めていないということなのではないか? 興味のおもむくまま道を歩いていたら、自分の武器を見失ったように感じていた。
こんなので大丈夫かな、という心配は杞憂だった。見失った武器ではなく、紆余曲折をこそ講談社は面白がってくれている。そう思えたのは、面接ごとに違う話題を引き出してくれたからだ。
研究の内容、出身地の風景、漫画の企画、ネットラジオの流行、VRゲームの開発。それぞれ寄り道、回り道しなければ話せなかった、私だけの話題だった。
就活生の誰しもが分かりやすい強みを持っているわけではない。だけど、そんなことで引け目を感じる必要はない。どんなに自信が持てなくても、今まで歩んできた道はその人にしか描けないのだから。
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正直者が夢を見る
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/校閲志望
正直者が馬鹿を見る。それは就活でも変わらない。企業は就活生受けする部分だけを上手にアピールし、就活生は内定欲しさに本心を隠して媚び諂う。企業も就活生も、上手に嘘をつけた者が勝つ。そして残念ながら、私は愚かな正直者だった。 小さい頃から言葉について思考を巡らせることが好きで、漠然と言葉に関わる仕事に就きたいと考えていた。そんな中、校閲という仕事を知り、青い鳥文庫が好きだった私はいつか講談社の校閲として働くことを夢見ていた。 とは言っても講談社に受かる自信はなかったので、他社にもたくさん応募した。だが、「御社が第一志望です!」の一言がどうしても言えなかった。だって私が行きたいのは講談社であって、この会社ではない。面接中にまでそんなことを考えていたら、何度も祈られてしまった。どうしても、自分に嘘をつけなかった。 そんな状態で講談社の面接を迎えた。もちろん、受かるために自分をよく見せる嘘や建て前をたくさん用意した。面接官の「やりたくない仕事はある?」という質問にも、「どんな仕事も必要なものだから、なんでも頑張ります」と優等生のような答えで応じた。すると、「建て前じゃなくて本音を聞かせてよ」と真っ直ぐに見つめ返されたのだ。衝撃だった。やけになり、「ビールの営業にだけはなりたくないです」と正直に打ち明けると、「僕はビール好きなんだけど……」と、初めて面接官が笑ってくれた。 一度本音を言ってしまえば、あとはスラスラと言葉が出てきた。好きなお酒の種類、最近ハマった漫画、おすすめのストレス発散法など、嘘偽りのない自分をさらけ出せる面接は心から楽しかった。こんなに楽しく面接できるのなら、愚かな正直者でも悪くないと思えた。 正直者が馬鹿を見る。それは就活において抗いようのない事実かもしれない。でも講談社の面接は違う。等身大で面接に挑む正直者こそ輝ける、夢のような場なのだ。
ESSAY正直者が夢を見る文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/校閲志望正直者が馬鹿を見る。それは就活でも変わらない。企業は就活生受けする部分だけを上手にアピールし、就活生は内定欲しさに本心を隠して媚び諂う。企業も就活生も、上手に嘘をつけた者が勝つ。そして残念ながら、私は愚かな正直者だった。
小さい頃から言葉について思考を巡らせることが好きで、漠然と言葉に関わる仕事に就きたいと考えていた。そんな中、校閲という仕事を知り、青い鳥文庫が好きだった私はいつか講談社の校閲として働くことを夢見ていた。
とは言っても講談社に受かる自信はなかったので、他社にもたくさん応募した。だが、「御社が第一志望です!」の一言がどうしても言えなかった。だって私が行きたいのは講談社であって、この会社ではない。面接中にまでそんなことを考えていたら、何度も祈られてしまった。どうしても、自分に嘘をつけなかった。
そんな状態で講談社の面接を迎えた。もちろん、受かるために自分をよく見せる嘘や建て前をたくさん用意した。面接官の「やりたくない仕事はある?」という質問にも、「どんな仕事も必要なものだから、なんでも頑張ります」と優等生のような答えで応じた。すると、「建て前じゃなくて本音を聞かせてよ」と真っ直ぐに見つめ返されたのだ。衝撃だった。やけになり、「ビールの営業にだけはなりたくないです」と正直に打ち明けると、「僕はビール好きなんだけど……」と、初めて面接官が笑ってくれた。
一度本音を言ってしまえば、あとはスラスラと言葉が出てきた。好きなお酒の種類、最近ハマった漫画、おすすめのストレス発散法など、嘘偽りのない自分をさらけ出せる面接は心から楽しかった。こんなに楽しく面接できるのなら、愚かな正直者でも悪くないと思えた。
正直者が馬鹿を見る。それは就活において抗いようのない事実かもしれない。でも講談社の面接は違う。等身大で面接に挑む正直者こそ輝ける、夢のような場なのだ。
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イチジクの木
文系・海外・大学院修了見込み/男性/コミック志望
「フランス人として日本の出版社にエントリーする? 我々が? バカだろう?」 と、留学生向けキャリアフォーラムで味のないサンドイッチを食べながら友達が言った。講談社人事の話が終わったばかりだった。確かに、言語なら日本人と勝負にならない。ただし、講談社の面接は言語だけの勝負ではなかった。興味深いチャレンジだった。 筆記試験をどうにか生き残って、オンライン面接で講談社が他の会社と違うことに気づいた。今まで経験した厳しくて冷たい重工企業の面接官と違って、気さくで優しかった。最初の緊張と打って変わり、純粋に面接を楽しむことが出来た。 対面面接の際に最も思い出に残ったのは、講談社のロビーにイチジクの木が植えてあったことである。残念ながら、この木は果実がならない。花粉症対策のためのようだ(やはりビルで木を育てるのは大変だな……)。 しかし、緑の出迎えのお陰でリラックスしやすい雰囲気だった。それに、建物に入るといつも警備員さんにも応援してもらった。最も緊張したときに励ましてくれ温かく感じた。 それでも私にとって、面接は簡単ではなかった。しかも、コロナウイルス対策で面接官がアクリルボードの向こうに座っていたので、話がたまに聞き取りにくかった。聞き違えた質問に的外れの答えをすることがかなり心配だった。 不器用な外国人に見えるのが怖かった。いくつも就活のルールを破ってしまったと思う。しかし、「こんな変なやつ雇えるわけない」とは判断されなかった。話はきちんと聴いてもらった。 驚いたことに、面接官が私のことを細かい点までよく覚えてくれていた。筆記試験の時の作文やエントリーシートの情報など、色々深い質問をされた。罠をしかけたわけではない。むしろ言葉の後ろに隠れている、「人」を理解するための質問だった。 講談社の木の果実は、イチジクではなく物語である。「自分もこの物語の種になれる」と、面接を受けながら私は思った。
ESSAYイチジクの木文系・海外・大学院修了見込み
/男性/コミック志望「フランス人として日本の出版社にエントリーする? 我々が? バカだろう?」
と、留学生向けキャリアフォーラムで味のないサンドイッチを食べながら友達が言った。講談社人事の話が終わったばかりだった。確かに、言語なら日本人と勝負にならない。ただし、講談社の面接は言語だけの勝負ではなかった。興味深いチャレンジだった。
筆記試験をどうにか生き残って、オンライン面接で講談社が他の会社と違うことに気づいた。今まで経験した厳しくて冷たい重工企業の面接官と違って、気さくで優しかった。最初の緊張と打って変わり、純粋に面接を楽しむことが出来た。
対面面接の際に最も思い出に残ったのは、講談社のロビーにイチジクの木が植えてあったことである。残念ながら、この木は果実がならない。花粉症対策のためのようだ(やはりビルで木を育てるのは大変だな……)。
しかし、緑の出迎えのお陰でリラックスしやすい雰囲気だった。それに、建物に入るといつも警備員さんにも応援してもらった。最も緊張したときに励ましてくれ温かく感じた。
それでも私にとって、面接は簡単ではなかった。しかも、コロナウイルス対策で面接官がアクリルボードの向こうに座っていたので、話がたまに聞き取りにくかった。聞き違えた質問に的外れの答えをすることがかなり心配だった。
不器用な外国人に見えるのが怖かった。いくつも就活のルールを破ってしまったと思う。しかし、「こんな変なやつ雇えるわけない」とは判断されなかった。話はきちんと聴いてもらった。
驚いたことに、面接官が私のことを細かい点までよく覚えてくれていた。筆記試験の時の作文やエントリーシートの情報など、色々深い質問をされた。罠をしかけたわけではない。むしろ言葉の後ろに隠れている、「人」を理解するための質問だった。
講談社の木の果実は、イチジクではなく物語である。「自分もこの物語の種になれる」と、面接を受けながら私は思った。
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君、誰推し?
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/販売・宣伝志望
私には推しキャラがいない。 「『進撃の巨人』で誰が一番好き?」と言われたら私は困った顔になる。推しキャラの話がしたいのに「なんでも好き」と答えるのはまずいので、適当なキャラクターを選んで答えてしまう。 私は好きな作品を何回も見て、推しキャラのグッズを集める周りの人々が羨ましかった。私にはそれができなかったから。一回見たらそれで満足。グッズは一つで十分。そもそも何かのファンになったことがあまりない。何かを大雑把でしか楽しめない性格は私の悩みだった。 就活の前までにどうしてもこの性格を直したかった。中途半端で熱情のない者だけには見られたくなかった。しかし、人はそう簡単には変わらずこの性格のまま講談社を受けることになる。 2次面接の時、何か必殺技が必要だと感じた私は、海外でバレーボールの選手が『ハイキュー!!』をレビューした映像が話題になったことを思い出した。そして、これを応用して双子の芸能人が『五等分の花嫁』をレビューする宣伝企画を考え、その資料を面接の時に持っていった。資料を見せた時、私は面接官に 「ほお~、いいじゃないですか! 見てみましょう!」 と、想像以上に歓迎された。新しいおもちゃを見つけた子供のような目をした面接官を、今でも忘れられない。 「こんな資料を持ってきた人は君が初めてだ」 と、最高の評価までいただいた。今まで持っていた性格のコンプレックスが一気に消えた瞬間だった。 実際、『五等分の花嫁』は企業研究のため読み始めて、当時4巻までしか読んでいなかった。しかし、いろんな作品の情報を収集していた私は、作品の特徴を活かし他のコンテンツと融合する新しいアイデアを出すことができた。私は大雑把であると同時に、「オールラウンダー」だったのだ。 もし、私みたいに一つに夢中になれないことを悩む人がいたら、そのままでいいと言ってあげたい。大雑把だからこそできることがあり、その性格もあなたの立派な個性だから。
ESSAY君、誰推し?文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/販売・宣伝志望私には推しキャラがいない。
「『進撃の巨人』で誰が一番好き?」と言われたら私は困った顔になる。推しキャラの話がしたいのに「なんでも好き」と答えるのはまずいので、適当なキャラクターを選んで答えてしまう。
私は好きな作品を何回も見て、推しキャラのグッズを集める周りの人々が羨ましかった。私にはそれができなかったから。一回見たらそれで満足。グッズは一つで十分。そもそも何かのファンになったことがあまりない。何かを大雑把でしか楽しめない性格は私の悩みだった。
就活の前までにどうしてもこの性格を直したかった。中途半端で熱情のない者だけには見られたくなかった。しかし、人はそう簡単には変わらずこの性格のまま講談社を受けることになる。
2次面接の時、何か必殺技が必要だと感じた私は、海外でバレーボールの選手が『ハイキュー!!』をレビューした映像が話題になったことを思い出した。そして、これを応用して双子の芸能人が『五等分の花嫁』をレビューする宣伝企画を考え、その資料を面接の時に持っていった。資料を見せた時、私は面接官に
「ほお~、いいじゃないですか! 見てみましょう!」
と、想像以上に歓迎された。新しいおもちゃを見つけた子供のような目をした面接官を、今でも忘れられない。
「こんな資料を持ってきた人は君が初めてだ」
と、最高の評価までいただいた。今まで持っていた性格のコンプレックスが一気に消えた瞬間だった。
実際、『五等分の花嫁』は企業研究のため読み始めて、当時4巻までしか読んでいなかった。しかし、いろんな作品の情報を収集していた私は、作品の特徴を活かし他のコンテンツと融合する新しいアイデアを出すことができた。私は大雑把であると同時に、「オールラウンダー」だったのだ。
もし、私みたいに一つに夢中になれないことを悩む人がいたら、そのままでいいと言ってあげたい。大雑把だからこそできることがあり、その性格もあなたの立派な個性だから。
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いい子ちゃんなんていらない
文系・関西・四年制大学卒業見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
3回生を休学して留学したおかげで、同期たちが就活の先輩になった。 彼らの努力を間近で見守った結果、私にとって就活は「いい子ちゃんを演じなきゃいけないもの」になってしまった。 やる気が起こらないまま迎えた5回生の2月。やっとこさ重い腰を上げたが、そんな準備不足でうまくいくはずもなく、講談社の面接が始まった6月の時点で内定は1つもなかった。 それでも私は頑なに、模範解答を用意しなかった。決めてきた言葉ばかり話すのは、嘘をついているみたいで嫌。 が、2次面接は初めての対面面接ということもありかなり緊張した。大好きな韓国の話ばかりしてしまい、重要そうな質問にはうまく答えられない。終わって社屋を出た瞬間、涙が溢れた。やっぱり「自分の言葉で」なんて綺麗事で、ちゃんと作っていかなきゃいけなかったんだ。これだから就活は嫌なんだ、とすっかり落ちた気分でどうぶつ達と島に引きこもり、一心不乱に魚を釣っていた。だから合格通知は、驚いて何度も見直した。 3次面接はもっと緊張した。なんとか入り口をくぐると、警備員さんが温かい言葉をかけてくれた。ここは社員さんだけじゃなく警備員さんまで優しいのか。建物全体で優しいな、と心の底から感動して半泣きになった。 会場に入ると、2次面接より鋭い質問がたくさん飛んできた。 特に印象的だったのが「なぜ第2クールで受けたのか」という質問だった。 「就活をしたくなかったからです」 ちょっとびびりながら、正直に答えた。講談社への想いは本気だ! 伝われ! と念じながら話した。東京から家に帰る駅のホームで合格を知ったときは、喜びのあまり人目も気にせず小躍りした。 私はかなり無謀な就活生だったが、それが功を奏したのかもしれない。 飾らず誠実に話せば、面接官の方は本質を見て下さると思う。 スタートこそ遅かったけれど、「いい子ちゃんはしない」と腹を括ったのは間違いじゃなかった。
ESSAYいい子ちゃんなんていらない文系・関西・四年制大学卒業見込み
/女性/ファッション・ライフスタイル志望3回生を休学して留学したおかげで、同期たちが就活の先輩になった。
彼らの努力を間近で見守った結果、私にとって就活は「いい子ちゃんを演じなきゃいけないもの」になってしまった。
やる気が起こらないまま迎えた5回生の2月。やっとこさ重い腰を上げたが、そんな準備不足でうまくいくはずもなく、講談社の面接が始まった6月の時点で内定は1つもなかった。
それでも私は頑なに、模範解答を用意しなかった。決めてきた言葉ばかり話すのは、嘘をついているみたいで嫌。
が、2次面接は初めての対面面接ということもありかなり緊張した。大好きな韓国の話ばかりしてしまい、重要そうな質問にはうまく答えられない。終わって社屋を出た瞬間、涙が溢れた。やっぱり「自分の言葉で」なんて綺麗事で、ちゃんと作っていかなきゃいけなかったんだ。これだから就活は嫌なんだ、とすっかり落ちた気分でどうぶつ達と島に引きこもり、一心不乱に魚を釣っていた。だから合格通知は、驚いて何度も見直した。
3次面接はもっと緊張した。なんとか入り口をくぐると、警備員さんが温かい言葉をかけてくれた。ここは社員さんだけじゃなく警備員さんまで優しいのか。建物全体で優しいな、と心の底から感動して半泣きになった。
会場に入ると、2次面接より鋭い質問がたくさん飛んできた。
特に印象的だったのが「なぜ第2クールで受けたのか」という質問だった。
「就活をしたくなかったからです」
ちょっとびびりながら、正直に答えた。講談社への想いは本気だ! 伝われ! と念じながら話した。東京から家に帰る駅のホームで合格を知ったときは、喜びのあまり人目も気にせず小躍りした。
私はかなり無謀な就活生だったが、それが功を奏したのかもしれない。
飾らず誠実に話せば、面接官の方は本質を見て下さると思う。
スタートこそ遅かったけれど、「いい子ちゃんはしない」と腹を括ったのは間違いじゃなかった。
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本音ってなに?
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/文芸志望
面接は自分を作る場だ、と思っていた。 丸腰で臨むわけにはいかない。 どう話せば面接官に面白いと思ってもらえるか考え、できる限りの対策をして面接に臨んだ。 「この会社では本音で話せました」みたいな就活体験記をよく目にする。 でもそれほんとに本音? っていつも思う。 本音みたいに話せただけじゃないか。 面接用に作った自分があまりにもうまくできすぎていて、自分でも本音みたいに思えてきただけなんじゃないか。 講談社の面接に向かう。 面接用に作った自分が、すごく本音みたいに聞こえる、実際限りなく本音に近いんだけど、でも本音じゃない何かを話している。 でも話しているうちに気がつく。 ……この作った自分が話している企画、結構面白いんじゃない? 最初はきっと面接のために「作った自分」だった。 本のアイデアと自分の経験を結びつけて、さりげなく自己PRも交えながら。 でも面接のために「作る」のはそんな簡単なことじゃなかった。 ふだんの読書は偏っているし量が少ないから、色んな種類の本をたくさん読んだ。 そうして作った自分はどんどん深みを増してくる気がする。 自分を作ることで初めて見えてくるものがある。 作ることは努力することだ。 最終面接が一番緊張した。 内定に手が届く所まで来たという実感が「ここで落ちたくない」という思いを強くした。 「本当に第一志望?」 何度も聞かれた。 本当に第一志望だったからこそ困った。答えあぐねているうちに思いもよらぬ言葉が口を衝いて出てきた。 「合同説明会で、マイクも使わずにすごい熱量で話し続け、言い間違いに気づくと自分のほっぺたをぺちぺちする講談社の人事の方を見て、ここに行きたい! と強く思いました」 本音だった。 本音だけど、伝わらないと思ったから「作った自分」は言わないようにしていたことだった。 でもそう言った途端、面接官の方がおかしそうに笑い出した。 それまでの重い雰囲気が一変した。 なんだ、作った自分も結局自分だったのか。 そう思った。
どう話せば面接官に面白いと思ってもらえるか考え、できる限りの対策をして面接に臨んだ。
「この会社では本音で話せました」みたいな就活体験記をよく目にする。
でもそれほんとに本音? っていつも思う。
本音みたいに話せただけじゃないか。
面接用に作った自分があまりにもうまくできすぎていて、自分でも本音みたいに思えてきただけなんじゃないか。
講談社の面接に向かう。
面接用に作った自分が、すごく本音みたいに聞こえる、実際限りなく本音に近いんだけど、でも本音じゃない何かを話している。
でも話しているうちに気がつく。
……この作った自分が話している企画、結構面白いんじゃない?
最初はきっと面接のために「作った自分」だった。
本のアイデアと自分の経験を結びつけて、さりげなく自己PRも交えながら。
でも面接のために「作る」のはそんな簡単なことじゃなかった。
ふだんの読書は偏っているし量が少ないから、色んな種類の本をたくさん読んだ。
そうして作った自分はどんどん深みを増してくる気がする。
自分を作ることで初めて見えてくるものがある。
作ることは努力することだ。
最終面接が一番緊張した。
内定に手が届く所まで来たという実感が「ここで落ちたくない」という思いを強くした。
「本当に第一志望?」
何度も聞かれた。
本当に第一志望だったからこそ困った。答えあぐねているうちに思いもよらぬ言葉が口を衝いて出てきた。
「合同説明会で、マイクも使わずにすごい熱量で話し続け、言い間違いに気づくと自分のほっぺたをぺちぺちする講談社の人事の方を見て、ここに行きたい! と強く思いました」
本音だった。
本音だけど、伝わらないと思ったから「作った自分」は言わないようにしていたことだった。
でもそう言った途端、面接官の方がおかしそうに笑い出した。
それまでの重い雰囲気が一変した。
なんだ、作った自分も結局自分だったのか。
そう思った。
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ベタなRPG的就活に幸ありなん
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/文芸志望
冒険に出る前に母から授けられた御守りが、最後に訪れた街では目玉が飛び出るほどの高値で売れたり。旅の途中で仲間にした雑魚キャラが、ラスボス戦では頼もしい味方に変貌したり。ただの石ころがダイヤに変わるようなRPGのテンプレは、僕の就活にもピタリと当てはまる。 2次面接。それまでWEB面接ばかりで対面は初めてだったけれど、全く緊張していなかった。それもそのはず、人事の方々が待合室で気さくに話しかけてくれたからだ。「皆お喋り好きのおじさんおばさんだから大丈夫」という言葉で、目の前が一気に晴れたのを憶えている。肝心の面接は楽しくて一瞬だった。夢中で話す僕に一言、「伊坂さんっぽいね」と面接官の方が漏らした。それは伊坂幸太郎好きの僕にとって、日常生活では絶対に言われないであろう最高の褒め言葉に思えた。 皮肉なことに面接で僕を助けてくれたのは、取り繕ったガクチカや出版業界を意識して始めたアルバイトではなかった。サッカーの片手間に始めた俳句や、報われない恋愛話、他社のESを出しそびれた失敗談の方がよっぽどウケたし役に立った。自分ではガラクタにしか見えないものにも光を当ててくれるのが講談社の面接だ。案外そうしたガラクタをかき集めたところにこそ、その人の本質が浮かび上がるのかもしれない。「点と点はやがてつながる」という、初めて聞いたときは全然ピンとこなかったジョブズのスピーチが、今になって腑に落ちた。 冴えない空の下、就活中もお世話になった公園のベンチでこのエッセイを書いている。思い返せばコロナの影響で、面接官以外の方々は皆マスクをつけていた。サッとスマホを取り出し調べたところ、マスクをつけると人の魅力度は4割低下するという。思わず首をかしげてしまった。少なくとも講談社の方々の人の好さは、マスクごときでは全く隠せていなかったように思う。「この研究データの再検証を願います!」と、僕は梅雨空に向かって小さく叫んだ。
ESSAYベタなRPG的就活に幸ありなん文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/文芸志望冒険に出る前に母から授けられた御守りが、最後に訪れた街では目玉が飛び出るほどの高値で売れたり。旅の途中で仲間にした雑魚キャラが、ラスボス戦では頼もしい味方に変貌したり。ただの石ころがダイヤに変わるようなRPGのテンプレは、僕の就活にもピタリと当てはまる。
2次面接。それまでWEB面接ばかりで対面は初めてだったけれど、全く緊張していなかった。それもそのはず、人事の方々が待合室で気さくに話しかけてくれたからだ。「皆お喋り好きのおじさんおばさんだから大丈夫」という言葉で、目の前が一気に晴れたのを憶えている。肝心の面接は楽しくて一瞬だった。夢中で話す僕に一言、「伊坂さんっぽいね」と面接官の方が漏らした。それは伊坂幸太郎好きの僕にとって、日常生活では絶対に言われないであろう最高の褒め言葉に思えた。
皮肉なことに面接で僕を助けてくれたのは、取り繕ったガクチカや出版業界を意識して始めたアルバイトではなかった。サッカーの片手間に始めた俳句や、報われない恋愛話、他社のESを出しそびれた失敗談の方がよっぽどウケたし役に立った。自分ではガラクタにしか見えないものにも光を当ててくれるのが講談社の面接だ。案外そうしたガラクタをかき集めたところにこそ、その人の本質が浮かび上がるのかもしれない。「点と点はやがてつながる」という、初めて聞いたときは全然ピンとこなかったジョブズのスピーチが、今になって腑に落ちた。
冴えない空の下、就活中もお世話になった公園のベンチでこのエッセイを書いている。思い返せばコロナの影響で、面接官以外の方々は皆マスクをつけていた。サッとスマホを取り出し調べたところ、マスクをつけると人の魅力度は4割低下するという。思わず首をかしげてしまった。少なくとも講談社の方々の人の好さは、マスクごときでは全く隠せていなかったように思う。「この研究データの再検証を願います!」と、僕は梅雨空に向かって小さく叫んだ。
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5円玉と私
理系・関東・大学院修了見込み/女性/幼児・児童志望
冬のある日、街の片隅で1編の詩を見つめながら、 「編集者になるのが私の運命だ!」 と決意した一人の理系大学院生の、出版社に向けた就活が始まった。 運命を感じてみたはいいものの、周りに出版社を目指す友達もいなければOBもいない。 かろうじて集めた情報によると、どうやら運が必要らしい。 単純な私は、その日から5円玉を集めるようになった。買い物のお釣りでこつこつ集めたそれは、いつのまにか数十枚になっていた。 運の神を味方につけたはずだったが、願いは一つまでらしく、講談社の面接が再開した6月中旬には、気付けば周囲で内定がないのは私だけという状況だった。 後がない私はガチガチに緊張したまま三次面接を迎えた。面接後の護国寺で、もう来ることもないだろうと、財布をひっくり返して全ての5円玉を賽銭箱に入れて帰ったのを覚えている。後日通過の知らせを受け取った時は、信じられない気持ちだった。 講談社の面接はいつも、予想外だ。 書店員の経験を語れば「じゃあ僕に本を売ってみてよ!」と言われ、気合を入れたガクチカはあまり響かず、逆に変な資格を持っていることがウケたりもする。 特に印象的だったのは「この企画って今まで無かったジャンルだけど、どうしてやりたいの?」という質問だ。面接官の目を見た瞬間、事前に用意していた回答ではなく、「悔しかったからです」という一言がこぼれ落ちていた。 そこから先は夢中だった。そつがない就活生からは程遠い姿だったが、話し終えた私の前には、「それでいいんだよ」と言うかのような笑顔があった。自分でも気付かなかった思いを言葉にできたのは、ひとえに面接官が私という「物語」を読み解こうと丁寧に向き合ってくれたからだと思う。 私の手元に5円玉はもうない。その代わりに得た講談社との”ご縁”を携え今この文章を書いている。運命だと思った直感を信じて、自分の物語を読者である面接官に全力で届ける。それが多分、一番大事だ。
と決意した一人の理系大学院生の、出版社に向けた就活が始まった。
運命を感じてみたはいいものの、周りに出版社を目指す友達もいなければOBもいない。
かろうじて集めた情報によると、どうやら運が必要らしい。
単純な私は、その日から5円玉を集めるようになった。買い物のお釣りでこつこつ集めたそれは、いつのまにか数十枚になっていた。
運の神を味方につけたはずだったが、願いは一つまでらしく、講談社の面接が再開した6月中旬には、気付けば周囲で内定がないのは私だけという状況だった。
後がない私はガチガチに緊張したまま三次面接を迎えた。面接後の護国寺で、もう来ることもないだろうと、財布をひっくり返して全ての5円玉を賽銭箱に入れて帰ったのを覚えている。後日通過の知らせを受け取った時は、信じられない気持ちだった。
講談社の面接はいつも、予想外だ。
書店員の経験を語れば「じゃあ僕に本を売ってみてよ!」と言われ、気合を入れたガクチカはあまり響かず、逆に変な資格を持っていることがウケたりもする。
特に印象的だったのは「この企画って今まで無かったジャンルだけど、どうしてやりたいの?」という質問だ。面接官の目を見た瞬間、事前に用意していた回答ではなく、「悔しかったからです」という一言がこぼれ落ちていた。
そこから先は夢中だった。そつがない就活生からは程遠い姿だったが、話し終えた私の前には、「それでいいんだよ」と言うかのような笑顔があった。自分でも気付かなかった思いを言葉にできたのは、ひとえに面接官が私という「物語」を読み解こうと丁寧に向き合ってくれたからだと思う。
私の手元に5円玉はもうない。その代わりに得た講談社との”ご縁”を携え今この文章を書いている。運命だと思った直感を信じて、自分の物語を読者である面接官に全力で届ける。それが多分、一番大事だ。
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オンリーワンを探す旅
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/ライツ志望
就職活動が始まる直前、僕はエクセルに応募予定の企業を記入した。その数31社。どれも自己分析をした結果導き出した企業だった。しかし始まってみればお祈りメールの連続。エクセルにある企業名の横に「不合格」と書く度、心が折れそうになった。状況を打開しようと自分を繕って臨んだ他業種の面接もことごとく話が受けず、「もしかして自分って、社会不適合者なのかな」と思う日々が続いた。 ただ、誤字脱字だらけのエントリーシートが奇跡的に通った講談社の面接だけは何かが違った。オンラインでの面接を乗り越え、初めての対面面接。もうエントリーシートでやらかしているんだから恐れることはない、と馬鹿正直に自然体で臨んだ。こんな僕が話す全てのことを親身になって聞いてくれる面接官に、自分が本当にやりたいことを洗いざらい話した。就職活動が始まって2ヵ月、ようやく自分も捨てたもんじゃないと思えてきた。 続く三次面接。面接官の方に「学生生活、どうだった?」と聞かれた。その時僕は正直に、沢木耕太郎みたいに旅をしたかったこと、薔薇色の学生生活を送りたかったことなど、色んなことを挙げた。その時、面接官にふと言われた。 「君、ワガママだね」 と。その瞬間、僕は思わずクスッと笑ってしまった。そうだ、僕はワガママだと。こんな僕を受け入れてくれる会社はなかなかないと、そう気づいた。就職活動が終了した今、結局内定をいただいた会社は講談社の他に1社だけだ。ワガママな僕を受け入れてくれた31分の2。この状況を、多くの内定をもらっている友達と比較して悲観することもあったが、考えてみれば就職活動は自分を受け入れてくれる理想の場所から一つ合格通知をもらえればいいのだ。 今だって正直自分が出版社に向いているかどうかなんてわからない。ただこれだけははっきりと言える。僕というワガママな人間を受け入れてくれたこの会社がオンリーワンであるということを。
ESSAYオンリーワンを探す旅文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/ライツ志望就職活動が始まる直前、僕はエクセルに応募予定の企業を記入した。その数31社。どれも自己分析をした結果導き出した企業だった。しかし始まってみればお祈りメールの連続。エクセルにある企業名の横に「不合格」と書く度、心が折れそうになった。状況を打開しようと自分を繕って臨んだ他業種の面接もことごとく話が受けず、「もしかして自分って、社会不適合者なのかな」と思う日々が続いた。
ただ、誤字脱字だらけのエントリーシートが奇跡的に通った講談社の面接だけは何かが違った。オンラインでの面接を乗り越え、初めての対面面接。もうエントリーシートでやらかしているんだから恐れることはない、と馬鹿正直に自然体で臨んだ。こんな僕が話す全てのことを親身になって聞いてくれる面接官に、自分が本当にやりたいことを洗いざらい話した。就職活動が始まって2ヵ月、ようやく自分も捨てたもんじゃないと思えてきた。
続く三次面接。面接官の方に「学生生活、どうだった?」と聞かれた。その時僕は正直に、沢木耕太郎みたいに旅をしたかったこと、薔薇色の学生生活を送りたかったことなど、色んなことを挙げた。その時、面接官にふと言われた。
「君、ワガママだね」
と。その瞬間、僕は思わずクスッと笑ってしまった。そうだ、僕はワガママだと。こんな僕を受け入れてくれる会社はなかなかないと、そう気づいた。就職活動が終了した今、結局内定をいただいた会社は講談社の他に1社だけだ。ワガママな僕を受け入れてくれた31分の2。この状況を、多くの内定をもらっている友達と比較して悲観することもあったが、考えてみれば就職活動は自分を受け入れてくれる理想の場所から一つ合格通知をもらえればいいのだ。
今だって正直自分が出版社に向いているかどうかなんてわからない。ただこれだけははっきりと言える。僕というワガママな人間を受け入れてくれたこの会社がオンリーワンであるということを。
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言ってはいけない回答
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
「君のやりたい漫画編集ってどこでも出来るよね? うちじゃなくて良くない?」 「はい! もちろんそうです!」 上の会話は、実際に三次面接であった会話だ。それも自己紹介のあと初っ端で。私は就活で絶対に言ってはいけない回答をした。しかしそれは意図あってのことだ。 私は漫画編集になり、カッコいいキャラが活躍するハードボイルドな漫画を世に出したいと考え、就活をはじめた。私は就活で嘘をつかないと決めていた。理由は単純。嘘をついてもバレるし、入るとき嘘をつけば心置きなく働けないからだ。だからこそあのような回答をしたのだ。 それでも内定を頂けた理由は、推測するに私の持つ講談社への強い思い入れをこの後に伝えられたことにある。その思い入れはコロナ自粛期間に生まれる。 三月中旬に一次面接が行われた後、コロナ禍の影響で、その後予定されていた二次面接も延期され、結局行われたのは六月中旬。三次面接は二次面接の一週間後に行われた。 例年よりも厳しい戦いになることを予想した私は何もしないのが怖かった。適当に過ごしてはいけない。まず漫画の企画を色々な出版社・漫画家で考えた。そのとき気付いた。企画考案が一番楽しく、一番面白そうな企画が考えられたのが講談社だった。例えばそれは石川雅之先生の女ガンマン復讐劇であり、カルロ・ゼン先生の歴史改変ものだった。また、部屋にある漫画を全てExcelに打ち込み、出版社・雑誌ごとに分類した。その作業の結果、講談社の特に「週刊少年マガジン』「アフタヌーン」では、大衆的ではない漫画でも芯がブレていないものが他の出版社の漫画よりも多いことが分かった。それは私が漫画で最も重要な要素だと感じていることであった。その二つの気付きによって、講談社が第一志望になった。 このことを三次面接で伝えることが出来た。最初の会話の後に続けた言葉はこうだ。 「しかし、私は講談社で漫画編集がしたいんです。理由としては……」
ESSAY言ってはいけない回答文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/コミック志望「君のやりたい漫画編集ってどこでも出来るよね? うちじゃなくて良くない?」
「はい! もちろんそうです!」
上の会話は、実際に三次面接であった会話だ。それも自己紹介のあと初っ端で。私は就活で絶対に言ってはいけない回答をした。しかしそれは意図あってのことだ。
私は漫画編集になり、カッコいいキャラが活躍するハードボイルドな漫画を世に出したいと考え、就活をはじめた。私は就活で嘘をつかないと決めていた。理由は単純。嘘をついてもバレるし、入るとき嘘をつけば心置きなく働けないからだ。だからこそあのような回答をしたのだ。
それでも内定を頂けた理由は、推測するに私の持つ講談社への強い思い入れをこの後に伝えられたことにある。その思い入れはコロナ自粛期間に生まれる。
三月中旬に一次面接が行われた後、コロナ禍の影響で、その後予定されていた二次面接も延期され、結局行われたのは六月中旬。三次面接は二次面接の一週間後に行われた。
例年よりも厳しい戦いになることを予想した私は何もしないのが怖かった。適当に過ごしてはいけない。まず漫画の企画を色々な出版社・漫画家で考えた。そのとき気付いた。企画考案が一番楽しく、一番面白そうな企画が考えられたのが講談社だった。例えばそれは石川雅之先生の女ガンマン復讐劇であり、カルロ・ゼン先生の歴史改変ものだった。また、部屋にある漫画を全てExcelに打ち込み、出版社・雑誌ごとに分類した。その作業の結果、講談社の特に「週刊少年マガジン』「アフタヌーン」では、大衆的ではない漫画でも芯がブレていないものが他の出版社の漫画よりも多いことが分かった。それは私が漫画で最も重要な要素だと感じていることであった。その二つの気付きによって、講談社が第一志望になった。
このことを三次面接で伝えることが出来た。最初の会話の後に続けた言葉はこうだ。
「しかし、私は講談社で漫画編集がしたいんです。理由としては……」
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ここはひとつ、綺麗ごとを信じてみる。
理系・関東・大学院修了見込み/女性/学芸・学術志望
2019年6月、就活中の親友が、深夜のファミレスでボンゴレパスタをすすりながら号泣していた。 「好きなことを仕事にするのは甘いんだ……!」 私はドリアを食べながら、そのカオスな状況に笑った。 建築学科へ進学した時、将来は設計の仕事をするんだと思っていた。しかし入学早々、建築の設計に熱中し切れない自分と出会う。多趣味な自分にはピッタリだろう、そんな理由で入った建築学科で私は迷子になってしまった。軽率な好奇心に忠実すぎた。就活をしなければと思い始めた9月、ボンゴレパスタの親友が、志望外職種への就職を決めた。 「好きを仕事に」と人は言う。しかし、多趣味な私は広く浅く、どれも仕事にできる自信がない。私は、一人でしゃぶしゃぶ屋に行くような強靭なメンタルの持ち主だが、唯一自分のミーハーさがコンプレックスだった。ならば自分が好きなことではなく、自分にとっての当たり前が活かせる道をと考えた。面白いことが沢山あるのに知られていないのがもったいない、誰かの大事な趣味や学問を大切にしたい、ほんの少し異端児でいたい、そんな日々の思いの結節点に講談社への道が見えた。 しかし、今年の6月時点で内定は0。残るは、講談社の二次面接のみ。面接会場の入り口前、親戚のように話しかけてくれる社員さんたちを見て、既に入社した気分になるチョロさ100%。真面目な受け答えに満足しかけた面接中盤、 「かたいねえ~(笑)、好きなアイドルとかいます?」 「実は~アイドルオタクなもんで……」 意外な展開。何を好きであれ「好き」の気持ちを品定めせず、面白がってくれる人たちとの空間は心地よい。好きなことを仕事にしていい世界もあると初めて実感した。二次面接後、自分の「好き」と自分にとっての当たり前が繋がり、三次面接に向けて動き始めた。 「好きを仕事に」は、夢想にあらず。真面目、風変わり、楽天家、心配性、自分の好きを携える全ての就活生に幸あれ。
ESSAYここはひとつ、綺麗ごとを信じてみる。理系・関東・大学院修了見込み
/女性/学芸・学術志望2019年6月、就活中の親友が、深夜のファミレスでボンゴレパスタをすすりながら号泣していた。
「好きなことを仕事にするのは甘いんだ……!」
私はドリアを食べながら、そのカオスな状況に笑った。
建築学科へ進学した時、将来は設計の仕事をするんだと思っていた。しかし入学早々、建築の設計に熱中し切れない自分と出会う。多趣味な自分にはピッタリだろう、そんな理由で入った建築学科で私は迷子になってしまった。軽率な好奇心に忠実すぎた。就活をしなければと思い始めた9月、ボンゴレパスタの親友が、志望外職種への就職を決めた。
「好きを仕事に」と人は言う。しかし、多趣味な私は広く浅く、どれも仕事にできる自信がない。私は、一人でしゃぶしゃぶ屋に行くような強靭なメンタルの持ち主だが、唯一自分のミーハーさがコンプレックスだった。ならば自分が好きなことではなく、自分にとっての当たり前が活かせる道をと考えた。面白いことが沢山あるのに知られていないのがもったいない、誰かの大事な趣味や学問を大切にしたい、ほんの少し異端児でいたい、そんな日々の思いの結節点に講談社への道が見えた。
しかし、今年の6月時点で内定は0。残るは、講談社の二次面接のみ。面接会場の入り口前、親戚のように話しかけてくれる社員さんたちを見て、既に入社した気分になるチョロさ100%。真面目な受け答えに満足しかけた面接中盤、
「かたいねえ~(笑)、好きなアイドルとかいます?」
「実は~アイドルオタクなもんで……」
意外な展開。何を好きであれ「好き」の気持ちを品定めせず、面白がってくれる人たちとの空間は心地よい。好きなことを仕事にしていい世界もあると初めて実感した。二次面接後、自分の「好き」と自分にとっての当たり前が繋がり、三次面接に向けて動き始めた。
「好きを仕事に」は、夢想にあらず。真面目、風変わり、楽天家、心配性、自分の好きを携える全ての就活生に幸あれ。
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優等生Lv22の地図を持たない冒険
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
「なんか優等生っぽいんだよなあ」 しゅうかつせいは あたまが まっしろになった! 講談社の採用試験で山場となるのは、三次面接だ。これはその三次面接で面接官から言われた一言であり、就職活動を通して一番冷や汗をかいた場面だ。 就活を始める前は、「私が出版社に入らなければ、誰が入るのか」という妙な自信を持っていた。その自信は、出版社を目指す就活の難易度を知ることで、音を立てて崩れ落ちた。自分のパーソナリティについて興味を持ってもらえるよう書かねばならないESに、運が大事だという対策のできない面接に。そしてなにより、講談社の内定者エッセイの個性と面白さに! 私は先輩たちのような「面白い」武器を何も持っていないのではないか。実家暮らし、受験も進級もストレート、絶対終電の2本前で帰って自分のベッドで8時間眠ることを最上の幸せとする「いい子」な人生。活字を読むことで鍛えてきたつもりだったけれど、手元にある剣は頼りなく、光も放ってないように見えた。でも、愚直な私は、嘘で飾り立てたりしたらきっとうまく戦えなくなってしまう。当たって砕ける覚悟を決めた……。 それでも、講談社の一次面接と二次面接ではたくさん好きな本の話をして面白がってもらい、なんとか通過できた。そして迎えた三次面接でぶち当たったのが、冒頭の一言である。ありきたりな武器しか持たない私は、自信のなさのあまり、知らず知らずのうちに守りに入ってしまっていた。もうどうにでもなれと武器を捨てて、誰にもしたことのなかった、薄暗い心の澱の話をすることにした。 「うん、なんかあなたという人間が見えましたよ」 面接中ずっと笑っているようで笑っていなかった面接官の、目が少し柔らかくなった気がした。 出版社を目指す就活には正解がない。その暗闇の中で私が見つけた灯火は、エクスカリバーやグングニルを準備するのではなく、武器を捨てる勇気を持つことの重要性だった。
講談社の採用試験で山場となるのは、三次面接だ。これはその三次面接で面接官から言われた一言であり、就職活動を通して一番冷や汗をかいた場面だ。
就活を始める前は、「私が出版社に入らなければ、誰が入るのか」という妙な自信を持っていた。その自信は、出版社を目指す就活の難易度を知ることで、音を立てて崩れ落ちた。自分のパーソナリティについて興味を持ってもらえるよう書かねばならないESに、運が大事だという対策のできない面接に。そしてなにより、講談社の内定者エッセイの個性と面白さに!
私は先輩たちのような「面白い」武器を何も持っていないのではないか。実家暮らし、受験も進級もストレート、絶対終電の2本前で帰って自分のベッドで8時間眠ることを最上の幸せとする「いい子」な人生。活字を読むことで鍛えてきたつもりだったけれど、手元にある剣は頼りなく、光も放ってないように見えた。でも、愚直な私は、嘘で飾り立てたりしたらきっとうまく戦えなくなってしまう。当たって砕ける覚悟を決めた……。
それでも、講談社の一次面接と二次面接ではたくさん好きな本の話をして面白がってもらい、なんとか通過できた。そして迎えた三次面接でぶち当たったのが、冒頭の一言である。ありきたりな武器しか持たない私は、自信のなさのあまり、知らず知らずのうちに守りに入ってしまっていた。もうどうにでもなれと武器を捨てて、誰にもしたことのなかった、薄暗い心の澱の話をすることにした。
「うん、なんかあなたという人間が見えましたよ」
面接中ずっと笑っているようで笑っていなかった面接官の、目が少し柔らかくなった気がした。
出版社を目指す就活には正解がない。その暗闇の中で私が見つけた灯火は、エクスカリバーやグングニルを準備するのではなく、武器を捨てる勇気を持つことの重要性だった。
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不器用なくらい素直
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
「御社が第一志望です」 就活セミナーの講師はこう言った。 「これを鏡の前で100回練習しなさい。あなたが入社する“熱意”を表現することが複数の内定獲得に繋がります」 そんなのくそくらえだ。 第一志望は複数ではない。つまり嘘を吐けってことか。 自身を偽って、演技して、入社する前から会社との信頼関係が破綻してるじゃないか。 セミナーから時が経ち、就職活動真っただ中。 コミュニケーション能力には自信があった。ある程度受け答えができる私は、どの企業でも1次面接、2次面接と進むことはできた。 しかし、そこから先に進めない。「内定」を得られない。 原因はわかっていた。素直すぎるのだ。 馬鹿正直に返答してしまう。自身を演じることに罪悪感を覚え、表情に出てしまう。 だから本心を見透かされてしまう。 あの壇上の講師の言葉が頭をよぎる。 「自身のコンプレックスは隠し、優良な学生であれ」 就職活動に嫌気がさしてきた頃、延期していた講談社の選考が再開した。 自信を喪失し、面接への気持ちを作れないでいた2次面接の前夜、大好きなバンドから新曲が配信された。 「影を隠すな。自分を偽るな。どんな色も君自身なのだから。」
(SPINELESS BLACK/NOISEMAKER)
こういった歌詞が、私を悩みの渦から救ってくれた。 ……そうだよな。 偽らない。隠さない。どんな色も自分自身。 馬鹿正直で素直すぎる私を受け入れてもらおう。 そう決心して臨んだ2次面接。 「最後に何か質問はありますか?」という面接官の問いに対し、 「緊張しすぎて考えていた質問を忘れました。だから質問はありません」と答えた。 いや素直すぎるだろ! 自分にツッコミを入れずにはいられない。 でも講談社は、こんな不器用なくらい素直な私を受け入れてくれた。 自宅の本棚には800冊以上、講談社の漫画が納められている。 私は思春期の全てを講談社に支えられてきた。 「残りの人生をかけてこの大きな恩を返したいと思っています」 素直な私だからこそ、心の底から込み上げた“熱意”を表現できたのだ。就活セミナーの講師はこう言った。
「これを鏡の前で100回練習しなさい。あなたが入社する“熱意”を表現することが複数の内定獲得に繋がります」
そんなのくそくらえだ。
第一志望は複数ではない。つまり嘘を吐けってことか。
自身を偽って、演技して、入社する前から会社との信頼関係が破綻してるじゃないか。
セミナーから時が経ち、就職活動真っただ中。
コミュニケーション能力には自信があった。ある程度受け答えができる私は、どの企業でも1次面接、2次面接と進むことはできた。
しかし、そこから先に進めない。「内定」を得られない。
原因はわかっていた。素直すぎるのだ。
馬鹿正直に返答してしまう。自身を演じることに罪悪感を覚え、表情に出てしまう。
だから本心を見透かされてしまう。
あの壇上の講師の言葉が頭をよぎる。
「自身のコンプレックスは隠し、優良な学生であれ」
就職活動に嫌気がさしてきた頃、延期していた講談社の選考が再開した。
自信を喪失し、面接への気持ちを作れないでいた2次面接の前夜、大好きなバンドから新曲が配信された。
「影を隠すな。自分を偽るな。どんな色も君自身なのだから。」
(SPINELESS BLACK/NOISEMAKER)
こういった歌詞が、私を悩みの渦から救ってくれた。……そうだよな。
偽らない。隠さない。どんな色も自分自身。
馬鹿正直で素直すぎる私を受け入れてもらおう。
そう決心して臨んだ2次面接。
「最後に何か質問はありますか?」という面接官の問いに対し、
「緊張しすぎて考えていた質問を忘れました。だから質問はありません」と答えた。
いや素直すぎるだろ! 自分にツッコミを入れずにはいられない。
でも講談社は、こんな不器用なくらい素直な私を受け入れてくれた。
自宅の本棚には800冊以上、講談社の漫画が納められている。
私は思春期の全てを講談社に支えられてきた。
「残りの人生をかけてこの大きな恩を返したいと思っています」
素直な私だからこそ、心の底から込み上げた“熱意”を表現できたのだ。
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諦めかけた夢
理系・関東・四年制大学卒業/男性/コミック志望
2019年1月にギラン・バレー症候群で入院した。その影響から、一度目の就職活動は周囲からかなり遅れて始めた。受けたいと思っていた出版社のエントリーは入院中に締め切られていた。「どうせ自分なんかはエントリーシートを出しても受からなかった」と自分に言い聞かせ、いわゆる大手企業を片っ端から受けた。 志望動機もない企業を受ける中で、ふと自分の将来を想像した。「なんとなく就活を続け、なんとなく社会人になり、なんとなくの生活を送る」。そんな将来が容易に想像できた。と同時に、自分自身の夢を諦めたことを後悔する自分が見えた。その時、「今も昔も、そして将来も、好きであり続ける漫画に携わりたい。受かるかわからないけど、自分のやりたいことに精いっぱい向き合いたい」と思った。両親に頭を下げ、二度目の就職活動を始めた。 それからはとにかく必死だった。友人に紹介してもらった昨年の講談社の受験者の方にエントリーシートを見てもらい、何度も修正を重ねた。文章力に自信がなかったため、様々なお題で作文を書いては友人に見てもらい、感想をもらった。時事問題に関しても多少の不安があったため、国会図書館に通い詰めては過去1年間の新聞を読み漁った。日常で気になったことや思いついたことはその場でメモに取り面接の直前に読み返して話題にした。面接では、畏まって自分をよく見せようとするのではなく、飲み屋で少し年の離れた先輩と話すくらいの心持ちで、本当の自分を見てもらおうと臨んだ。 「ここまでやってダメだったら運がなかった」と思えるくらいには努力し、結果的に運よく内定を頂いた。 どれだけ思いが強くても、どれだけ努力を重ねたとしても、結果がついてくるとは限らない。しかし、そのどちらもがないと自身の夢を叶えることはできないと思う。 この拙いエッセイを読んでくれた皆さんも、最後まで諦めることなく、自分にできることを精いっぱい頑張ってほしいです。
ESSAY諦めかけた夢理系・関東・四年制大学卒業
/男性/コミック志望2019年1月にギラン・バレー症候群で入院した。その影響から、一度目の就職活動は周囲からかなり遅れて始めた。受けたいと思っていた出版社のエントリーは入院中に締め切られていた。「どうせ自分なんかはエントリーシートを出しても受からなかった」と自分に言い聞かせ、いわゆる大手企業を片っ端から受けた。
志望動機もない企業を受ける中で、ふと自分の将来を想像した。「なんとなく就活を続け、なんとなく社会人になり、なんとなくの生活を送る」。そんな将来が容易に想像できた。と同時に、自分自身の夢を諦めたことを後悔する自分が見えた。その時、「今も昔も、そして将来も、好きであり続ける漫画に携わりたい。受かるかわからないけど、自分のやりたいことに精いっぱい向き合いたい」と思った。両親に頭を下げ、二度目の就職活動を始めた。
それからはとにかく必死だった。友人に紹介してもらった昨年の講談社の受験者の方にエントリーシートを見てもらい、何度も修正を重ねた。文章力に自信がなかったため、様々なお題で作文を書いては友人に見てもらい、感想をもらった。時事問題に関しても多少の不安があったため、国会図書館に通い詰めては過去1年間の新聞を読み漁った。日常で気になったことや思いついたことはその場でメモに取り面接の直前に読み返して話題にした。面接では、畏まって自分をよく見せようとするのではなく、飲み屋で少し年の離れた先輩と話すくらいの心持ちで、本当の自分を見てもらおうと臨んだ。
「ここまでやってダメだったら運がなかった」と思えるくらいには努力し、結果的に運よく内定を頂いた。
どれだけ思いが強くても、どれだけ努力を重ねたとしても、結果がついてくるとは限らない。しかし、そのどちらもがないと自身の夢を叶えることはできないと思う。
この拙いエッセイを読んでくれた皆さんも、最後まで諦めることなく、自分にできることを精いっぱい頑張ってほしいです。
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‟バッドエンド”は、もう終わり
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/ファッション・ライフスタイル志望
「最終面接落ち」。就活において最も悔しい散り方である。私はこれを4回ほど経験した。言い換えれば、全ての最終面接で失敗し続けた。 思い返せば、いつも最後の一手が届かない。中学受験も第一志望落ち、中高の部活でもレギュラーになれず、はたまた大学受験も第三志望の学校へ進んだ。そんな私はいつしか、最後の大一番が怖くなり、怯む癖が付いていたように思う。そしてこの「お豆腐メンタル」は講談社の最終面接でも無事、発揮されてしまった。 「アルバイトは週どれくらい入っているの?」「女子校って実際どんな感じ?」振り返ると、最終面接とは思えないほど雑談のような質問を沢山して貰ったように思う。だが気張りすぎた私は、これらに気の利いた返答をすることが出来なかった。せっかく和ませて貰った空気を、自ら張り詰めさせにいく私の堅苦しい言葉たち。あっという間に過ぎていく15分。焦った私の口から最後に出てきたのは、面接のご法度「どうか、入れてください!!」だった。控え室に戻ってからはあまりよく覚えていない。結果が出るまでの2日間は息をするように泣き続けた。 そんな私に届いた、まさかまさかの内定通知。正直これを書いている今でも、信じられないという思いでいっぱいだ。受かった理由はよく分からないが、一つあるとするならば、企画の量だろうか。形から入るタイプの私は、案が思いつく度に、持ち出されることはない企画書を一人せっせと作り、プリントアウトしていた。 リアルイベントからコラボ連載まで、とにかく話題性重視で案を練った。凝りだすとキリがなかったが、ぼんやりと頭に浮かんだアイデアを形にするのに役立ったのは間違いないだろう。緊張しっぱなしの面接でも、自分のやりたいことは、自信を持って話せたはずだ。そんな熱意が伝わったのか、私は長年苦しみ続けた「負のジンクス」から抜け出すことが出来た。ゆえに、今も部屋の隅で眠る企画書たちには、大きな感謝を伝えたい。
ESSAY‟バッドエンド”は、もう終わり文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/ファッション・ライフスタイル志望「最終面接落ち」。就活において最も悔しい散り方である。私はこれを4回ほど経験した。言い換えれば、全ての最終面接で失敗し続けた。
思い返せば、いつも最後の一手が届かない。中学受験も第一志望落ち、中高の部活でもレギュラーになれず、はたまた大学受験も第三志望の学校へ進んだ。そんな私はいつしか、最後の大一番が怖くなり、怯む癖が付いていたように思う。そしてこの「お豆腐メンタル」は講談社の最終面接でも無事、発揮されてしまった。
「アルバイトは週どれくらい入っているの?」「女子校って実際どんな感じ?」振り返ると、最終面接とは思えないほど雑談のような質問を沢山して貰ったように思う。だが気張りすぎた私は、これらに気の利いた返答をすることが出来なかった。せっかく和ませて貰った空気を、自ら張り詰めさせにいく私の堅苦しい言葉たち。あっという間に過ぎていく15分。焦った私の口から最後に出てきたのは、面接のご法度「どうか、入れてください!!」だった。控え室に戻ってからはあまりよく覚えていない。結果が出るまでの2日間は息をするように泣き続けた。
そんな私に届いた、まさかまさかの内定通知。正直これを書いている今でも、信じられないという思いでいっぱいだ。受かった理由はよく分からないが、一つあるとするならば、企画の量だろうか。形から入るタイプの私は、案が思いつく度に、持ち出されることはない企画書を一人せっせと作り、プリントアウトしていた。
リアルイベントからコラボ連載まで、とにかく話題性重視で案を練った。凝りだすとキリがなかったが、ぼんやりと頭に浮かんだアイデアを形にするのに役立ったのは間違いないだろう。緊張しっぱなしの面接でも、自分のやりたいことは、自信を持って話せたはずだ。そんな熱意が伝わったのか、私は長年苦しみ続けた「負のジンクス」から抜け出すことが出来た。ゆえに、今も部屋の隅で眠る企画書たちには、大きな感謝を伝えたい。
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「好き」こそ最強!
文系・関東・四年制大学卒業見込み/男性/コミック志望
私はヒーロー漫画好きの少年だった。そんな私が夢見たのは、ペン一本で手に汗握るドキドキ感を創り出す漫画家。しかしその道は険しく、就活生になった私は、漫画作りへの想いを胸に出版社を目指し始めた。とはいえ出版社が難関であることも承知していたので、念のために幾つか他業種にも応募していた。 最初に選考が始まったのは他業種の方だった。 「志望動機は?」 「どんな商品を開発したい?」 投げかけられたのはお決まりの質問ばかりだったが、なかなかスムーズに答えることができなかった。もちろん事前にそれっぽい答えは準備していたが、漫画に携わりたい本心を隠して嘘を並べることにはどうしても抵抗感があった。そんなモヤモヤした心持ちで過ごした10分足らずの面接は、途方もなく長く感じられた。 時は流れ、待ちに待った講談社の一次面接。 緊張はしていたものの、編集者の方と漫画について語れると思うと胸が躍った。 「志望動機は?」 「どんな作品を作りたい?」 同じような質問でありながら、相対する私の心持ちはまるで違った。自分に嘘をつかずに素直な想いを伝えられる喜びからか、言葉は口を衝いて出てきた。 好きなことを語り続けた数十分の面接時間は、本当にあっという間に感じられた。 ——やっぱりここしかない! この日改めて自身のやりたい事を確信した私は、他業種をほぼ全て辞退し、出版社めがけて突っ走ることを決意した。無謀な挑戦ではあったが、私の覚悟が通じてかことの外順調に選考は進み、講談社から内定を頂くことができた。三次面接では熱が入り、面接官の漫画観に反論してしまったこともあったが、どうやらそんな生意気さも気に入ってもらえたようだ。 結局、「好き」がシンプルにして最強だと思う。自分で言うのもなんだが、私は漫画について語る時が一番活き活きしている。皆さんも就活の時こそ、自分の「好き」を大事にしてほしい。その溢れんばかりの想いは、きっと相手の心に届いてくれるはずだ。
ESSAY「好き」こそ最強!文系・関東・四年制大学卒業見込み
/男性/コミック志望私はヒーロー漫画好きの少年だった。そんな私が夢見たのは、ペン一本で手に汗握るドキドキ感を創り出す漫画家。しかしその道は険しく、就活生になった私は、漫画作りへの想いを胸に出版社を目指し始めた。とはいえ出版社が難関であることも承知していたので、念のために幾つか他業種にも応募していた。
最初に選考が始まったのは他業種の方だった。
「志望動機は?」
「どんな商品を開発したい?」
投げかけられたのはお決まりの質問ばかりだったが、なかなかスムーズに答えることができなかった。もちろん事前にそれっぽい答えは準備していたが、漫画に携わりたい本心を隠して嘘を並べることにはどうしても抵抗感があった。そんなモヤモヤした心持ちで過ごした10分足らずの面接は、途方もなく長く感じられた。
時は流れ、待ちに待った講談社の一次面接。
緊張はしていたものの、編集者の方と漫画について語れると思うと胸が躍った。
「志望動機は?」
「どんな作品を作りたい?」
同じような質問でありながら、相対する私の心持ちはまるで違った。自分に嘘をつかずに素直な想いを伝えられる喜びからか、言葉は口を衝いて出てきた。
好きなことを語り続けた数十分の面接時間は、本当にあっという間に感じられた。
——やっぱりここしかない!
この日改めて自身のやりたい事を確信した私は、他業種をほぼ全て辞退し、出版社めがけて突っ走ることを決意した。無謀な挑戦ではあったが、私の覚悟が通じてかことの外順調に選考は進み、講談社から内定を頂くことができた。三次面接では熱が入り、面接官の漫画観に反論してしまったこともあったが、どうやらそんな生意気さも気に入ってもらえたようだ。
結局、「好き」がシンプルにして最強だと思う。自分で言うのもなんだが、私は漫画について語る時が一番活き活きしている。皆さんも就活の時こそ、自分の「好き」を大事にしてほしい。その溢れんばかりの想いは、きっと相手の心に届いてくれるはずだ。
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はじまりは愛
文系・関東・四年制大学卒業見込み/女性/文芸志望
本が好きだから、出版社に行きたい。いちばん好きな本が講談社から出ているから、講談社に行きたい。純粋さは時に美しく、時に残酷だ。「第一志望だけ受けます、落ちたら就浪します!」そう潔く腹を括れればよいのだけれど、たいていの就活生は、そしてわたしも例に漏れず、そんなに強靭ではない。 面接用の自分を受ける会社の数だけ用意して、お祈りメールの数だけ自分が否定されているような気がする、そんな日々。そして落ちた会社ほど、なんだか本当に「行きたかった」ような気がしてきてしまうのだ。いつしかわたしは自分が何をしているのか、何がしたいのかがわからなくなっていた。なんとかしてどこかに内定をもらわなければ、という危機感だけが募っていく。情緒不安定になり、よく泣いた。それでも、前に進みつづけた。そしてついに、あるコンサルファームから内定をもらうことができた。学部三年の冬だった。 ようやく心に余裕ができて、将来についてちゃんとイメージを描こうという気になった。コンサルタントのわたし。仕事と家庭を両立して、バリバリ活躍しちゃうわたし。あれ、わたし、どうしてコンサルになりたかったんだっけ。そもそも本当になりたかったんだっけ。わたしが本当になりたいものってなんだっけ。 思い出した。わたしのために書かれている、と心の底から疑わない小説に出会ったときの高揚感。小説をネタに何時間でもクラスメイトと語り合い、制服のままサイン会に走り、講談社宛てに好きな作家へのファンレターを何通も送っていた高校時代の情熱を思い出した。そしてそれを、その幸福な瞬間を、わたしはこの先、一生忘れることができないと思った。 就活は、あなたが本当になりたい自分を見失わせるかもしれない。それでも、たとえ見失ってしまったとしてもまた思い出せるように、心にとどめておいてほしい。あなたの人生を支え、そしてあなたが人生を共にしたいと思うものが何だったのかを。
ESSAYはじまりは愛文系・関東・四年制大学卒業見込み
/女性/文芸志望本が好きだから、出版社に行きたい。いちばん好きな本が講談社から出ているから、講談社に行きたい。純粋さは時に美しく、時に残酷だ。「第一志望だけ受けます、落ちたら就浪します!」そう潔く腹を括れればよいのだけれど、たいていの就活生は、そしてわたしも例に漏れず、そんなに強靭ではない。
面接用の自分を受ける会社の数だけ用意して、お祈りメールの数だけ自分が否定されているような気がする、そんな日々。そして落ちた会社ほど、なんだか本当に「行きたかった」ような気がしてきてしまうのだ。いつしかわたしは自分が何をしているのか、何がしたいのかがわからなくなっていた。なんとかしてどこかに内定をもらわなければ、という危機感だけが募っていく。情緒不安定になり、よく泣いた。それでも、前に進みつづけた。そしてついに、あるコンサルファームから内定をもらうことができた。学部三年の冬だった。
ようやく心に余裕ができて、将来についてちゃんとイメージを描こうという気になった。コンサルタントのわたし。仕事と家庭を両立して、バリバリ活躍しちゃうわたし。あれ、わたし、どうしてコンサルになりたかったんだっけ。そもそも本当になりたかったんだっけ。わたしが本当になりたいものってなんだっけ。
思い出した。わたしのために書かれている、と心の底から疑わない小説に出会ったときの高揚感。小説をネタに何時間でもクラスメイトと語り合い、制服のままサイン会に走り、講談社宛てに好きな作家へのファンレターを何通も送っていた高校時代の情熱を思い出した。そしてそれを、その幸福な瞬間を、わたしはこの先、一生忘れることができないと思った。
就活は、あなたが本当になりたい自分を見失わせるかもしれない。それでも、たとえ見失ってしまったとしてもまた思い出せるように、心にとどめておいてほしい。あなたの人生を支え、そしてあなたが人生を共にしたいと思うものが何だったのかを。